癒しをください
衝撃の出来事から数日。私はまた例の森にいた。もしかしたらひょっこり戻ってきたあの白竜が地面に伏して暖かい陽の光を浴びているかもしれない。そう思って。けれどいつ来ても結果は同じ。あるのは白竜がいた跡の残った地面だけで、あの美しい姿はどこにもなかった。
(いない、か……)
私は何にがっかりしているんだろう。折角自分が綺麗に磨き上げた石像がなくなってしまったことが残念なのだろうか。それとも自分だけの秘密の休憩所だと思っていた場所が変わってしまったのが悲しいのだろうか。
どちらにせよ、白竜のいないこの場所は私の心を癒してはくれない。そう言えばあれから野うさぎも寄ってこなくなった。あの子も実は私のお弁当目当てじゃなくて、白竜に会いに来ていたのかもしれない。
仕方なく日当たりの良い木の幹によりかかってお弁当を広げる。冷静になって考えてみてもあれは不思議な出来事だった。何故お城の白竜がずっとこの場所に留まっていたんだろう。
私が白竜を見つけたのはいつだったっけ? 確か……あれは一年くらい前じゃなかった? でも見つけた時、その鱗が何色なのかも分からないぐらい土埃にまみれて汚れていた。森の中の岩のように苔まで生えていた。随分と長い間あの場所に居なければあそこまで汚れない筈。という事は一年半とか二年以上前からあの場所にいたのでは?
…………竜って、そんなに長い間動かずにいても生きていけるものなのかな。それとも私がいなくなった後にこっそり動いてエサを獲ったり水を飲んだりしていたのかな。それにしてはあの周りに動いた跡なんてなかった。あれほど大きな生き物が動けば、地面に足跡がつくだろうし、やっぱり動いてなかったのかも。
竜の寿命は何百年と長いという。寿命が長く大きい生き物ほど鼓動が遅く、代謝速度が緩慢だから竜はそれほど頻繁に食料を摂取する必要はないのかもね。
「あ……」
白竜についてあれこれ考えていたら、いつの間にか足元に野うさぎが寄ってきていた。君はやっぱりお弁当目当てだったの? 冷めたポテトを近くに置いてあげれば、ふんふんと口元を動かし、食べ始める。
いつもと同じ日常だけれど、何か足りない。白竜は私にとって動かないただの石像だった筈なのに。
(変なの……)
変だよ。こんな気持ちになるなんて。寂しいと思うなんて。それとも私は石像の近くにいることで一人じゃない気分にでもなっていたのだろうか。
本当はいつだってひとりぼっちなのに。




