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【エピローグ】 紅の地竜と天竜の娘(4)

 夏節祭で賑わう城下街を歩きながら、ふと足が止まる。そこは何もない、陽の当たらない細い路地裏。その場所を一瞬視界に収めて、僕は知らず知らずの内に溜息を漏らしていた。そしてまた歩き出す。陽気な音楽に人々の笑顔。けれど僕の表情はそれらの光景に似合わないものになっているだろう。


 先程の路地裏は僕が初めてアカリと会った場所だ。あれから何度か夏節祭が巡って来た。その度にあの場所を覗いてしまうのはどこかで彼女とまた会えるのではと期待しているから。


(馬鹿だな……)


 視線を下げて自嘲する。彼女の幸せを願って手を離したのは自分くせに。

 あれから何度か夢を見た。真っ白な空間に僕が立っている。そして十メートル程先には一人の少女が立っている。彼女は決してこちらを向かない。僕も彼女へは近付かない。いや、近づけない。彼女の居る方へ歩こうと思っても、見えない壁に阻まれて先へ進めないのだ。

 僕は壁に縋って、彼女を見つめ続ける。彼女の横顔は笑っていた。幸せそうに。それを見て安堵を覚え、けれど直ぐに切なさに胸が締め付けられた。僕は居なくても彼女は幸せなのだ。彼女――アカリに僕は必要ない。僕にはアカリだけが必要だけれど。


 陽が沈みかけた夕暮れ時。城下街が赤く染まる。そろそろ今年の夏節祭初日も無事に終わる頃だ。僕は屋台をひやかす事もせずに真っ直ぐ城へと戻った。

 従業員用の出入り口から城内へ入り、王族や客人が通らない廊下を進む。一度レビエント殿下へご挨拶してから自宅に戻るつもりだった。けれど殿下の私室へ向かう途中、バタバタとこちらに駆けて来る幼い少女を見つけた。夕陽にも負けない鮮やかな赤髪に華やかなピンクのドレス。


「レティシア姫? どうなさったのですか? 廊下を走っては……」

「もー!!! おっそーい!! 何してたの! 早く早く!!」


 走る彼女に手を引かれ、僕も早足で廊下を進む。何か緊急事態でもあったのだろうか? それならばレティシア姫自らが僕を呼びに来るなんておかしい。彼女に質問しても「いいから早く!」と言われるばかりで答えは返ってこず、仕方なく黙ってついて行く事にした。


 レティシア姫が足を止めたのは王城の中心、王座の設けられた広間だ。各国の王族の方々が現在我が国を訪問しているが、夜会は明日の筈。今夜使用する予定は無い。


「あの、レティシア姫……。ここに何か?」

「ほら! 入って入って!!」


 強引に背を押され、両開きの扉を開ける。すると何故か広間には煌々と明りが灯されていた。その中心には人だかり。何をしているのだろう。そこにはレビエント殿下を初め、他国の王子や妃の姿もある。

 入室した事に気付いた王族の方々が僕に道を開けるように立ち位置をずらした。途端に僕は息を飲む。


 これは何だ? 夢の続き?


 彼らに囲まれるようにして一人の女性がこちらに背を向けて立っている。背の中程まである落ち着いた茶色の長い髪。すらりと伸びた手足。僕の知っている姿ではない。けれどそれが誰であるのか僕には直ぐに分かった。

 頭で考えるよりも先に胸の奥深くに眠っている竜の本能が彼女を求めて吠える。


「…ア、カリ……?」

 

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