【エピローグ】 紅の地竜と天竜の娘(2)
「ちょっと、燈里! あんたまた断ったでしょ!」
短大内のカフェ。目の前の席で高校からの女友達が目を吊り上げて怒っている。心当たりがあり過ぎるあたしは飲んでいたオレンジジュースから口を離してすぐに謝った。
「ごめん」
「もうっ! 折角合コンに呼んでいるんだから、ちょっとは前向きになったら?」
「……うん。ごめん」
歯切れの悪いあたしの返事に友達はハァと溜息。
「そんなに良い男なワケ?」
「へ?」
「あんたが忘れられない昔の男って」
「んなっ!! べ、べつにあたしの男ってわけじゃ……」
「はぁ!? じゃあ何? 片想いだったの?」
「……うん、まぁ」
「燈里って、意外にオトメ?」
「何それ」
「だって片想いの相手がずっと忘れられないなんてさぁ。純愛ってカンジだけど、まさかこのままずぅ~とそいつの事想い続けるわけじゃないでしょ? 男は一人じゃないんだから」
「分かってるけど……」
「ま、無理強いする気は無いけど。でも新しい恋しなきゃ勿体無いよ。あ、もう時間だ。バイト行かなくちゃ」
「うん。じゃあね」
慌しく友達がカフェを出て行く。その後姿を見送って、あたしはだらしなく椅子の背もたれに寄りかかった。
(新しい恋、ねぇ……)
高校1年の夏、あたしは偶然別の世界に行ってしまうという珍体験をした。無事に戻ってきてまず驚いたのは、こっちでは全く時間が経っていなかったって事。帰る為に必要だったのがあたしの番となる竜の強い願いだったから、もしかしたら帰った後あたしが困らないように、来た時と同じ時間に戻れるよう願ってくれたのかもしれない。
家族には面白い夢を見たと言ってあっちの世界の事を話したけれど、それからはまるであの体験など無かったかのように時が流れた。予め携帯のメアド交換していた千紘さんから同じ年の秋に連絡が来て、やっと夢ではなかったんだと実感出来たくらいだ。それから千紘さんとは定期的に連絡を取り合っている。
その後なんとか高校卒業して、短大に入学。途端にやたら合コンの誘いが来るようになって、あたしはやっと気付いた。そう、やっとだ。
高校の時にも同級生に告白された事はあった。合コンに行ってみて、遊びの誘いも何度かあった。けれどその度に思い浮かぶのはイースの顔。あっちの世界で出会った若いのに説教臭い、真面目な眼鏡男。
最初は小うるさいヤツだなぁ、としか思わなかった。だけど一緒に過ごす時間が増える度にあいつがどれだけ頑張って仕事をしているのかとか、あたしを気遣ってくれる優しい所とかが見えてきて、段々打ち解けていった。
こっちに帰ってきて、丸三年。あたしはようやくイースの事がいつの間にか好きだったんだと気がついた。一緒に居たいのは、遊びに行きたいのは、特別なのはアイツなんだと気がついた。
ほんと、今更だよ。だってもう会いたいと思っていたって会えないのに。
違う世界のヤツに恋するなんて、あたしってホント間抜け。




