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見えない答え

 新節祭で騒がしかった街や城内も深夜になれば聞こえてくるのは窓の外をかける風の音だけ。

 何度寝返りをうっても眠気はやってこない。理由は分かっている。これからどうすれば良いのか。そんな漠然とした不安が頭を占めているから。いくら考えた所で正解なんてものはどこにもなくて、いい加減考える事すら嫌になった時、静かに寝室の扉が開く音がした。


「……セナード?」

「…………」


 何も言わずにベッドの脇まで来るとセナードが何か言いたげな視線を向けてくる。彼も寝る前だからかラフな服装をしていて、王子様な格好じゃないことがやけに私をほっとさせた。なんとなく彼の言いたい事を察してベッドの端を開け、掛け布団をまくってみる。


「……入る?」


 コクン。予想通り、セナードの首が縦に動く。

 彼はさっと身軽にベッドに乗り上げると、優しく私の腰を抱き寄せた。いくら夢の中で会っていたとは言え、今日初めて会った人だというのに抵抗する気は起きない。それどころかこうして体温を分け合えるのは気持ちが良いとさえ思う。

 しばらく彼の温もりを感じて目を閉じていると、セナードがぽつりと呟いた。


「……ヒナタ、帰りたい?」


 どこへ、なんて聞かなくても知れた事。それは同じ境遇だという女性達の話を聞いた時からずっと考えていた。それでも驚くほどあちらの世界に未練はない。風音ちゃんのように両親に話をしたいとも思えなかった。

 常識的に考えれば、家族にくらいは会って事情を話した方が良いとは思う。けれどそれはあちらの『常識』に今の『状況』を当てはめた場合の話だ。

 それは自分の気持ちとは全く違う。それどころか本当のことを話したら、頭がおかしくなったと思われて精神科医にでも通わされるかもしれない。他人が聞いたら大袈裟だというかもしれないけれど、決して大袈裟ではないことは自分自身が一番分かっている。もしこの世界に来る前に自分の兄が同じ事を言ったら、私だって働き過ぎでどうかしてしまったと思うだろうから。

 そう言う場所にずっと私はいたのだ。けれどそんな冷たい所から連れ出してくれたのはセナードだった。そして人の温かさを教えてくれたのは、愛情に触れさせてくれたのはこの世界の人達だった。彼の為に出来る事があるのならなんでもしてあげたい。もし私が此処に残る事でそれが叶うのであれば、いくらだって傍にいてあげたいと思う。


 でも、一つだけ心に引っかかっている事がある。それは、自分のようにつまらない人間に彼の気持ちがこの先ずっと変わらずにいる訳がないと思うこと。いつか彼の気持ちが自分から離れた時、またひとりぼっちになる。大学受験を終えた時のような、期待を裏切られた気持ちを味わう事になる。それが、怖い。

 いくらセナードが王族で竜の血を引いていると聞かされても、竜の性が番を求め続けるものだと聞かされても、その不安が薄れる事はない。


 私は今まで周囲から見れば高収入な親のお陰で恵まれていると思われてきた。同級生達からは羨ましいといわれる立場だった。でもね、羨ましかったのは私の方。授業参観の時、運動会の時、三者面談の時。いつもお母さんやお父さんが来てくれる皆が私はとても羨ましかった。

 また自分だけが孤独であることを突きつけられるのなら、私は……


「ヒナタ?」


 いつまで経っても答えない私の様子に不安になったのか、セナードの瞳が揺れる。


 ごめんね、セナード。私……、自分の事しか考えられないぐらい弱くてごめんね。

 

 



【千紘side】


「協力してくれるわよね?」

「いやだ」

「無理」


 さっきからこれの繰り返し。白の王城で夕食をご馳走になり、用意して頂いた私の客室で今後の話を始めた所、私と双子はずっと押し問答を続けていた。


 私の要望は唯一つ。彼らに元の世界に帰る手助けをしてもらうこと。だって彼らが私を帰したいと強く願ってくれなくては、私の願いは叶わないからだ。けれど彼らの答えはNOばかり。ここは良い手を考えなくては。


「そう、なら今後一切私には近付かないでよね」

「えぇ!」

「なんでそうなるのさ!」


 案の定文句を言ってくる二人。けれど文句を言いたいのは私の方だ。


「最初に約束したでしょう。私が貴方達の傍に居るのは元世界に帰るまでだって。それを邪魔するのだったらここに居る理由なんてないもの」


 ワザと厳しい表情で言えば、私の本気が伝わったのかしばらく部屋に沈黙が落ちる。先に口を開いたのはナルヴィだった。


「分かった」

「へ?」


 あら、もっとダダこねられると思っていたのに、意外とあっさり了承したわね。すると今度はナキアスが私を見る。


「その代わり、チヒロが帰るまでは俺達の傍にいるんだからね」

「え、えぇ……。分かってるわよ」

「その言葉、撤回するのは無しだからね」

「だから分かってるってば!」


 やけにしつこく確認するわね。最初から私はそう言ってるのに。するとナルヴィがソファに座っていた私の手を取った。


「言っておくけど、チヒロが帰ることが出来るのは今年の秋節祭だよ」


 次にナキアスがソファの背から抱き込むように私の首に腕を回してくる。


「それまでの九ヶ月間、片時もチヒロの事離さないから覚悟して」


(きゅ、九ヶ月!?)


 彼らの言葉を理解した途端、サーッと血の気が引く。

 し、しまった~~~~!! この双子がただで転ぶわけがなかった!!


 その日、私は朝日が昇るまでずっと双子から解放されることはなかった。そしてこれからこんな夜が毎日続くことを確信して、更に顔が青ざめるのだった。

 

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