据え膳を与えてはいけません
日光を浴びてキラキラ光る銀色の髪はうなじ部分が短く、前髪は長めに整えられている。私を真っ直ぐに見つめる瞳も同じく銀色。肌は日焼けしたことあるんですか?と言いたくなる程白くてきめ細かい。まず間違いなく白の国の人だろう。あまりのイケメンぶりに非難する言葉も忘れて魅入ってしまった。
はっ!! コラコラだめよ、しっかり! いくらイケメンでも痴漢は犯罪なんだから! ここはびしっと言わなくちゃ! あぁ、でででも逆ギレしてもっと酷いになったら……。
声が震えそうになるのをなんとか叱咤して深呼吸。意を決して口を開いた。
「あ、あの……」
「…………」
「は、離してください!」
「…………」
「…………」
「…………」
「……あの、私の話……聞いてます?」
いつまで経っても返事がないので不安になって訊ねてみれば、コクンと頷かれた。いや、聞いてるなら離してください。
「だから、腕を離して欲しいんですけど」
「…………」
「…………」
「…………」
「ダメなんですか?」
再びコクン。なんだろう、この人。もしかしてしゃべれないのかな。こうして私を抱きとめているのは何か特別な事情があるとか? けど、いい加減人の目が気になってきた。ここは天下の往来。しかも新節祭の為に国内外から沢山の人が集まっている。
あぁ! 待ってください! そこのお母さん! 若いっていいわねぇ的な生ぬるい視線をこっちに向けないで! それ間違っているんです!!
居た堪れなくなった私は、なんとかこの状況を打開すべく頭を捻る。
「あ、あの! 一先ずもっと静かな所へ移動しませんか!!」
はい、出ましたコクン。
わわわっ!! ちょっと待って! 私を抱きしめたまま移動しないで! 転ぶ! 確実に転ぶから!!
私が歩きにくそうにしているのが分かったのか、イケメンさんは腕を離してくれた。その隙に逃げ出そうかと一瞬思ったけれど、すぐに腕を拘束されてアウト。
静かな場所と言っても、王都のどこもかしこもお祭り騒ぎで所狭しと屋台が軒を連ねている。そんな所あるのだろうかと思いつつ、彼に腕を引かれてひたすら歩く。十数分歩いた所で辿り着いたのは緑の多い広場だった。中心では大道芸を披露している人達が居て賑やかだけど、奥まった木々の茂る場所へ行けば喧騒から離れて静かになる。そこで彼は大きな木の根元で腰を下ろした。そしてそのまま私の腕を引っ張り座らせる。
「きゃっ!!」
ストンと納まったのは彼の足と足の間。そしてここでもやはり後ろからぎゅっとされる。もしかしてこの人、単にだっこが好きなの? それにしたって初対面の相手を行き成り抱きしめたりする?
はっ! そういえばこの人痴漢だった!! 痴漢に「静かな場所へ行きましょう」なんて私大馬鹿!!? 据え膳どうぞと言ってるようなものじゃない!! 私のばかぁぁぁ!!!
橋口ひなた。人生最大のピンチ!! ……かもしれません。




