初体験は異世界で
「すごい……」
思わずポカーンと目の前の光景に驚く私に、村から一緒に王都まで来た女の子、モリーが笑った。
「あはははっ。ヒナびっくりしすぎ」
「だっだって! こんなに大勢の人見たの初めてだから」
「まぁ、ずっと村にいたんじゃそうよね」
元々人ごみは苦手だから東京でもそれほど人が集まりそうな所には行かなかった。覚えている限りでは正月の伊勢神宮ぐらいじゃなかったっけ。けれど新節祭初日を迎えた白の国の王都はその何十倍もの人が集まってるように見える。
「よっしゃ! とりあえず色々店巡ろうぜ! 腹減った!」
「まぁ、パレードまで時間あるし、ぶらぶら歩こうか」
「パレード?」
先頭を歩くのは早速屋台を物色しているヒュージ。彼について行きながら、私は首を傾げる。
「あら、知らない? 新節祭には各国の王族がこの国に集まることは話したでしょ? 初日にはね、王族の人達がメインの大通りでパレードするのよ。私達庶民にとっては他国の王族の方々に直接お目にかかれる滅多にないチャンスってわけ」
「なるほど……」
「いい場所とるには体力つけなきゃな! というわけで腹ごしらえだ!」
「ヒュージはただ食べたいだけだろ」
「うっせ!」
わいわいと皆で騒ぎながら王都を散策。けれどずごい人ごみ。はぐれないよう彼らの背中を追いつつも、ついつい初めて見る屋台や建物、他国の観光客たちに目は奪われてしまう。そして気付いたらいつの間にか――
「うそ……」
慌てて周りを見渡すけれどヒュージもルーカスもモリーもいない。
(えぇ! はぐれちゃった?)
知らない土地で、しかもよりによってこんなに沢山の人が集まっている日にはぐれてしまうなんて……。下手したら今日一日合流できないかもしれない。幸い遠方から来ている私達は王都から少し外れた場所にある宿屋に部屋を取ってある。探して見つからなくても宿に戻れば夜には合流できる筈だ。でも……
(はぁ。ついてないなぁ……)
折角のお祭りに一人なんて。そう思って溜息を吐いた瞬間、ぎゅっと後ろから体を拘束された。
(え……?)
咄嗟に目線を下げれば体には自分よりも太い腕が回っている。間違いなく男の人の腕だ。その腕が私の動きを封じるように抱きすくめていた。
(ちちちち痴漢!?)
今日は本当についてない。それに叫ぼうにも体が萎縮してしまって声が上手く出てくれない。
恐る恐る後ろを振り向けば……そこには後ろから私の顔を覗きこむ若い男性の姿。
人生初、まさかの痴漢は銀髪銀目の恐ろしく整った顔をしたイケメンさんでいらっしゃいました。
【三時間前 翠の国】
「リ、リアスくん!?」
朝目が覚めたら、目の前には私の腰をぎゅっと抱きしめているリアス君がいた。私は慌ててシーツをまくる。リアス君は眠っている訳ではなかったみたいで、じっと私を見上げていた。
けれど一体どうしたんだろう? 今までの季節祭では出発前に渋っても、途中で帰ってくることなんて無かったのに。
「急にどうしたの? 新節祭は今日からでしょう? あ、まさか具合悪いの!!?」
リアス君と自分の額にそれぞれ手を当てて熱を比べてみても左程違いはない。顔色も悪くないしなぁ。
するとリアス君は首を横に振った。
「具合が悪いわけじゃないのね?」
「……うん」
「……何かあった?」
リアス君は言いづらそうに私から目を逸らしてしまった。私はそっとリアス君を抱きしめ返す。同時に私の背中に回った腕に力が篭った。
「リアス君?」
「カノン……」
「うん?」
「……隠していた事がある」
本当は、もう既に冬節祭の時にはレビエント殿下から聞かされていた真実。
リアス君は痛いくらい私を抱きしめながら、その全てを話してくれた。




