いろんな意味で急展開
今日も村とは反対側の竜のお腹辺りに座る。この場所は丁度陽が当たって気持ちが良い。
お弁当を広げて早速口にすれば、竜の尻尾の辺りからぴょこぴょこと茶色の野うさぎが顔を出した。
「ふふっ、すっかり覚えられちゃったな」
サンドウィッチに挟まったキャベツを抜いて、近くに置いてあげる。するとフンフンと匂いを嗅いだ後、野うさぎはそれを口にした。カリカリと小さな音が聞こえてくる。
実は一月ぐらい前に一度お弁当を分けてあげてから、度々私が来ると近くに寄ってくるようになったんだよね。
(可愛いからいいけど)
うさぎの可愛さに癒されながら、自分もお昼ごはんを食べ進める。今日もいい天気。冬が去ったばかりでまだ風はちょっと寒いけど、日光に当たっていればそれほど気にはならない。
ご飯を食べ終え、荷物を片付けてうーんと腕を伸ばす。このまま昼寝に突入したい気分。けど温かいとは言えまだ初春。うっかり外で眠ってしまえば、下手すれば凍死。命に関わる。
うとうとする瞼と格闘していると、突然複数の足音が聞こえてきた。
(え?)
音は私が来た村の方から。村の人かな。それにしてはやけに急いでいるみたい。足音に続いて耳に届いたのは聞き馴れない男性の声。
「おい! 見つけたぞ!!」
一瞬で背筋が凍る。私はこの場所でうとうとしていただけで何もやましい事はないのだけど、悪い事を見つけられてしまったみたいに心臓が暴れだす。でも彼らが『見つけた』と言ったのは私の事ではなかった。当然だよね。冷静になってよく考えれば分かる事。私が今座っているのは石像を挟んで村とは反対側。彼らからは完全に死角になっているのだから。
(なら、見つけたって……この石像の事?)
もしかして、この石像著名な彫刻家が造った作品とか? それとも国の重要文化財に指定されている有名な遺跡? 勝手に手を触れてはいけないものだったのかも。
訳が分からないけれど、知らない男の人達がすぐ傍に集まっているのかと思うと怖くて足が竦む。思わず息を殺し、私は石像の傍にぴったりと身を寄せた。
「まさかこんな所に……」
恐る恐る尻尾側から覗けば、見えたのは鎧を着た男性数人。腰には剣が下がっている。知らない顔だ。明らかに村の人ではない。
(もしかして、騎士?)
今私がいる国は王制。王族が国を治めていて、国を守る組織として騎士と呼ばれる人達がいる。私に出来るのは彼らの服装から騎士だろうという推測だけ。だって今まで騎士なんて見たことが無いもの。こんな田舎に住んでいたらそれも当然なのだけれど。
でももし彼らが本当に騎士で、石像に勝手に触れたことを咎められて、牢にでも入れられてしまったらどうしよう……。
「お探ししましたよ! ご無事で良かった!!」
(ご無事??)
あれ? もしかして、私以外にも誰かいる? 姿は何処にも見えないんですが。
……まさか、霊的なアレじゃないよね?