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青い春は記憶の遥か彼方

「今までの仮説を踏まえて考えるならば、三年前に出会っているであろうセナードのつがいはやはり君たちと同じ境遇の人間であると考えられるのだな」


 硬い声で考えを纏めるセドア殿下に私も頷く。


「そう言うことですね。こちらに来た原因が竜の力によるものならば、私達が竜の血を引く王族の方々の傍に現れたのも当然です。そしてこの世界に来た最初の人は白の国に現れ、セナード殿下の番だった。そう考えれば私と美波ちゃんの仮説が成り立ちます」


 言語の問題も仕組みはともかく、それがこの世界で共に生きる為に竜が求めた結果ならば説明が付くしね。

 すると今度は燈里ちゃんと美波ちゃんがセドア殿下に質問をした。


「そういえばさ、いなくなったセナード王子が見つかったのって結局どこだったの?」

「北東の端にある森の中です」

「近くに人里はないのですか?」

「プレモという小さな山村がありますよ」

「!? じゃあさ、そこに番の人がいるんじゃないの?」


 確かに意味も無くセナード殿下が偏狭の村にずっといるとは考えられない。理由があるとすればそれは番がそこで生活しているからに違いないわ。私は燈里ちゃんの意見に同意した。


「その可能性は高いわね」

「ならそこに行こうよ! 小さいトコならきっとすぐその人見つかるじゃん!」

「おや一つ忘れているね」

「?」


 興奮気味の燈里ちゃんに釘を刺したのはレビエント殿下だった。


「この国は新節祭のホストだよ? つまり、白の国の多くの国民だって王都に集まっている。この機を逃すのは早計だと思うね」


 彼の言う事も最もだわ。年に一度の行事ならば各地から人がここに集まる。セナード殿下の番がこちらに来ている可能性だってあるわよね。


「確かにそうですね」

「ではどうしますか? 千紘さん」

「二手に分かれるしかないわね」


 美波ちゃんの問いにそう答える。すると燈里ちゃんがこちらを見た。


「プレモ村に行く人と、王都を探す人ってこと?」

「えぇ……、ってちょっと何!?」


 頷くと同時に両側から肩をがっちり掴まれてしまった。何事かと思えば、ナキアスとナルヴィが私の耳元に顔を寄せている。


「チヒロはこっちに残ってくんなきゃダメだよ」

「俺達の傍から離れるなんて絶対ダメだよ」

「今はそんなこと言ってる場合じゃ……」

「チヒロがその村に行くなら俺達もついてくから」

「何言っているの!! あんた達は仕事があるでしょうが!」

「なら残ってくれるよね?」

「…………」


 私がここに残る事が、二人が大人しく此処で仕事をする条件って事? これを飲まなきゃ……後で各国の重鎮に迷惑が掛かるんじゃないの? これって脅しと一緒じゃない!!

 思わず私が言葉を失っていると、ハイハイ!と燈里ちゃんが手を上げた。


「ならあたしが行くよ」


 するとすぐにレビエント殿下が後ろに控えていた青年を見る。


「イース」

「はい」

「アカリに同行してくれるかい?」

「承知致しました」

「へ? イース仕事は?」

「元々僕はアカリの道案内の為にこちらにいますからね。此処に残っても仕事はありませんよ」

「あぁ、そっか。ならラッキー」

「ラッキー??」

「一人で行くより一緒の方が良いに決まってんじゃん。な?」

「……そうですか」


(あらあら)


 先程まで硬い表情をしていた青年が照れているのか微かに頬を赤らめる。そんな二人をついつい生暖かい目で見守ってしまった。若いっていいわねぇ。

 

 



【燈里side】


「アカリ? まだ寝ないのですか?」


 いよいよ明日から新節祭。そして僕とアカリは早朝からプリモ村に向かって発つことになっている。

 レビエント殿下との打ち合わせを終え、早々に就寝しようと用意してもらった部屋に向かって歩いていると、客室がある階の廊下にあるバルコニーで一人夜景を眺めているアカリの姿を見つけた。


「お、イースお疲れ~」

「明日は早いのですから、もう寝た方が良いですよ」

「あぁ、うん」

「セナード殿下を見ていたのですか?」

「……うん」


 アカリが立っているバルコニーからはセナード殿下が眠っている裏庭を見ることが出来る。僕も静かに彼女の隣に立った。


「ねぇ、イース」

「なんです?」

「もしも自分の番がさ、あなたとは結婚したくないって言っても、竜はずっとその人だけを想い続けるモンなの?」


 竜の血が流れている者なら誰しも同じ答えを出すだろう。そしてその一人である僕もアカリの問いに迷い無く答える。


「そうですね。竜にとって番は唯一絶対の存在ですから。他に代わるものなどありえません」

「ふーん、そっか。それってさ、なんかだか運命的でロマンチックだけど、……ちょっとしんどいね」


 その言葉は僕にも重くのしかかった。確かに辛いだろう。例え番が手に入らなくても一生涯たった一人だけを想い続けなくてはならないのだから。


「……そうかもしれませんね」

「なんかさ、リーリアス王子見てたら可哀想だな、と思って」

「…………」


 目を閉じたまま動かないセナード殿下を見つめるアカリ。そんな彼女の横顔を僕もまた見つめている。


「あたしは元の世界に帰るのが当たり前だと思ってたけど、リーリアス王子みたいにさ、そのせいで苦しむ人もいるんだよね」

「……迷っているんですか? セナード殿下の番に会うこと」

「…………うん。そうかも。番の人を見つけて本当のことを知らせてさ、その人が帰りたいって言ったら、セナード王子はずっとこのままかもしれないじゃん? そう考えちゃうと、……どうしてもね」


 アカリの言葉一つ一つが僕の胸に突き刺さる。セナード王子の今の状況はそのまま僕にも当てはまる事だから。けれど、僕は彼と同じ事はしない。何故なら――


「僕は、アカリ達がしようとしていることは間違っていないと思います」

「え? なんで?」

「アカリ自身が言っていたでしょう? 選ぶのは本人だと。初めから選択肢を隠して選ばせるのは卑怯ですから。選んだ先の結末をどうするかはセナード殿下と彼の番に任せるべきことですよ」


 その言葉を聞いて、暗かったアカリの表情にほんの少し笑みが浮かんだ。


「……うん、そっか。ねぇ、イース」

「はい」

「ありがと」

「……どういたしまして」


 こんな風に誰かの為に悩む貴方だから、僕はこの想いを告げることはしないと決意しました。


 だからね、アカリ。君は何も気にせずに大好きな家族の下へ帰っていいんですよ。

 

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