美人の嫁は絶対しんどい
「えぇ、そうです。私達は竜の生態もその力にも詳しくはない。けれど私達の世界では出来ない方法で、こちらの世界から何らかの力が働いたとすれば、それは竜に起因するものだと思うんです」
あー、ナルホド。確かにあたし達とこの世界の違いを探すと真っ先に思い浮かぶのは竜だよな。でも竜ってそんな魔法みたいなことも出来るんだっけ?
するとそれまで黙って話を聞いていたセドア王子が真面目な表情で口を開いた。
「……竜は力のある生物です。物理的なものは勿論、神秘的なものも含めて。現に我らの先祖はその背に翼を得ました。地竜に翼をもたらしたのは彼の一途な願い。願い求める強固な意思が、彼に翼と望む未来を与えたのです」
あー、聞いたことある、その話。確かレティシアが好きだって言ってた物語じゃなかったっけ。アレって実話だったんだ。そういや、あたしが絵本だと思ってた建国の話も護国の歴史だったもんな。
「……竜が望み、私達がここに来たと?」
一人納得していると、千紘さんがセドア殿下にそう問いかけた。ん? なんだろう。その表情は冴えないように見える。気のせいかな? そんな彼女に応えたのはレビエント王子だ。
「寝物語になりそうな話だと思うかもしれないが、その可能性は捨てきれないと思わないかい?」
「え?」
「今も昔も変わらず、竜が何を置いても求めるものは己の番だ。そして、あなた方が此処に来た事によって番を得た者がいる」
そう言ってレビエント王子が同じテーブルに座っている人達を見渡した。
確かに美波さんはアークさんと、今は此処にいないリーリアス王子は風音って子と婚約を結んでいる。つまり彼女達は竜の番になったってことだ。
ん? 今レビエント王子が千紘さんを見なかった? なんだかやっぱり顔色が悪い気がするし、大丈夫かなぁ。さっきから黙っているナキアス・ナルヴィ王子は逆に楽しそうな顔をしている。不気味だ。
そんな妙な空気を払拭するようにアーク団長が落ち着いた声で言葉を紡いだ。
「突拍子も無い気はするが、確かにあり得ない話じゃない。彼女達の中から番を得たのは皆竜の血が濃い王族だ」
そしてアークさんは隣に座る美波さんと顔を合わせる。おぉ、なんかラブラブ?
……ん? ちょっと待てよ。もしもこの世界に来たあたし達が全員誰かの番なのだとしたら……
「え? じゃあ、あたしレビエント王子の番かもしれないって事?」
思わず口にすると、皆の視線を浴びてしまった。でもさ、今の話ってそういう事だよね?
皆が目を丸くしている中、レビエント王子だけが超絶美人な微笑を見せる。おわっ! なんかフェロモン増してない?
「そう言うことだね。どうするアカリ。今夜じっくり二人の今後について話し合おうか?」
「……いや、やめとく」
「おや、どうして?」
「自分で言っといてなんだけど、それだけは絶対無い気がするし。王子の隣にいる自分が想像つかない」
「……他人事だけど、私も同感だわ」
続いてそう呟いたのは千紘さんだ。やっぱそうだよね。
「残念だな。君が私の番になってくれたらきっとレティシアが喜ぶのに」
「そーかぁ? でも王子のファンを敵に回す方が怖いからいいや」
考えただけで恐ろしい。そんなあたしをレビエント王子がくすくす笑っている。
くそぉ、失言ってこういう事を言うんだろうな。




