推理してみましょう
「つまり、三年前にセナード殿下は番の方と出会っていた訳ですね」
番の方の傍に居る為にお城を出て行ってしまったのならば、突然の行動の理由にも説明がつきます。私の席の向かいで千紘さんも頷きました。
「なら話は早いわ。きっとセナード殿下は番と離れ離れになったせいで引きこもっているのでしょう。殿下自身に彼女の居場所を教えてもらうか、彼を見つけた騎士に居場所を聞いて番を探しましょう」
「でも、なんでそれだけで引篭ったのかな」
納得がいかない様子で燈里ちゃんが首を捻りました。
「“それだけで”って?」
「だって、竜が番に選ぶ相手は生涯一人だけって聞いたよ。皆それが分かってるんだから、セナード王子が誰を連れてきても反対なんてしないんじゃないの?」
その言葉を受けてセドア殿下も頷きます。
「確かにそうですね。例えそれが犯罪者であろうと、セナード自身が選んだ番であれば我々はそれを否定しません。否定する事に意味などないからです」
「でしょ? だったらさ、お城に戻って来いって言われたって、番の人をここに連れてくるなり、ちょこちょこ会いに行くなりすれば言い訳じゃん?」
成るほど。燈里ちゃんの意見は最もです。お城に帰ってきたって、番の方に会いに行くことはいつだって出来るのですから。
「そうね。私達の感覚だと、どうしても王族の婚姻って政治的な意味合いが強いから、周囲に認められた相手じゃないと難しい気がしてしまうけど、此処は相手が誰でも構わないんだものね」
「つまり番の方は護国の一般常識が通じない相手、ということでしょうか?」
「セナード殿下が一国の王子だと分かったら身を引いてしまうような、竜の気質を知らない他国の人ってこと?」
「王子の番が、実は異世界の人だったりしてね」
冗談のようなトーンで言った燈里ちゃんの言葉。実際言った本人も本気ではなかったのかもしれません。
「でも、セナード殿下が出て行ったのは三年前でしょ? いくらなんでも早過ぎるわ」
「早過ぎる?」
レビエント殿下の疑問に千紘さんが説明を続けます。
「私達がこの世界に来たのは“昨年”の季節祭の初日です。燈里ちゃんが夏、私が秋、美波ちゃんが冬。
風音ちゃんは恐らく春の筈です。季節祭の時に順番に私達が現れていると仮定すれば、白の国では今年か昨年の新節祭に現れている筈なんですよ」
「カノンが此処に来たのは昨年ではないよ」
「え?」
「確か“一昨年の春節祭”だと聞いているけれど?」
「まさか……」
私達三人は思わず顔を見合わせました。
「なら、白の国に現れるかもしれない方は、一昨年より前にこの世界に来ている可能性もあるってことですね」
「でも、いくらなんでも、セナード殿下の番と私達が探している子が同じっていうのはあまりに都合が良過ぎない?」
千紘さんはそう言うけれど私はその可能性は大いにあると気付きました。だって――
「都合が良いのはそれだけではないですよ」
「え?」
「私達の言語の事です」
「あっ……」
「言語?」
隣でアークさんが難しい顔をしました。私はその言葉にひとつ頷いて、同じ席についた皆さんのお顔を見渡します。
「皆さん、すこし私の仮説に付き合っていただけませんか?」




