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王子様は妄想中?

「リーリアスの事もひと段落ついたことだし、話を戻しても良いかな?」


 相変わらず穏やかな表情でレビエント殿下が話を進める。立ったままだった私達はセドア殿下に勧められ、皆で囲える大きなテーブルがある席に移動した。


「すいません。話が脱線してしまって」

「いや、リーリアスも大切な我々の仲間だからね。構わないよ」


 竜は家族という括りを持たない代わりに同族意識が強いというのは本当なのね。風音ちゃんの話をややこしくしてしまったのが自分だけに、セドア殿下の言葉はありがたいわ。


「あの、不躾で申し訳ないのですが、三年前にセナード殿下が出て行ってしまった原因は分かっているんですか?」

「いや、情けない事に……。話をしようにも帰ってきたと思ったらあの通りで、まだ声すら聞いていないんだ」

「そうでしたか」


 結構重症みたいね。これが日本だったら、若者が引きこもる原因といえば学校のいじめだとか、家庭の問題とかそんな所だろうけど。どちらもセナード殿下には当てはまらない。第二王子だから王位継承の問題でもないでしょうし。

 用意してもらったお茶を啜りながら考えを巡らせる。それも行き詰ってしまった時、燈里ちゃんが何気なく言った。


「引きこもるのってさ、別に嫌な事があった時だけじゃなくない?」

「どういう事?」

 

 引きこもる=現実逃避、じゃないのかしら? 首を傾げて見返せば、燈里ちゃんは言葉を続けた。


「だってさ、じっとして何も考えない時って、自然と色んなこと考えたり思い出したりしちゃうじゃん。だからさ、あたしは嫌な事があったらパーッと遊んだり楽しい事した方が気がまぎれると思うんだ」

「うん。確かにそうね」


 一人で悶々考えてしまうよりは、何か別のことで気を紛らわせた方がずっといい。


「でしょ? 逆に良い事があったら余計な事頭に入れずにその時の事思い出してにやにやしちゃったりして、何も手に付かなかったりしてさ」

「あー、あるある」

 

 良い事を出すと自然に口元が緩んだりしてね。あ、そうか、そういうこと。


「つまり、第二王子は良いことがあって竜のまま引きこもっているってこと?」

「うん。そんな気がするんだ」


 自信を持って首を縦に振る燈里ちゃんに、レビエント殿下が問いかける。


「例の勘かい? アカリ」

「うん。そう、カン」

「なら信じる価値はあるね」


 どういう事か分からない私達にレビエント殿下が意味ありげに微笑む。


「アカリの勘はよく当たるんだ。レティシアとイースから話は聞いているよ」


 勘、ねぇ。私の感覚からすると勘なんて曖昧なものに思えるけれど、殿下のお墨付きなら信じる価値はあるのかもしれない。すると私の両隣に座っているナキアスとナルヴィが口を挟んだ。


「しかもセナードにとって良い事って言ったら……」

「竜にとって最良の出来事と言えばつがい以外にないよね」

「既に出会った番との甘美な思い出に浸っている訳だ」


 実感の篭った彼らの言葉に竜の血を引く全員が頷いた。

 

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