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前へ進みましょう

「燈里ちゃん?」

「彼女の人生は彼女のモンって所はあたしも賛成。でもさ、その人生を一緒に歩きたいと思ってるわけでしょ。リーリアス王子は」


 確かに燈里ちゃんの言う通りです。リーリアス殿下は思わぬ所からの加勢に言葉を失っていました。


「ならさ、それを受け入れるかどうかを決めるのも風音って子の役目だよ。ここで言い合いしたってしょーがないじゃん」

「そうですね。まずは、彼女に全てをお話しすることから始めませんか?」


 私達の言葉に千紘さんはハーッと長い溜息を吐きました。つい熱くなってしまった自分に気がついたのでしょう。もう彼女の表情に厳しいものは見えません。


「そうね。ごめんなさい。ちょっと感情的になりすぎたわ」


 勝手な事を言って申し訳ありませんでした。そう千紘さんがリーリアス殿下に謝罪をしました。きちんと非を認めて冷静に場を治める事が出来る所が流石千紘さんです。

 一方、そう簡単に意見を曲げられないのか、リーリアス殿下は無言なままです。


「…………」

「リーリアスもそれでいいね?」


 レビエント殿下の言葉に彼はぎゅっと両手を握り締め、震える声で呟きました。


「…………分かった」


 風音ちゃんに私達の事を知らせれば何よりも愛しいつがいを失うかもしれない。そんな不安が彼を苦しめている筈です。その思いはこの世界で愛しい人を見つけた私にも分かる気がしました。

 けれど逃げてばかりはいられません。楽しい事だけの箱庭で人は本当の幸せを見つけることは出来ないからです。幼い殿下にもそれを分かってもらえるといいのですが。


 私達の境遇と元の世界へ帰る方法を探している事を聞くと、リーリアス殿下はそのまま部屋を出て行ってしまいました。新節祭の三日間はこの国に滞在しなければいけませんから、恐らく自国に帰りはしないでしょうが。少し気持ちを整理する時間が必要かもしれませんね。


「大丈夫かしら?」


 リーリアス殿下が出て行ったドアを見つめながら、千紘さんが不安気に呟きます。でもね、私は大丈夫だと思うのです。だって、誰よりつがいである風音ちゃんを大切にしているのはリーリアス殿下に他ならないのですから。


「風音ちゃんに真実を知らせる役目は彼に任せましょう」

「……そうね」


 千紘さんがついつい口を出したくなってしまうのはそれだけ会った事もない風音ちゃんを心配しているから。優しくて面倒見の良い方なのです。


「これで、いよいよ残るは白の国だけになったわね」


 そうです。翠の国にも私達と同じ境遇の方がいる事が分かった今、千紘さんの推理通りこの国にも新たな日本人が現れる筈です。

 そしてその為に、私達は今日此処へ集まったのですから。

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