お話し合いは難航中です
リーリアスと呼ばれた少年は私達と目を合わせようとせず、落ち着かない様子で目線を泳がせています。そんな姿に見覚えがありました。それは私が働いていた小学校で子供達が隠し事をする時と同じ仕草だったからです。
(もしかして、リーリアス殿下は……)
千紘さんが前に仰っていました。リーリアス殿下には婚約者がいると。それは些細な事でレビエント殿下に嫉妬するほど大切にしている相手であると。私や燈里ちゃんではなく、千紘さんを見て不安な表情を見せたのは、きっとその婚約者の方が千紘さんと同じように黒髪に黒い目をしているからなのではないのでしょうか。
レビエント殿下はただ静かにリーリアス殿下を見ていました。それはまるで家族を見守っているような温かさで。これが竜の絆なのですね。
「リーリアス殿下の婚約者の方は、今日はご一緒ではないのですか?」
「!!」
私の問いにリーリアス殿下は焦った顔を見せます。きっと今一番触れられたくない話題だからでしょう。それでも私達は前に進まなくてはいけません。勿論リーリアス殿下も一緒にです。
「……彼女は自国にいる」
「お名前を教えていただけませんか?」
「何故だ」
「是非一度お会いしたいと思いまして」
にっこりと微笑んでそう言えば、対称的に殿下は顔を歪めます。ぎゅっと握られた拳に彼の葛藤が見えるようです。
「……カノン」
「風の音、という意味があるそうだよ」
「!?」
ぽつりと呟いたリーリアス殿下に続いて、レビエント殿下が補足します。
あぁ、やっぱりそうなのですね。風の音と書いて『かのん』。まず間違いなく彼女は護国の民ではなく、日本人です。そしてそれを聞いた千紘さんと燈里ちゃんが表情を変えました。
千紘さんは厳しい顔で一歩前に出ます。
「リーリアス殿下……」
「カノンは渡さない」
私達が何者かまだ知らない筈なのに、まるで千紘さんに何を言われるのか分かっていたかのように、そして私達を威嚇するかのようにリーリアス殿下がこちらを睨みつけました。口にしたのは拒絶の言葉。婚約者であるカノンさんを手放したくないと、彼の強い意志が現れた言葉です。けれど千紘さんは続けました。
「それはこちらの台詞です。殿下」
「なんだと!」
「風音ちゃんの人生は風音ちゃんだけのものです。貴方に彼女の未来を縛り付ける権利はありません」
婚約者さんを守りたいあまり、真実を隠し選択肢すら与えようとしないリーリアス殿下を千紘さんは許せないようです。私達の立場からすればそれも当然でしょう。
「うっわー。子供にも容赦ないね、チヒロは」
「でも、分かってないのはチヒロも同じだ」
彼女の後ろからそう言ったのはナキアス殿下とナルヴィ殿下。そしてレビエント殿下がそっと続けます。
「そうと分かっていても諦められないのが竜だからね」
竜である彼らはリーリアス殿下の気持ちが分かるようです。
話合いは膠着状態かと思った時、「あのさぁ」と緊張感のない声を発したのは燈里ちゃんでした。




