穴があったら超特急で入りたい
「王族の者なら皆知っていることですが、セナードは三年前に突然姿を消しました。以来騎士達が捜索を続け、彼を発見したのはつい十日ほど前のこと。やっと王城に帰ってきましたが、あの通りずっと竜姿で眠りについたままなのです」
本当に弟王子を心配しているのね。深刻な表情で窓から白竜を見下ろすセドア殿下。けれど私は、その話を聞きながら嫌な予感をひしひしと感じていた。まさか、彼が初対面の私を相談相手に選んだ理由って……
「ナキアスとナルヴィも以前竜姿のまま戻らなかった事があったと報告を受けています。その時尽力したのがチヒロさん、貴方だとも」
うっ、やっぱり…………
および腰の私に対して端正な顔を悲しみで翳らせ、セドア殿下が縋るようにこちらを見る。
「お願いです。その時どうやって貴方が彼らを人へとお戻しになったのか教えていただけないでしょうか?」
「ど、どうやってって……」
い、言える訳ないじゃない。だってあの時は、私のせいで二人が竜になって森の奥深くに引き篭ったのよ。だから私が元の世界に帰るまでという条件で彼らを受け入れた。そしてそのまま彼らと――
「いいじゃない。困っているんだから教えてあげれば」
「そうそう。俺達のあつ~い夜のことをね」
顔を青くする私の両隣を陣取り、ニヤニヤと左右それぞれの耳に囁いてくるナキアスとナルヴィ。明らかに面白がっている双子。けれど目の前には真剣な表情で私の答えを待っているセドア殿下。
あぁ~~八方塞り!! 隣に立っているレビエント殿下も事情を知ってるんだから助けてくれればいいのに!!
その時、もう全員集まっていると思っていたこの部屋のドアが外から開かれた。
「遅かったね。リーリアス」
「…………」
姿を見せたのは小学生ぐらいの幼い少年だ。髪と目は新緑のような鮮やかな緑色。身につけている礼服も緑を基調としている。まず間違いなく翠の王子でしょうね。
にこやかに名前を呼んだレビエント殿下とは逆に、彼は機嫌の悪そうな表情を隠しもせずにこちらに歩いてきた。
「お呼びだと窺いましたが、セドア殿下」
「あぁ。到着した早々慌しくてすまないね。レビエントから君も彼女達に会うべきだと聞いたから」
「彼女達?」
訝しげに少年がこちらを見る。気の強そうな瞳が私を見て一瞬揺らいだ。
「……この方達は?」
「彼女はチヒロ。アーク団長の隣にいる女性がミナミ、隣がレティシアの子守をしているアカリだよ」
私達を紹介するレビエント殿下を振り返ったその目は、子供に不似合いな暗い色を湛えているように見えた。




