はじめましては賑やかです
アークさんと共に白の王城を訪問すると、まず通されたのは大きな前室でした。そこはお客様の待合室のようになっていて、テーブルには飲み物と軽食まで用意されています。
実はここで千紘さん達と待ち合わせをしているのです。広い室内を見渡せば、テラス近くのソファに座っている三人の男女を見つけました。三人とも黒髪に黒い瞳。けれど男性の方は肌が浅黒く、女性の方は私も見慣れた肌色です。
「千紘さん」
「あら、美波ちゃん。久しぶり」
「ご無沙汰してます、……あの…私、お邪魔でしたか?」
まずはご挨拶をと思って近付くと、気付いた千紘さんが笑顔で迎えてくれました。立ち上がろうとしたのでしょう。けれどその動きは両隣に座っていた二人の男性に阻止されてしまいます。奥に座っている男性が千紘さんの腰に手を回し、手前の男性が手をぎゅっと握ったからです。
「こら! 折角挨拶してくれてるんだから離しなさい!!」
「えー。だってラブラブタイム中だったのにー」
「ラブラブって何よ! ただお茶してただけでしょうが!」
「“あ〜ん”している最中だったのに〜〜」
「挨拶の方が大事でしょ!!」
パシンと自分の体に触れるお二人の手を払い落とし、千紘さんが立ち上がりました。
あらあら。やっぱり私お邪魔だったようです。
「ほら、二人も立って。こちらは前に話をした美波ちゃん。アーク騎士団長もご無沙汰してます」
「あぁ。お前達は相変わらずだな……」
お前達、というのは恐らく千紘さんに言われてしぶしぶ立ち上がったお二人、黒の国のナキアス殿下とナルヴィ殿下のことを指しているのでしょう。毎年季節祭で王族の方々は顔を合わせますから、護国の王族同士はとても親しいそうです。
「燈里ちゃんももうすぐ着くと思……」
「どわっ!!」
おかしな声がした方を振り向くと、そこは先程私達が入ってきたこの部屋の扉。そこには驚いた顔をした明るい茶髪を伸ばしたワンレングスの少女と、赤い髪に銀縁の眼鏡をかけた若い男性が立っていました。どうやら奇声を発したのは少女の方みたいです。
「着いたわね……」
あら、どうやらあの子が噂の燈里ちゃんのようですよ。千紘さんが仰っていた通り、とても元気な子のようですねぇ。
「あ、千紘さん!!」
燈里ちゃんはこちらを見るとパッと顔を輝かせてパタパタと小走りで駆けてきました。
「久しぶりね、燈里ちゃん」
「あはは〜、久しぶり。えっと……」
大きな瞳と目が合ったので私は軽く頭を下げました。
「初めまして。津島燈里ちゃんですね。私は吾妻美波と言います。よろしくお願いします。
「あ、よろしくお願いします……でかっ」
再びパシンと小気味良い音が鳴りました。どうやら千紘さんが……今度は燈里ちゃんの頭を軽くはたいたようです。燈里ちゃんの後ろでは赤髪の男性がお顔に手を当て、はーっと溜め息をついています。
最後の呟きを漏らした時、燈里ちゃんの目線が私の胸元にあったような気がしたのですが……気のせいでしょうか?
アカリが「どわっ!」と驚いたのは自分の右足に自分の左足を引っ掛けてコケそうになったからです。
(よくやっちゃうよね。……ね?)




