鏡
「――殺すことが正義」
これ以上清浄な色はないといわんばかりの純白な服を着た男が言った。背中に白い翼が見える。
「――してしまえ」
飲み込まれるそうな混沌とした色、黒服の男が言った。コウモリのような翼を持っていた。
二人は僕の答えを待っているように感じた。何故なのだろう? 僕の手には包丁があった。
大和の体がテンポ良く揺らされる。決まった道しか走れない箱に乗って自分の『義務』を果たしに行く。その区間、最近は読書している。ジャンルはライトノベル、何かのキャラクターの影響を受けたのが始まりだ。
つまり大和はオタク、彼自身も
「ゲームをやるために生まれてきた」
と自認していた。それと同時に新聞どころかテレビすらみていない、世間知らず。
そんな男にも絶対許さないことがあった。昔、大和はチャットで女性に
「私はレイプされたことがある」
と言われた。彼女といつも話していたために大和は憎悪を抱いた。そして泣いた。
「ごめんなさい」
大和はそれしか書けなかった。そして性犯罪、男女差別について敏感になった。
『義務』が終わり、再び箱にのっていた。読書も欠かさない。
箱が停まる場所、駅から出て自転車に乗る。あとわずかで『自由』が始まる。
「――今日は運がないな」
大和が呟いた。弟が自分の彼女Kと友人Aを部屋に招き、遊んでいた。それだけで『自由』は完全に消えてしまう。
兄弟は同じ部屋をカーテンで仕切っていた。そのため視界は妨げても音までも無くすことはできない。もちろん聞きたくなくても聞こえる。
大和は弟を『鏡』だと思っていた。弟は目が細く、髪は長く赤く染まっていた。体型は痩せてて性格はお調子者。彼は『義務』を破棄していた。
一方大和は女の子のように目が大きく、髪は目や耳にかからない程度で黒く、すこし白髪があった。体型は少し太っていて真面目な性格。
KとAは見たことがない。ただ不良だと大和は感じていた。
22時になってもKとAは帰らない。話が大和の耳に入る。
(流石にうるさいな)
大和がそう思っても彼等は気づかない。そしてこう聞こえた。
「YさんがKのこと好きだからXXX(弟の名前)別れろって」
Aが言った。なんとも自分勝手な言い分だ。大和はそう思った。
「Kモテモテだな、Yさんにヤられちゃうな」
弟が笑いながら言った。大和は信じられなかった。
(何を言ってるんだコイツは!)
(……本当に人なのか?)
様々な思いが大和を苦しめる。そして居間へと逃げた。
その夜、僕は夢を見た。