ある日の氷流
本編を読んでいただいてありがとうございました!
ここから先は番外編になります。
番外編は、キャラのイメージが壊れてしまう可能性が多大にありますので、ご注意下さい!
最初の二話は、web拍手の方に記載していたものをそのまま持ってきた形になります。
第二部を書き始めるまで、時々更新して行こうと思いますので、覗いていただけると嬉しいです。
「主さま、なにをなさっておいでですの?」
それはある日の夕暮れ。
鬼哭岳の館にも、じんわりと夜がやってくる。
夕餉を知らせに主の部屋を訪ねると。主は真剣な顔で手元を睨むようにみつめていた。
「六花か。よいところに来たな。少し聞きたいことがある」
自分の声に顔を上げた主は、彼にしては珍しく、ぱっと表情を輝かせたように思う。
「わたくしに、でございますか?」
驚いて問い返せば。主は大真面目な顔つきで頷いた。
「おまえはよく芽津にもいっておるのだろう?人間のことならおまえのほうが詳しいだろう」
「ですけど、わたくしでお役に立てますかしら?」
主の傍へとより、六花は主の手元を同じように覗きこむ。
果たして。
そこにあったのは、綺麗な色紙に置かれた幾種類かの菓子――今都で流行の砂糖菓子である。
「千早に届けさせようと思うのだが、どれが一番喜ぶと思うか?」
「どれ、と申されましても」
どれも一緒だ!と叫ばなかった自分を六花は誉めてやりたい気分だった。
言葉を濁し、じっと並べられた砂糖菓子をみつめる。
赤いもの。白いもの。黄色いもの。緑のもの。
泣く子も黙る、鬼哭岳の主が砂糖菓子を前にうんうん唸っている姿の、なんと情けないことだろう。
これがまた、幾種類の髪飾りやら腕輪やら首飾りやらを眺めて悩んでいるのなら、まだ話もわかる。
しかし、だ。
砂糖菓子だ。砂糖菓子である!
何故に砂糖菓子!
……いや、おいしいからそれもいいかもしれないけれど。
たかだかお菓子ひとつで何故ここまで悩むのやら。
「主さま、失礼いたしますわ」
もれそうになった溜息を飲み込んで、六花はそっと手を伸ばして砂糖菓子を取り上げた。
次々と持ち上げて、すべてをひとつに混ぜてしまう。
「あぁ!」
主の責めるような悲鳴が上がったが、そこはあえて無視でいいと思う。
「これでよろしいですわ、主さま。色とりどりでこんなに綺麗」
紙の上で混ぜられた砂糖菓子は、たしかに小さな花々のようだった。
「きっと千早さまもお喜びになりましてよ」
文句をとっておきの一言で封じてしまい。
六花はにっこりと微笑んで見せたのだった。