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まどろみの月 めざめの陽  作者: rit.
第七章 光の男神
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11

「桜ヶ淵を殺すという点で、君と輝の神は利害が一致したのではないのかい?」

 張り詰めた空気のせいか、いささか慎重に風視は問うた。

「たとえ、その点で一致したとしても……」

 応えかけた那智はほんの少しだけ、首をひねった。

「邪言使い。おぬしは輝の神と面識があると思うていたが?」

「残念ながら、ないね。ぼくのように力の弱い敵対勢力が神と対面して、無事にすむと思っているのかい」

「自慢するようなことではなかろう」

 くく、っと笑った那智は。

 呪符の表面をなでながら、少しばかり言葉を捜したようだった。

「たとえば、わしが、この木から虫を一匹駆除したいと思うとたとしよう。わしは虫だけを駆除する。まぁ場合によっては、枝ごと折り取る場合もあるかもしれんがな」

「う、ん……?」

「だが、神というものは。虫を一匹駆除したいがために、山ごと平地にする方々だと思えばよかろう。利害が一致したとて、素直に喜べぬわけがわかるかな?」

 かみくだいてそう説明する那智のその言葉に、特にイヤミは感じられなかった。

 常日頃、授業を行っているその習いなのだろうか。

「あの、那智さま。それはつまり、桜ヶ淵をつぶしたいがために人間を滅ぼすというようなことですか?」

「そうともいえる。もっとも輝の神の目的は常にひとつ。闇の女神の復活だ。そのために、何を犠牲にしてもかまわぬと思うておられるのだろう。桜ヶ淵は、闇の女神の眠りを守る、封印のひとつだったようだ。だからわざわざ神御自らがお出ましになられたのであろう」

 あやかしを滅ぼしてしまおうとした、輝の神。

 夫であるその神の手から、あやかしをかばった、闇の女神。

 女神は、己の眷属たるあやかしに命じて、眠りを妨げられぬよう封印を織り上げた。

 そうして、輝の神がはなった、憎しみの力を抱いてねむり、己が夢で浄化をもうずいぶんと長い間試みているという。

 そんなことを簡単に説明してくれた那智を、多岐はほんのすこし尊敬の目で見つめた。

 長く生きているというあやかしの風視はまったくもって興味がないようだったが、むしろあやかしなのに何故知らないの、という気持ちでいっぱいだ。

 氷流なんかは多分知っているのだろうが、聞くのは怖いので、とりあえず今は那智が説明してくれたことがありがたかった。

「あのー、那智さま?ぼくらとしても、那智さまとしても。とりあえず神様にはおかえりいただかないとまずいわけですよね?」

「そうだな」

「それは、どうすればいいんでしょう?」

 千早を護るためには、と思って風視についていたのだけれど。

 どうもこの局面で頼りになるのは那智らしい。

 あやかしが絡まなければ那智はいい先生だし、少しくらいは信用したっていいだろうと、いささか都合のいい解釈で現状改善に臨む。

 何か言いたそうな風視の視線も刺さったが、そこはあえて無視することに決めた。

 とりあえず、夜のはずなのに真昼のように明るい現在といい。

 なんだかやたらに澄みわたっている空気といい。

 あまり現状がよいとは言えないような気がするのだ。

 戻すのなら、早いほうがいい。

 那智は、少し思案するようにこちらを見ていたが、やがてひとつうなずくと、先ほどからもてあそんでいる呪符を示した。

「神がこの地におわすことができるのは、輝の御使いが降臨し、なおかつ巫女が気と大地を歌と舞で清めたからだ。清浄なる神気を巫女から切り離すことが出来れば、おかえりいただくことが出来るのではないかとわしは考える」

「具体的には、どうやって?」

「この呪符を使う。もともと気を切り離すために織った呪だ。巫女に押し付ければ、ある程度は切り離すことが出来るだろう」

 那智の説明を受けて、多岐は黙り込んだ。

 問題は、神にどうやって呪符を押し付けるかということである。

 脳裏にちらっと、昔読んだ物語で、ネズミが猫に鈴をつけようと相談する話が浮かんだ。

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