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まどろみの月 めざめの陽  作者: rit.
第七章 光の男神
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「輝無さまは、闇無さまがあやかしたちを処分なされようとした時に、かわいそうだと慈愛の心でもって護られたのだ。そして、かわりに永き眠りにつかれたのさ」

 そんな天花を見下ろすようにみやって、有明は簡単にそう説明をした。

「その眠りは、闇無さまがお使いになられた敵意ある〈力〉が輝無さまの夢に浄化されるまでは醒めはしない。あやかしたちを護るためにお眠りになっているのだから、あやかしがいなくなれば輝無さまもお目覚めになるのは道理だろう?」

 果たして、その話が真実だというのなら。

 多岐が知っている創世の神々の話とはひどく異なることとなる。

 闇無の神は人間を守護するわけでもなく。ただ、あやかしを滅ぼしたかっただけで。

 輝無の神は人間を滅ぼそうとするわけでもなく。ただ、あやかしを護ってやろうとしただけで。

 けれど、実際のところ。

 あまり関係のない話だと、多岐はぼんやりと思う。

「風視さん、千早がいるところは遠いのかな?」

 神々の諍いなど、自分の手には大きく余る。

 ただ、自分は。千早が普通に幸せに。生きていけたらいいと思うだけだ。

「あまり興味がなさそうだね?」

「話が壮大すぎるからな。俺は目先のことだけで精一杯だよ」

 風視のかわりに口を開いた有明に、そう言葉を返せば。

 有明はまた楽しそうにくすくすと笑った。

「じゃあ、目先の話をしようかな?」

 肩先の金髪を指先ではらって、そう言葉を紡ぐ。

「キミたちが、呪符で通った道を抜けて、たどり着くのは那智のところだったはずだろう? 何故ぼくがここにいるのか、考えたほうがいいんじゃないかな?」

「どういうことだよ?」

「ぼくと那智は賭けをしたんだ。キミたちが呪符をつかうかどうか」

 にっこりと有明は笑って、ねえ那智、とそんなふうによびかけた。

 その言葉を受けて出てきたのかどうかはわからないが。

 有明よりも後ろの、ふとめの木の影から、いつも通りの険しい顔つきをした那智が姿を現す。

「ぼくは使うんじゃないかといって、那智は使わないんじゃないかといった。風視くんは慎重だから、自分の渡した呪符なんかつかわないだろうってね」

 なるほど、確かに那智は風視の性格をよく把握していると思う。

「まぁそんなわけで、キミたちには朗報かもしれない。ぼくが賭けに負けたら、今回の件に尽力を惜しまないっていったからね。だけど、ぼくは勝った。つまり、今回のぼくはサボり要員ってことさ」

 有明の話は、迂回しすぎて非常にわかりにくい。

 多岐が言葉の意味を解しようと頭を動かしていると、天花が満身創痍なのにも関わらず、すばやく動いた。同時に、風視も地を強く蹴る。

「ならば早々に立ち去られることをお勧めいたしますよ!」

 天花は言葉と共に那智へと。

 同時に動いた風視は迷うことなく有明へ向かって一気に距離をつめる。

「せっかちだなぁ。話は最後まで聞いたらどうなんだ? そのほうがお得だと思うよ?」

「おまえと話すことなど何もない。どうせぼくらは敵同士……親しく言葉を交わすいわれもないだろう?」

 言いながら、風視が手を振り上げれば。

 そこに深い闇があふれる。

「だから、とっとと退場しろって? ひどいなぁ」

 風視が闇で空間を薙げば、有明はひょいと後ろに飛び下がってその攻撃を避けた。

「だけどさ、短気は損気っていうだろう? やっぱりちゃんと話は聞いたほうがいいよ」

 風視と有明の後方では、天花が那智と攻防を繰り広げている。

 傷だらけでも、さすがは鬼哭の眷属といったところか。

 多少おされながらも、那智に決定的な遅れはとっていないように見えた。

「なんていうのかなぁ。今回はぼくが勝ったから、あとは那智が頑張ってくれるんだけど。実のところ、桜ヶ淵ごときを殺したからといって、輝無さまの目覚めが近くなるとは、ぼくは思えないんだよね」

「……どういう意味だ」

「どういう意味も何も、桜ヶ淵に止めを刺すために、闇無さまは降臨されたようなものなんだけどね?」

「神が降臨?」

「あ、知らなかったの? 降臨されてるんだよー。今はあっちで鬼哭のあやかしと遊んでるけどさぁ」

 呑気な調子の有明の言葉に、視線は自然と昼間のような光を放つ方角へと向き、そのあとすぐに天花のほうへと向いた。

 突然負った天花の傷は、それが原因だったというのか。さすがの鬼哭も神を相手にすれば無傷ではすまなかったということなのだろう。

「あ、もちろん闇無さまの唯一にして最大の目的は、輝無さまのお目覚めだし。ぼくだってせっかくだから、ちょっとくらいは手伝ったけどね。でもなーあやかし一人くらい倒したって変わらないと思うんだよね。あ、そうそう。芽津の仕掛けはさ?桜ヶ淵が無事に目覚めることができれば、勝手に解除されるから、頑張ってみたらどうかな?」

 有明はどうあっても、風視としゃべってじゃれあいたいらしい。

 風視の攻撃をひょいひょいと紙一重で避け続けながらもその口は止まらない。ただ矢継ぎ早に言葉をつむぎ出していく。

「芽津の桜珠と、桜ヶ淵の封印は共鳴関係にあるんだ。芽津の仕掛けが先に壊れれば、桜ヶ淵も一緒に壊れちゃうけど、桜ヶ淵の封印が先に壊れれば、芽津の仕掛けも一緒に壊れてメデタシメデタシって感じかなぁ? ただ呪をかけるだけじゃつまらないから、そういうふうに作ってみたんだ」

 にこにこしている有明とは対照的に、風視はがっくりと肩を落とした。

「おまえ、なにがしたいんだ」

 敵、のはずなのに。

 どちらかというと、闇無の手先で、桜ヶ淵を殺しに来たはずなのに。

 その手の内をしゃべりまくって解決法まで暴露して、にこにこしている有明は、多岐から見てもちょっとおかしいように見えた。

「なにって」

 肩をすくめた有明は。

 避けるのにあきたのか、風視のスキをついてその肩をぽん、と軽く押した。

 勢いづいて後ろに倒れこんだ風視は、その背を近くの木にしたたかにぶつけて、息をつめる。

「暇つぶしと、ぼくをいいように使ってくれた那智へのちょっとした意趣返しだよ。あと、気に入ったそこの子への優しさというかなんというか」

 ほんのわずかに眇められた、有明の碧眼。

 ぞっとするほど冷たい眼差しが自分のほうへと向けられて、多岐は知らずに息をつめた。

有明、さっさと退場してくれないかな…

話が進まない><

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