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ぽっかりとあいたような、空間ではなく。
一点に向かって収束していくような、ねじれた景色の中をわずかに進めば。
わずかの違和感と共に、ぽん、と押し出されるような感覚があった。
数歩、たたらを踏んで、気がつけば。
そこは、まるで夜明け時のような森の中だ。
「ここは……?」
「桜ヶ淵の里のちかく、みたいだね」
「どちらかというと、桜ヶ淵の主の封印があるところの近くかなー」
思わずもれた、多岐のつぶやきのような問いに応えたのは、風視と知らない誰かの声だった。
風視と天花がその声にはっと反応して、多岐をかばうように一歩前へ出る。
確かに、自分はこの三人の中では一番弱いだろう。
けれど、一見幼げで、しかも傷だらけの天花にまで庇われるのは、ほんの少し複雑なきぶんだった。
「お下がり下さい、多岐さま。輝の御使いです」
天花に無理やりに下がらされつつ、多岐はふたりが対峙している青年を見つめた。
さらさらした金色の髪に、真昼の空を映したような瞳。
年のころなら、自分と同じくらいだろうか。髪と瞳の色さえ一般的なら、町に紛れてしまえばわからないような風貌の青年だった。ごく普通の、人間にさえ見える。
「カグノミツカイってなんですか?」
「そのままだよ。光の男神、闇無の神の眷属のことだ」
「つまりは、あやかし一派であるキミたちの敵ってことだね」
敵なのにそんな補足を加えてくる青年は、なんだか底抜けに明るくて、お調子者のような雰囲気があった。
「まぁ、輝の御使いなんて堅苦しい呼び方しなくても、有明さんって呼んでくれたらいいけどねー」
くすくす、くすくす。
ただ一人楽しそうな有明は、ちょっと首を突き出すようにして多岐を覗き込むようなしぐさをしてみせる。
「そこの、人間のキミ。いい感性してるのに、なんであやかしなんかのところにいるのさ? こっちにおいでよ」
「……いい感性?」
「そそ、キミさ。闇無さまの神殿にもぐりこんでいた子だろう? 闇無さまがせつなそうな顔をされているって感想をいってたじゃないか。人間にしてはスバラシイ感性だとおもうよ、僕は」
風視が。天花が。
不審そうな表情でこちらをみつめている。
有明は楽しそうにさらに言葉を継いだ。
「忘れたの?ちゃんと教えてあげたでしょ? あの哀しい表情は闇無さまは今でも輝無さまを愛していらっしゃるからだよって」
あのときの、空耳。
神殿で聴いたその言葉を確かに思い出して、ぞくりと背筋があわだった。
「だからさ、あやかしなんて邪魔なんだよね」
一見優しそうに見える表情で、有明がにこりと微笑む。
「古種族も、あやかしもいなければ。輝無さまは眠る必要もなく、いますぐにでも目覚めなさる。争いの根源がいなければ、おふたりが諍いをなさる必要もない。すべてがまるく収まるだろう?」
「女神が、ねむる?」
言葉の意図を解せず、多岐が言葉を繰り返せば。
有明はいかにも馬鹿にしたような顔つきになった。
「輝無さまがお眠りになっていることさえ知らないのか」
冷たく、その声音が響く。
それをかばうように、天花はまた一歩前へと進んだ。




