表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
まどろみの月 めざめの陽  作者: rit.
第七章 光の男神
58/92

 夜更けなのに、明るい空と。

 舞い散る桜と。

 輝く大地と昼のように真白い月。


「あやかしごときがわれの邪魔をするか」

 言った声音は桜巳だった。

「やめておけ。その命無駄に散らせることになるぞ」


「たかだか人間のか弱き器に降臨なされた程度で、この鬼哭に勝てるとお思いか?我らが父よ」


 淡々と言葉を返す氷流の声に、いつもの余裕は見えなかった。

 特に言葉が変わるわけではない。

 声音に不安が響くわけでもない。

 けれどそれでも、氷流が。桜巳に宿ったなにものかに畏怖を感じているのは確かだった。


「千早、離れておとなしくしていろ。巻き込まれるなよ」

 神の宿った桜巳にひたと視線を合わせたまま、平板な調子で氷流はいう。

 その声色からは感情というものが、ことごとくそぎ落とされているように感じた。

 視線はひたと桜巳にすえられ、おそらく意識の9割方はそちらに集中しているようだった。

 

 氷流……


 声には出さずにその背中をみつめる。

 桜巳に宿ったものを、氷流は「神」だといった。

 光を司る闇無(くらな)の神――創始の神のひとはしら。

 自分の望みを容れて、氷流はその神と対峙してくれているが、もしかしたら自分は、とんでもない間違いをしでかしたのではないかと不安になる。

 いかに氷流が強い〈力〉を持つあやかしだとはいえ。

 仮にも神と名乗るものを相手にして、勝てるものなのか。

 いや、勝てなくてもいい。負けさえしなければ。

 もし氷流が自分が巻き込んだせいで、しないでもいい戦いを挑んで。万が一にも負けてしまったらどうすればいいのか。

 だが。

 氷流に頼むより他に、自分では桜巳を救う術を見出せなかったのは事実だ。

 そして自分は。

 どうしても桜巳に無事でいてほしい。


 動いたのは、どちらが先だったのか。

 ゆらり、と氷流の姿がぶれた気がした。

 次の瞬間には、真白い髪が風になびく残像だけが見える。

 千早の目では追いきれなかったが、おそらく同時に桜巳も動いていたはずだ。

 大地が鳴り、中空に稲妻が走った。


「ふむ、動かしにくい人間のよりましにも、多少は利点があるようだな」

 くつくつと桜巳が低く笑った。

「おまえ、この器を傷つけられぬ理由でもあるのか」

 ちろりと出した舌先で、桜巳は赤く濡れた指先を舐め取った。

 あかく、ぬれた指先?

 認識した事実にはっとして、千早は氷流をみやった。

「……気にするな。大事無い」

 氷流に目を向けた途端、そんな言葉が返ってきたが。

 その左腕が真っ赤に染まっているのを見れば、震えが走るのを止められない。

「器を傷つけまいとしていれば、先に死ぬのはおまえであろうよ。まあ、われには都合がいいが!」

 言いながら、桜巳が駆けた。

 今度も千早が目で追えたのは、その艶やかな長い巫女の衣のみ。

 氷流は応えずにただ大地を蹴る。

 今度は先ほどよりも長く、二人の間に火花が散った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ