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まどろみの月 めざめの陽  作者: rit.
第五章 桜の呪い
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「そうたいしたことはないと思います。山の〈気〉にでもあてられたんじゃないかな。休んだら現地で合流することになってるんです」

 那智のききたいことには知らないふりをして、多岐はうそぶいた。

 那智がじっとこちらをみつめている。

 力のある、強いまなざしだ。心の奥まで見通すような。

 那智が聞きたいことはわかっているつもりだ。千早と、風視。もしくは風視とつながりのあるあやかしが、千早に接触したかどうかがしりたいのだろう。ひいては、どれくらい古種族に近いものなのかを。もしくは、どれほど大物のあやかしが絡んでいるのかを。

 だが、多岐はそ知らぬ顔をして那智を見返した。

「そなた、あの娘を助けたいのならば、どうしたらよいのかはわかっておるな?」

 風視を、味方だとは思わない。

 けれど、那智を千早の助けになる存在だとも思えない。

「千早が不本意ながら巻き込まれているのなら、助けていただけるんですよね」

「同胞は救わねばならぬからな」

「影狩師は影狩師として真っ当にあらなくては」

 嘘をつくのは好きじゃない。

 古種族もあやかしも、好きじゃない。

 でも、千早を守るためならなんだってしてみせる。

 にこりと笑んで見せれば、那智は重々しくうなずいて見せた。

「期待している」

 ハイと応える多岐に、那智は軽く手招きをする。

「そなたに折り入って頼みたいことがある」

 くらい光を秘めた眼がじっと多岐をとらえる。

 ぞくりと背筋を悪寒が走ったが、今更逃げることなどできるはずもない。

 腹をくくった多岐はなるべく平然を装って話を促すように、軽く顎を引いた。



   ※  ※  ※  ※



「那智が何を画策していると?」

 那智が属する光の男神――闇無の神殿を調べたい旨を記した令状がほしいと風視が言えば、白連塾塾長たる陵王はほんの少し柳眉を寄せた。

「それがわかれば苦労はしないさ。だが、那智は桜ヶ淵から〈力〉だけを抜き出して使っている恐れがある」

「桜ヶ淵のあやかしの?」

 2年前大きな氷塊に閉ざされた、桜ヶ淵の主。

 表向きは白連塾の影狩師がなしたことだということになっているが、実際は桜ヶ淵のあやかしの知己である別の地の主が為したことであるということは、白連塾の上層部では公認の秘密である。

「どうやって、あの呪の隙間をぬったというのです」

 読みかけていた書類を脇にどけて、陵王は本格的に風視の話に乗ってくる様子を見せた。

 風視はもちろん反対派だったが、白連塾内部ではこれを機に桜ヶ淵の主を滅ぼしてしまおうという意見が多くを占めた。

 いかに桜ヶ淵の民が主とよい関係を築いているとはいえ、所詮異種族同士。

 完全な理解などは到底無理であるし、なにより、皇さえしのぐ権力を持っている白連塾の威信にかけて、桜ヶ淵のような共存関係は認めるわけにはいかなかったのだ。

 桜ヶ淵の主が、封じられて動けないのであれば、滅ぼすのもきっとたやすいはず。

 そう信じて、桜ヶ淵にむかう影狩師は結構な数に上ったという。

 だが、桜ヶ淵を封じた主の呪は巧みだった。

 桜ヶ淵の主をきちんと眠らせて封じつつ、外敵からもきっちり守るようなつくりになっていて、誰も手がだせなかったのだ。

 その巧みな呪の隙をついて、〈力〉だけ抽出するなんてことは、そう簡単にできることではない。

 陵王が興味を持つのも当然だった。

「ときめぐりの民を知っているだろう?」

「……できれば存じ上げないといってしまいたい黒い歴史ですけれどね」

 風視の言葉に、陵王が苦い笑みを浮かべる。

 ときめぐりの民を白連塾が都から追ったのは、そう古い話ではない。自らの存続のためだけに、なんの咎もない彼らを追った。陵王自身がしたことではないとはいえ、長であればこそ。歴代の長の決断もその結末も負う覚悟はできているのだろう。

 静かに澄んだその表情をみて、風視は少しだけ微笑んで、次に続く言葉をさがした。

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