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まどろみの月 めざめの陽  作者: rit.
第四章 旅は道連れ
35/92

「だからさ、実際のところ、よくわからないんだ」

 結局のところ、すべてはそこに落ち着いてしまう。

 あやかしの恋人を友達に紹介されて、驚かなかったと。抵抗がなかったといえば、嘘になる。でも、結局のところ、それで桜巳をきらいになることはないし、夜斗を桜巳のそばから排除しようという気にもならない。

 自分があやかしになったことだってそうだ。

 驚きはしたし、不安もあるものの、嫌がったところでどうにかなるものではない、という点においてはもはや受け入れるしかない事例だ。

 そう自分の感情を乱暴に纏め上げた千早は、また氷流をみつめた。

「私もさ、氷流にききたいことがあるんだよね」

「うん?」

「氷流はなんで、私を助けてくれたの?」

 思えば、今まで聞いたことがなかったと思う。

 初めて会ったのは2年前。しかも死にかけていて、言葉を交わしたのはほんの一言二言。

 その一言二言が、種という壁を超えて、このあやかしに自分を助けさせたというのがいまいちよくわからない。

 助けてもらったその後も、特に接点はなく。

 疑問は深まるばかりだし、気まぐれのその一言にしても、理由が弱い気がするのだ。

「そうだな。理由はいくつかあるが、一番は面白いと思ったのだ」

「……面白い?」

「影狩師なのに、あやかしを助けようと奮闘している。自分が死にかけているのに、だ。なにをやっているのだろうと思った。見ていて飽きないだろうな、とかな」

 はあ、と千早は気の抜けたような相槌を打った。

 死にかけていた場面を面白いと評されて、立つ瀬がないというのかなんというのか。

「あとは、礼の意味合いもある。桜ヶ淵はおれの古い知り合いだ。助けようと努力をしてくれたことに関しては、なにかしらの礼が必要だろう?われらは少なくとも恩知らずではないつもりだ」

 まぁまぁ、人間とはずれている古種族の言い分としては、誠実なものだと思われなくもない。

 生返事をした千早に、氷流は少しわらって、前方を指差す。

 長い長い山道がそろそろと終わりを告げていた。

 とはいっても。距離的にはもっと長くてもいいはずだった。不思議に思って氷流をみやれば、ほんのりとくちびるに微笑をうかべている。

「ここはおれの領域なれば。すこし近道をしてみただけだ。ひたすら山道を歩いていても、楽しいことはないだろう?」

 おそらく、通常とは違う〈道〉を通るかなにかしたのだろう。

 千早さえもしらないうちに。

「私たちはこのまま桜ヶ淵に?」

 都隠の山々を降りてしまえば、空気さえも違う気がする。

 開けた視界と、ひろびろとして木々の香りの薄い空気。ひろく渡る風。

 はるか左手のほうに、遠く芽津が見えた。

 氷流にそう問えば、そっと背を押される。

「そうだな。何事もなければな」

 背に当てられた、氷流の手はひんやりとしていたけれど、それでもしばらくそこにとどまっていれば、ほんのりとぬくかった。



  ※  ※  ※  ※



「なぁ……風視さん」

 物騒な獣の手綱をひいて、前を行くその背中に多岐はよびかけた。

 振り返りもしない風視からは、うんー?といささかどうでもよさそうな返事が返ってくる。

「俺、さっきの話よくわかんないんですけど」

 もっと言えば、なぜ千早らと別行動をしなければならないのか、といったところに落ち着く。

「千早が芽津に入れないのなら、俺たちも迂回して一緒に桜ヶ淵へいったらいけないんですか」

「ああ。平たく言うとさぁ」

 こころもち視線を上に向けながら、面倒くさそうに風視は言った。

「ちょっとくさいんだよね。那智がさ」

「は?」

「理解力悪いな。さっきときめぐりの長老がいってただろ?男が来たって」

「あの……それが那智様?」

 そうそう、と言った風視はやはり面倒くさいという感情を前面に押し出していて、説明するのもいやそうだ。

「その可能性が高いんだよねー……千早ちゃんがあやかしになった2年前の一件にしたって、那智が噛んでいる可能性大だしね。本当、めんどくさい男だよ。年なんだから引退しときゃいいのにさ」

 とりあえず、多岐ははあ、と相槌を入れることしか出来なかった。

 触らぬ神になんとやらで、あきらかに機嫌の悪そうな風視にはそれ以上突っ込まないほうがいいだろうと思ったのだ。

次回、新章に進みます。

多岐が頑張る章になる「予定」……

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