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神鳴の共鳴(シンクロニシティ) ―機鋼帝国ゼノフィアと八百万の祈り―  作者: amya
10章

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第54話:空の神、慟哭の檻


 イザベラは未来への希望を胸に抱きながら、途切れる隙の無いほどの氷剣での攻撃を四方八方から続けている。しかし、その反攻は防御障壁により難なく防がれている。


 ゼノンは、失望していた。

「……所詮は感情に溺れる欠陥品か」


 彼は冷ややかに袖を払うと、玉座の後方にある巨大な水晶柱を見上げた。


「ならば、舞台ごと消し去ろう。……目覚めよ、『空の神』カグヤ。その嘆きで、全てを無に帰せ」


 ゼノンが指揮棒を振り下ろす。水晶柱に幾重にも施されていた封印が解除され、中に閉じ込められていた少女――カグヤの目が開かれた。


『――ア、アアアアアアアアァァァァッ!!』


 言葉にならない悲鳴。それは鼓膜を震わせる音波ではなく、空間そのものを削り取る「断絶の波動」だった。カグヤを中心として、同心円状に広がる衝撃波。それに触れた鋼鉄の床が、音もなく塵となって消滅していく。


「くっ、防げぬ! これは魔法ではない、空間の崩壊じゃ!」


 ナギが『光の角』で障壁を張るが、それさえもカグヤの悲鳴の前では紙屑のように消し飛ぶ。イザベラの氷壁も、ミラの植物も、触れた端から原子分解されていく。近づくことすらできない、絶対的な死の領域。


「無駄だ。彼女は神代の昔、空を割り、大地を穿った破壊の化身。……君たちの命など、彼女の溜息一つで消し飛ぶ」


 ゼノンが高笑いする中、アラタたちは後退を余儀なくされた。だが、その絶望的な状況で、ふわりと前に飛び出した影があった。


「……騒がしいのう! そんな大声で泣いたら、可愛い顔が台無しじゃぞ!」


 座敷わらしのワラシである。彼女はカグヤの放つ破壊音波の嵐を前にして、仁王立ちになっていた。


「ワラシ、戻れ! お前でも消し飛ぶぞ!」


 アラタの叫びに、ワラシはニカっと笑って振り返った。


「アラタよ。わらわは『運』を司る座敷わらしじゃぞ? ……見せてやる。これが、わらわとおチビの……一世一代の『悪戯いたずら』じゃ!」




 ワラシが小さな手を天に突き上げる。すると、彼女の着物の袖から、金色の光の粒子が爆発的に溢れ出した。


「――天運招来・千載一遇ラッキー・ブレイクッ!!」


 光の粒子は、カグヤから放たれる無秩序な破壊音波の流れに干渉した。本来ならあり得ない確率。何億分の一の偶然。音波と音波がぶつかり合って相殺し、ほんの数秒、針の穴を通すような「絶対に当たらない安全地帯」が、カグヤの水晶へと一直線に繋がったのだ。


「――今じゃ、おチビ! アラタを運べぇぇぇッ!!」


『アオォォォォンッ!!』


 聖獣コダマが咆哮と共に飛び出した。アラタはその背中に飛び乗る。コダマは風そのものとなった。左右から迫る空間崩壊の波を、紙一重、いや毛一筋の差ですり抜けていく。それは計算された回避ではなく、ワラシが強引にこじ開けた「奇跡」の道筋。


(ありがとう、ワラシ、コダマ! ……届く、これなら!)


 視界の先、水晶の中で泣き叫ぶ少女の姿が迫る。彼女は破壊したくてしているのではない。自身の力が制御できず、ただ怖くて、悲しくて、助けを求めて叫んでいるのだ。


「カグヤ! ……もう泣かなくていい!」


 アラタは『桜雷』を逆手に持ち、コダマの跳躍に合わせて空高く舞った。ゼノンの「やめろ!」という叫びは、もう届かない。


「――解律リリースッ!!」


 アラタの一撃が、水晶の頂点――最も音が響く一点を正確に捉えた。


 カァァァァァァァァンッ!!


 美しく、澄み渡るような打撃音が響き渡り、カグヤを閉じ込めていた水晶に無数の亀裂が走る。次の瞬間、水晶は光の粒子となって砕け散った。



 落下するカグヤの小さな体を、イザベラが作り出した滑らかな氷の滑り台が受け止め、その先で待っていたナギが優しく抱きとめた。


『……あ……』


 カグヤが恐る恐る目を開ける。周囲の破壊音波は消え、そこにはただ、成層圏の静かな風と、自分を心配そうに見つめる仲間たちの顔があった。ナギが、自身の額の『光の角』から温かな光を灯し、カグヤの震える肩を包み込む。


「……もう、終わった。貴殿の歌は、誰も傷つけぬ」


 カグヤは自身の掌を見つめ、それからアラタの方を見た。その瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。だがそれは、破壊をもたらす悲鳴ではなく、ただの少女の涙だった。


「……静か……になった。……ありがとう、温かい人たち……」


 カグヤの唇から漏れた安堵の言葉。それに呼応するように、機鋼天宮を覆っていた黒い雲が晴れ、美しい満月が顔を覗かせた。


「……馬鹿な。神の封印を、力ずくではなく『調律』で解いたと言うのか……」


 ゼノンがよろめきながら後ずさる。彼の完璧だった計画、完全なる静寂への譜面は、アラタたちが奏でる不格好で、しかし力強い生命のアンサンブルによって、完全に書き換えられていた。


「……だが、終わらせはしない。私の使命は、絶対だ」


 ゼノンは狂気を帯びた瞳で笑うと、玉座にある操作盤に手を置いた。ゴゴゴゴゴ……と要塞全体が激しく震動し、玉座周辺のブロックが切り離される。それは地上へ向かう脱出ポッドだった。


「神が目覚めれば、世界は終わる! ……私が直接、神の『殻』と融合し、永遠の子守唄を歌う礎となる!」


「待てッ!」


 アラタの手は届かず、ゼノンを乗せたブロックは地上――帝都の地下深くへと、流星のように落下していった。直後、大地の方角から、この世のものとは思えない地響きが伝わってくる。


 ワラシがハッとして地上を見下ろした。その瞳が、金色に輝き始める。


「……来るぞ、アラタ。……あれは、皇帝の戯言ではない。……もっと古く、もっと巨大な……『迷子』の泣き声じゃ」


 天上の戦いは終わった。だが、それは本当の終末への序章に過ぎなかった。地上では今、人類が触れてはならなかった「最初の神」が、不完全な眠りから覚めようとしていた。





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