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神鳴の共鳴(シンクロニシティ) ―機鋼帝国ゼノフィアと八百万の祈り―  作者: amya
10章

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第52話:地上から空へ


 聖獣コダマの誕生によって、帝都近郊の警備網を突破したアラタたちだったが、目の前に広がる光景に息を呑んだ。帝都ゼノフィアの街並みは、単なる都市ではなかった。地上に這いずる無数の工場から吐き出される煤煙が太陽を遮り、街全体が重油の鼻を突く匂いと、規則的な歯車の回転音に支配されている 。


 だが、真の絶望は地上にはなかった。ワラシが、スモッグの切れ間から覗く上空を指差して声を震わせた。


「……アラタ、あれを見るのじゃ。地脈の力が、あそこへ吸い上げられておる」


 見上げた先、煤煙の渦を突き破った遥か頭上に、太陽を飲み込まんとするほどの巨大な影が鎮座していた。空中要塞『機鋼天宮・アステリア』。無数の歯車と揚熱パイプが剥き出しになったその姿は、鋼鉄の「花」のようであり、要塞の基部からは魔導導管が地上の大聖堂へと伸び、まるで天から降り注ぐ鎖のように世界を縛り付けていた。


「あそこが……本丸か」


 地上でイザベラを救うだけでは終わらない。この世界を窒息させている「蓋」をこじ開けるには、あの空へ行くしかない。




「――全速力だ! 振り落とされるんじゃねえぞ、みんな!」


 カイトの怒号と共に、魔導帆走車『嵐駆らんく丸』が変形を開始する。リッカが最北の大地で鍛え直した白銀の装甲が展開し、龍人族の精霊石とドワーフの機鋼技術が融合した「翼」が、左右に大きく広げられた 。


『アオォォォンッ!!』


 後部座席で、孵化したばかりのコダマが遠吠えを上げる。その鳴き声に呼応するように、車体側面の霊帆が極光のような輝きを放ち、大気を捉えた。重力という鎖を断ち切り、車体は爆発的な加速と共に、雲海を裂く鋭利な刃となって空へと舞い上がった。


「ひゃあぁぁっ! 高いのじゃぁ!」


 ワラシがアラタの肩にしがみつき、目を白黒させる。高度が上がるにつれ、地上を覆っていた重苦しい煤煙は薄れ、代わりに凍り付くような鋼鉄の冷たさを孕んだ、薄いオゾンの香りが一行を包み込み始めた。




 要塞アステリアに肉薄したその時、吹き荒れる風音に混じり、透き通るような、しかし胸を締め付けるほど哀しい歌声が降り注いできた 。


「……痛い。この歌、泣いておる」


 ワラシが耳を押さえ、悲痛な表情を浮かべる。アラタもまた、『共鳴外骨格・かなで』を軋ませながら、その圧倒的な「不協和音」を感じ取っていた。それは要塞全体を一つの巨大な狂ったオルガンに見立て、何千もの神々の悲鳴を無理やり和音へとねじ込んだ冒涜的な旋律だった。


「……聴こえる。この歌の主は、カグヤ……『空の神』か」


 ナギが『光の角』を輝かせ、天を睨む。その歌声は、嵐駆丸の計器類を狂わせるほどの物理的な干渉力を持っていた。帝国の繁栄のために要塞の核として囚われ、自身の力を呪いながら歌わされている少女の絶望が、そこにはあった。




「感傷に浸っている暇はないよ! 来たぜ、帝国の『天宮衛兵団スカイ・ガード』だ!」


 リッカが叫ぶのと同時に、要塞の排気口から鳥の翼を模した飛行機鋼兵が数千の群れとなって飛来した。コダマが牙を剥き、迎撃しようと身構えるが、それを制するようにナギが前に出た。


「……コダマよ、貴殿の牙はまだ取っておけ。ここは私がこじ開ける!」


 ナギは自身の存在そのものを「角」とした究極の震動――『蒼天咆哮そうてんほうこう』を放った。透明な蒼き龍の幻影が空を駆け抜け、清らかな鈴の音が帝国の鋼鉄の軍勢を次々と内部から粉砕していく。


 その一瞬の隙を突き、カイトは嵐駆丸を要塞の外壁にある着陸ポートへと滑り込ませた。激しい火花と共に停車した車体から、アラタは大地を踏みしめる。


 目の前には、巨大な水晶の塔がそびえ立ち、カグヤの歌声はそこから怒りを含んだ不協和音となって響き渡っていた 。


「行くぞ、ワラシ、コダマ。……僕たちが、彼女の涙を止めるんだ」


 アラタは『桜雷サクラライ』を握り締め、天上のラストステージへと足を踏み入れた。ワラシはコダマの背に飛び乗り、決意に満ちた瞳でアラタに続く。地上のイザベラ、そして天空のカグヤ。二人の囚われの歌姫を救うための、最後の調律が始まろうとしていた。





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