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神鳴の共鳴(シンクロニシティ) ―機鋼帝国ゼノフィアと八百万の祈り―  作者: amya
10章

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第51話:鋼鉄の蜘蛛の巣


 帝都ゼノフィアの近郊は、物理的な城壁ではなく、目に見えない「監視の網」によって閉ざされていた。


 赤黒いスモッグが垂れ込める荒野。そこには、帝国の最新鋭監視ドローン『百目ヒャクメ』が無数に浮遊し、不規則な軌道を描きながら、動くもの全てに赤いレーザー照準を走らせている。地面には振動感知センサーが網の目のように埋設され、ネズミ一匹の足音さえも逃さない。


「……冗談じゃないわね。空気の振動さえ監視されてるなんて」


 『嵐駆らんく丸』の甲板で、ミラが息を潜めて呟いた。彼女の獣人としての感覚が、肌を刺すような高密度の魔力波を捉えて警鐘を鳴らしている。エンジンを極限まで絞り、音もなく滑走する車体。だが、帝都の喉元であるこの「第零防衛線」を突破するには、隠密行動だけでは不可能だった。


 そこで、小さな二人の守り神の出番となる。


「よいか、おチビ。わらわが『不運』を撒く。お主はその隙に、わらわたちを『風景』に変えるのじゃ」


 ワラシがボンネットの上に立ち、着物の袖を振るった。彼女の指先から、黒い粒子のような「厄」が風に乗って飛んでいく。


 すると、上空を巡回していたドローンの編隊に異変が起きた。一機が突如として姿勢制御を失い、隣の機体に接触。さらに、地上のセンサーが予期せぬ誤作動を起こし、何もない岩場で警報を鳴らし始めた。


「あっちだ! 侵入者か!?」

「いや、ただの回路ショートだ! クソッ、整備班は何をしてやがる!」


 警備兵たちの注意が逸れた一瞬の隙。


「――今だ!」

アラタの合図と共に、助手席の卵が強く脈動した。


『……ンンッ!!』


 卵から放たれたのは、周囲の景色――荒野の岩肌、漂うスモッグ、枯れた草木――の色彩と波動を模倣し、車体全体を包み込む「認識阻害の霧」だった。それは単なる迷彩ではない。精霊の力による「自然同化カモフラージュ」。機械の目には、そこにあるはずの車が「ただの吹き溜まり」や「岩の影」としてしか認識されなくなる。


「すごい……。レーダーから私たちの反応が消えた」


 カイトが計器を見て驚愕する。ワラシが確率を捻じ曲げ、卵が気配を消す。奇跡のような連携によって、『嵐駆丸』は厳重な警備網を、幽霊船のようにすり抜けていった。




 帝都の外郭、スラム街の影に車体を隠し、一行は情報収集を開始した。リッカが傍受した軍事回線。そこに流れていたのは、帝都市民に向けた「皇帝」からの定時放送だった。


『――偉大なる市民諸君。我らが守護神、“最初の神”の覚醒は目前である。憂うべき反逆者イザベラは、自らの罪を贖うため、その身を聖なる“中枢コア”として捧げた――』


 ホログラム映像に映し出されたのは、帝都の中央にそびえ立つ『万魔殿パンデモニウム』の最上階。 そこには、無数のチューブとケーブルに繋がれ、硝子の棺の中に幽閉されたイザベラの姿があった。


「……そんな。あれじゃまるで……」


 ナギが絶句する。かつては冷徹な将軍として君臨した彼女が、今はただの「生体部品」として扱われている。彼女の身体からは、あの「絶対零度の魔力」が強制的に抽出され、都市の地下で眠る巨大な何かに供給され続けていた。彼女の表情は苦悶に歪んでいる。それは、自らの意思で戻ったとはいえ、あまりにも残酷な末路だった。愛娘を守るために世界を凍らせようとした彼女が、今度は自分自身が世界を終わらせるための燃料にされているのだ。


「……許さない。人の心を……母親の想いを、こんな風に踏みにじるなんて!」


 アラタの拳が震えた。イザベラは敵だった。けれど、彼女の根底にあったのは愛だ。それを、皇帝という名の黒幕は、ただのエネルギー効率の良い資源としてしか見ていない。


「助け出すぞ。イザベラも、この世界も……全部だ!」


 その決意を固めた瞬間だった。



「――見つけたぞ、ネズミ共ッ!!」


 突如、スラムの廃墟が爆音と共に吹き飛んだ。現れたのは、帝都の親衛隊長が駆る、漆黒の機動兵器『処刑鎌デス・サイズ』。四本の脚を持つ蜘蛛のようなフォルムで、その両腕には高周波で振動する巨大な鎌が装備されている。


「しまっ……囲まれた!?」


 周囲からも無数の機械兵が湧き出し、逃げ道を塞ぐ。カイトが急旋回を試みるが、処刑鎌の一撃が『嵐駆丸』の装甲を掠め、車体が大きく横転した。


「うわぁぁっ!!」


 放り出されるアラタたち。地面に叩きつけられた衝撃で、ワラシが抱えていた「卵」が転がり落ち、処刑鎌の足元へと転がっていった。


「ほう、これが噂の精霊の種か。……潰せばどうなる?」


 親衛隊長が残忍な笑みを浮かべ、巨大な鋼鉄の足を振り上げる。


「やめろぉぉぉッ!!」


 アラタが叫び、『桜雷サクラライ』を構えて飛び出すが、距離が遠すぎる。鋼鉄の足が、無防備な卵へと振り下ろされ――。


 その瞬間。

 パァァァァァァァンッ!!


 世界の色が反転するほどの、強烈な閃光が炸裂した。


「な、なんだぁッ!?」


 親衛隊長が悲鳴を上げ、巨大な機体が後方へと弾き飛ばされる。光の中から響き渡ったのは、砕け散る殻の音ではなく、高く、澄み渡った「鈴の音」のような遠吠えだった。


『――アオォォォォォォォォンッ!!』


 光が収束したその場所に、一匹の獣が立っていた。体高は大型犬ほど。その身体は、新緑の葉を織り込んだような美しい毛並みに覆われ、四肢には風を纏う翼のような装飾がある。そして何より目を引くのは、額に輝く琥珀色の結晶と、背中から生えた、桜の枝を思わせる二本の角。


 それは、神木の生命力と、ワラシの幸運、そしてアラタの調律の音を吸って生まれた、世界で唯一の存在。


「……お前、なのか?」


 アラタが問いかけると、その獣――『森羅の聖獣シンラ・ガーディアン』は、クリクリとした金色の瞳でアラタを見つめ、「クゥン」と甘えるように鳴いた。だが、次の瞬間、敵に向き直ったその瞳は、凛とした戦士のものへと変わる。


 聖獣が前足で大地を叩く(トンッ)。ただそれだけで、スラムのコンクリートを突き破り、無数の極太の蔦と根が噴出した。


「うわっ!? 足が……動かん!?」

機械兵たちが植物の檻に捕らえられ、身動きを封じられる。それは破壊ではなく、鋼鉄を「自然」へと還す強制的な浸食だった。


「すごい……。機械を、森に変えている……?」


 ワラシが口元を覆い、感嘆の声を漏らす。

「やりおったな、おチビ! ……いや、もうチビではないな!」


 聖獣はアラタの元へ駆け寄ると、その背中を差し出した。

(乗って、相棒!) 声なき声が、アラタの心に直接響く。


「……ああ、行こう! 名前は……そうだな、『コダマ』だ!」


 アラタがその背に飛び乗ると、コダマは風を纏って跳躍した。そのスピードは機械の照準を遥かに凌駕する。新たな相棒、森羅の聖獣コダマ。最悪のピンチは、最高の希望の誕生によって覆された。


「反撃開始だ! 帝都の『騒音』を、僕たちの『音』で塗り替えるぞ!」


 アラタとコダマ、そして仲間たちは、混乱する包囲網を突破し、イザベラが囚われた万魔殿へと一直線に駆け抜けていった。





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