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神鳴の共鳴(シンクロニシティ) ―機鋼帝国ゼノフィアと八百万の祈り―  作者: amya
9章

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第47話:天響(てんきょう)の夜明け、連なる絆


 巨大掘削要塞『山削り列車・ヨルムンガンド』の最深部――そこは、大地の悲鳴を無理やり電気信号へと変換する、鋼鉄の地獄の心臓部だった。中央に鎮座する『汚染魔力炉』は、ドロドロとした黒い廃液を脈動させながら、規則的な歯車の回転音とは似て非なる、悍ましい唸り声を上げている。辺りには、鼻を突く重油の鼻を突く匂いが立ち込め、アラタの『共鳴外骨格・かなで』さえも、その不協和音の重圧に軋みを上げていた。


「……ここまでだ、不浄の蛇め。貴殿らの奏でる『静止』の旋律は、ここで潰えさせる」


 ナギが静かに、しかし威厳に満ちた声で告げた。彼の額から溢れ出す純白の光は、もはや闇に怯える者の色ではない。それは、自身の欠落を誇りへと変えた、真の王だけが放つことのできる「真実の光」だった。


「アラタ、槌を構えよ。……私の光が闇を平定する瞬間に、貴殿の音を楔として打ち込むのだ!」

「……分かった。ナギ、君を信じる!」


 アラタは掌の傷の痛みを闘志に変え、修理槌『桜雷サクラライ』を高く掲げた。共鳴外骨格の桃色の輝きと、ナギの蒼白き光が交錯し、汚染された空間に一筋の「秩序の和音」を刻んでいく。


 ナギが『光の角』を天へと向けると、彼の背後に顕現した蒼き龍の幻影が、物理的な次元を超えて咆哮を上げた。


「――魂振たまふり……光龍天翔こうりゅうてんしょう!!」


 瞬間、ナギを起点に、目も眩むような光の奔流が放たれた。それは物理的な破壊ではなく、空間そのものの「浄化」。汚染炉から溢れ出していた黒い霧は、その光に触れた端から清らかな鈴の音を奏でて霧散し、ドロドロとした廃液は透明な雫へと還っていく。


「……今だ、アラタぁぁぁぁッ!!」


 リッカの声が、激動の熱気の中で響く。彼女は『嵐駆丸』の予備動力から魔力を引き出し、アラタの外骨格へと全出力を送り込んでいた。


「おおおおおおおぉぉぉぉッ!!」


 アラタが放った一撃は、光によって剥き出しになった炉の「心音」を正確に射抜いた。


――カァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!


 それは、この旅のすべてを肯定するかのような、どこまでも高く、澄み渡った一音。  汚染炉は断末魔のような蒸気の噴射音(プシューッ!)を上げた後、内側から美しい光の粒子となって崩壊し始めた。巨体そのものが震え、鉄の蛇がゆっくりと、しかし確実にその動きを止めていく。


 崩れゆく列車からの脱出は、まさに死線を潜るような激闘だった。カイトが神懸かり的な操舵で、崩落する列車の装甲の隙間を『嵐駆丸』で縫い、アラタたちを次々と回収していく。背後では『ヨルムンガンド』が轟音と共に断裂し、火山の裾野へとその屍を晒していった。


 戦いが終わった後、夕日に照らされた山の裾野には、静寂が広がっていた。重油の鼻を突く匂いに代わって漂ってきたのは、数十年ぶりにこの地へと戻ってきた雨上がりの土の匂い。列車の残骸から這い出してきたのは、アラタたちだけではなかった。強制労働に従事させられていたドワーフたち、帝国の支配に抗っていた獣人のゲリラ、そしてナギの呼びかけに応えた龍人族の志願兵たち。


「……ナギ様。……その額の光は、……我らが失ったと諦めていた、希望の火ですな」


 一人の老ドワーフが、ナギの前に跪いた。ナギはそっとその手をとり、周囲に集まった多種族の戦士たちを見渡した。


「もはや、角があるか否かなどは些細なことだ。……我らの魂が同じ音を聴き、同じ未来を願うのであれば、我らは一本の強い矢となり得る。……帝都ゼノフィアの『静寂』を、我らの咆哮で塗り替える時だ!」


 ナギの言葉に、誰からともなく勝鬨かちどきが上がった。種族の壁を越え、異なる言語で叫ばれる勝利の声。それはアラタが夢見た「世界を直す音」の、一つの完成形であった。


「……アラタ、見てよ。みんなが笑ってる」


 ミラの言葉に、アラタは小さく頷いた。修理槌『桜雷』の木肌には、激闘の証としての傷が無数に刻まれている。だが、その傷こそが、不協和音の中で奏でられた希望の証だった。


「……行こう。カイト、リッカ。ミラ、ナギ。……あそこには、まだ僕たちの助けを待っている『音』がある」


 アラタが指差した先。北の地平線の彼方、厚い煤煙に煙る空の向こうに、最北の監獄工場『氷鎖の棺』が、不気味な静寂を湛えてそびえ立っていた。





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