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神鳴の共鳴(シンクロニシティ) ―機鋼帝国ゼノフィアと八百万の祈り―  作者: amya
8章

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第42話:鉄の巨獣、蒼翠(そうすい)の乱舞


 ナギが魂の咆哮によって魔導冷却システムを粉砕し、姉イナリをその腕に取り戻した、まさにその刹那だった。再会の余韻を無慈悲に引き裂くように、アクア・ルミナスの地盤が悲鳴を上げた。王城を囲む運河の水面が、まるで沸騰したかのように激しく泡立ち、ドロドロとした黒い廃液が巨大なドーム状に盛り上がる。


「――な、何事だ!?」


 ナギが姉を庇いながら振り返る。ズズズズズ……という地響きと共に、廃液の海を割り、巨大な鋼鉄の塊が姿を現した。それは、都の地下水路に隠されていた帝国の移動要塞、機鋼潜水母艦『リヴァイアサン』。全長数百メートルに及ぶその巨体は、フジツボのように張り付いた無数の配管から汚染物質を撒き散らしながら、都の空を黒く塗り潰すように浮上した。


「ヒャハハハ! 冷却システムが壊れた程度で勝った気でいるとは、めでたい奴らだ!」


 母艦の艦橋から、拡声器を通した下卑た嘲笑が響き渡る。甲板のハッチが次々と開き、蒸気の噴射音(プシューッ!)と共に、魚雷に手足が生えたような自律型機鋼兵器が数百体、空中に射出された。


「アラタ、イナリ姉上を頼む! ……ミラ、行けるか!?」

「愚問ね! 私の森を汚した連中の仲間、一匹たりとも逃がさない!」


 アラタがイナリを安全な場所へと退避させるのと同時に、ナギとミラが戦場へと舞い戻った。


「――翠輝神緑鎧エメラルド・ガーディアン・アーマー、全開!!」


 ミラの全身から、眩いばかりの翠色の霊子が噴出した。彼女の背後で、霊力で編まれた巨大な樹木の翼が展開する。ミラは石造りの王城の壁を蹴り、空飛ぶ機鋼兵器の群れの中へと弾丸のように突っ込んだ。


「落ちなさい、鉄クズども!」


 ミラの腕から、鋼鉄よりも硬く、鞭のようにしなる無数のつたが放たれた。それは空中で複雑な軌道を描き、機鋼兵器を次々と絡め取っては、同士討ちさせて爆散させていく。彼女が舞うたびに、都の空に翠色の花火が咲き乱れた。


 一方、ナギは静かに、黒く濁った運河の水面へと降り立った。彼の足元から、透き通る水の色の魔力が同心円状に広がり、触れた廃液を一瞬で清浄な水へと変えていく。


「……我が魂は、もはや角という形には縛られぬ。この都の水すべてが、我が意志の延長とならん!」


 ナギが両腕を振り上げると、運河の水が巨大な龍の形を成して立ち上がった。それは、先ほどの幻影ではない。ナギの魂の震動が物理的な質量を伴って具現化した、蒼き水龍の化身であった。


「――喰らい尽くせ、『魂振たまふり水禍龍牙すいかりゅうが』!!」


 ナギの号令と共に、巨大な水龍が『リヴァイアサン』の側面に喰らいついた。金属が擦れる不快な音と、装甲がひしゃげる轟音が響き渡る。潜水母艦の巨体が大きく傾ぎ、甲板から機鋼兵たちが悲鳴を上げて転落していく。


「馬鹿な!? たかがトカゲ一匹の魔力で、この超弩級戦艦が揺らいだと!?」


「トカゲではない。……私は、この都を守護する龍王、ナギだ!」


 ナギは水面を滑るように移動しながら、水龍を操り、母艦の主砲や動力パイプを次々と引きちぎっていく。


「ミラ、援護を!」

「任せて!」


 空中の敵を掃討したミラが急降下し、ナギの水龍がこじ開けた装甲の隙間に、自身の「翠砂すいさ」を流し込んだ。砂は内部の機械回路に入り込み、規則的な歯車の回転をやすりのように削り取って機能を停止させる。


 空では翠の流星が舞い、水面では蒼き龍が暴れ回る。二人の連携は、帝国の巨大な鉄の秩序を、着実に、そして美しく解体していった。だが、『リヴァイアサン』の真の脅威は、その巨体ではなく、内部に蓄えられた膨大な量の「汚染魔力」そのものにあった。


「ええい、忌々しい! ならば、この都ごと毒の海に沈めてやる!」


 艦長が最後のレバーを引くと、母艦の全排水口が開き、これまで溜め込んでいた漆黒の廃液が、滝のように都へと降り注ぎ始めた。それは物理的な攻撃ではなく、環境そのものを死に至らしめる呪いの奔流だった。


「……くっ、キリがない! ナギ、このままじゃ都が……!」


 ミラの蔦が、汚染された廃液に触れて枯れ落ちる。ナギの水龍も、黒い濁流に侵食され、その輝きを失いかけていた。物理的な破壊だけでは、この根源的な「汚れ」は止められない。


 その時、戦場の後方から、凛とした、しかしどこか切迫した声が響いた。


「――ミラ、ナギ! 道を……僕に、道を拓いてくれ!」


 アラタだった。彼は姉イナリを安全な場所に預け、修理槌『桜雷サクラライ』を構えて走り出していた。その槌は、今までにないほど激しい桃色の光を放ち、アラタ自身の決死の覚悟を伝えていた。





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