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神鳴の共鳴(シンクロニシティ) ―機鋼帝国ゼノフィアと八百万の祈り―  作者: amya
6章

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第28話:解体される神性、不協和音の設計図


 運び屋カイトが提案した潜入ルートは、正気の沙汰とは思えないものだった。地下スラム『蒸気の墓標』の最深部、帝都中の汚水が滝となって流れ込む排水路の闇を抜け、防壁の振動が最も激しい「排気ダクト」を逆走するという強行軍である。


 轟々と唸りを上げる排気ダクトの内部は、金属が擦れる不快な音と蒸気の噴射音(プシューッ!)が荒れ狂う鉄の喉奥だった。アラタは震える手で『桜雷』の柄を握りしめ、列車の時と同様に周囲の振動を「調律」することで、物理的な音の衝撃から一行を守り抜いた。


 ダクトの最果て、重厚なフィルターを潜り抜けた先で、一行はついにその場所へ辿り着いた。中央大聖堂の最深部、白金プラチナの冷光に満ちた「霊力集積室」である。


 そこは、これまでの地下スラムの汚濁が嘘のような、無機質な清潔さに満ちていた。だが、室内に漂うのは重油の鼻を突く匂いではなく、命を無理やり電子へと変換した際の、焦げ付くような霊子の異臭だった。


「……ここが、帝都の心臓部」


 ナギが凍り付くような鋼鉄の冷たさを湛えた瞳で、部屋の中央に鎮座する巨大なカプセルを睨みつける。その中では、彼の半身とも言える『蒼き角』が、無数の針を刺された状態で青白い悲鳴を上げていた。


 アラタはふらつく足取りで、部屋の隅にある操作卓へと歩み寄った。そこは先ほど、ナギが警備ドローンを撃退するために放った水弾の衝撃を受け、装甲板が剥き出しになっていた。


「……これは……?」


 厳重な電子ロックが物理的に損壊し、隠されていたコンソールが露わになっている。アラタが震える指で画面に触れると、そこには帝国の繁栄という名の「略奪」を肯定する、吐き気を催すような「知」が記録されていた。


 画面の最上段に躍るタイトルは――『神の完全解体図』。


 そこに描かれていたのは、サクヤやナギ、そしてこれまでアラタたちが救ってきた神々の霊的構造を、あたかも安価な機械部品の設計図のように詳細に分解した図解だった。どの部位を削れば最も効率よく霊力が抽出できるか、どの神経節を焼けば思考を奪い、従順な「電池」へと作り変えられるか。その冷徹な筆致は、生命に対する敬意を一切欠いた、純粋な悪意の結晶であった。


「……ひどい。あいつら、神様を……ただの『回路』としか見ていないんだ」


 アラタの耳には、その図面から溢れ出す無数の絶望の「音」が、割れた硝子のように突き刺さっていた。そこには『機鋼大蜈蚣・グラ』に組み込まれた大地の神の嘆きや、シオンとシトリンの肉体を蝕んでいた蜘蛛の神の断末魔までもが、整然としたデータの列として記されている。


 そして、その情報の終着点として描かれていたのが、ナギの『蒼き角』を核とした、帝都全域を「無」へと調律する『最終調律装置・アポカリプス』の完成図であった。


「アラタ、見て。この図の端……ナギの角から伸びる、この不自然な波形」


 ミラの鋭い瞳が、図面の一点を指差した。彼女の指先には、無意識のうちに発現した『翠輝神緑鎧』の翠光が宿り、図面の冷たい光と反発するように激しく明滅している。


「……この波形、ナギの角の力を増幅させているだけじゃない。防壁の一部を常に『排熱』として逃がしている場所があるわ。カイトが言っていた通りよ」


 ミラが指し示したのは、大聖堂の構造上の盲点、すなわち反撃のための唯一の「休符」であった。


「……我が誇りが、あのような『解体図』の一部として扱われている。……これ以上の侮辱は許さぬ」


 ナギの全身から透き通る水の色の魔力が狂暴に渦巻き、周囲のガラス管が共鳴して鳴り響く。


 アラタは、血の滲むような思いで画面を凝視した。帝国がどれほど精緻な「秩序」を築こうとも、神々の声を聴く自分ならば、この不自然な旋律を書き換えられるはずだ。


「……行こう。この最悪な設計図を、僕たちの歌で塗り潰すために」


 煤煙に煙る空の下、地の底で交わされた決意。アラタは修理槌を強く握り直し、神々の涙で塗り固められた帝都の心臓部へ向け、最後の一歩を踏み出した。





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