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神鳴の共鳴(シンクロニシティ) ―機鋼帝国ゼノフィアと八百万の祈り―  作者: amya
5章

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第25話:静止への抗い、魂の研磨


 荒野の夜は、冷酷なまでに静まり返っていた。焚き火の傍ら、自身の血を『桜雷』に捧げて「静止」をこじ開けたアラタは、深く、泥のような眠りの中にいた。彼の蒼白な横顔を見つめるミラの胸には、鋭利な刃で削られるような痛みが走っていた。


「……また、あんたに背負わせちゃったわね、アラタ」


ミラは自身の腕に目を落とした。そこには、銀糸の拘束を食い破る際に現れた、樹皮のような質感の「守護神の皮膚」が、微かな翠色の光を放ちながら残っている。彼女は立ち上がり、焚き火の明かりが届かない岩陰へと向かった。


 自身の内側に眠る、神の魂。かつて帝国の研究所で「被検体04」として扱われていた頃、それは彼女にとって憎むべき呪いであり、自身を破壊する暴力でしかなかった。だが、アラタの調律を経て、ミラはその力が「森を愛する神の叫び」であることを知った。


「お願い……私の命をいくらでも持って行っていい。だから、あいつらを、帝国の鉄クズを粉砕できるだけの『鎧』を頂戴!」


ミラは全神経を研ぎ澄ませ、自身の血液に混じる霊力を強制的に加速させた。木漏れ日の粒子のような翠光が彼女の全身を包み込み、筋肉を強化し、骨を樹木のように硬化させる。神経を焼き切るような激痛が走るが、彼女は唇を噛み切り、その痛みさえも闘志へと変換した。


 一方、ナギもまた、朝露が滴る岩の上に端座し、自身の角に指を触れていた。かつてバルバトスの「静止」を打ち破るために、彼は自らの生命力そのものを透き通る水の色の魔力へと変え、命を削った。


(……角は奪われ、民は苦しんでいる。アラタという一人の少年の情熱に甘え、私は己の王としての責務から目を背けてはいなかったか)


ナギは目を閉じ、地下水路で感じた、自身の「角」の歪んだ悲鳴を思い出した。帝国によってスタビライザーとして利用されている自らの誇り。その不協和音を正すには、今のままの水流では足りない。


 ナギは周囲の空気を凝縮し、一点の隙もない「針」のような水刃を生成した。


「……水よ、我に応えよ。ただ流れるのではなく、あらゆる理不尽を穿つ牙となれ」


ナギの全身から凍り付くような鋼鉄の冷たさを上回る、研ぎ澄まされた殺気が溢れ出す。彼が放った一筋の水弾は、音もなく荒野の岩を貫通し、その背後の山肌までを裂いた。


 二人は、眠るアラタを守るようにして、一晩中己を磨き続けた。帝国の「静止」という絶対的な秩序に抗うには、自身の魂を極限まで尖らせ、研ぎ澄ますしかない。彼らの瞳には、かつての逃亡者としての怯えはなく、愛する者を守り抜くという「戦士」の覚悟が、朝焼けの光よりも強く宿っていた。





幕間:【最終調律装置、帝都の黙示録】

 帝都ゼノフィア、中央司令塔の深部。将軍イザベラは、半壊した双子の「遠隔操作装置」から送られてきた最後の手記――アラタが血を流して奏でた調律の波形データを、冷淡に眺めていた。


「……神との共鳴、そして自身の生命情報による強制書き換え。イレギュラーにしては、実に興味深い解答ね」


イザベラは手にしたティーカップを、冷酷な響きを伴って床へ落とした。金属が擦れる不快な音と共に陶器が砕け、飛び散った液体が彼女の漆黒の軍服を汚すことはなかった。


「「お母様……ごめんなさい……また、失敗、しちゃった……」」


部屋の隅、機鋼拘束具によって強引に治療されているシオンとシトリンが、多重録音されたノイズのような声で呻いた。イザベラは彼女たちを一瞥だにせず、司令室の中央に鎮座する巨大なコンソールへと歩み寄った。


「貴女たちはもういいわ。神の力という『曖昧な不確定要素』に頼ったのが間違いだった。……これからは、純粋な『静寂』が世界を統べるのよ」


イザベラが入力コードを打ち込むと、帝都全体が巨大な震動に見舞われた。規則的な歯車の回転音が激化し、排気ダクトから吐き出される蒸気の噴射音(プシューッ!)が、街全体の悲鳴のように響き渡る。


 地下深くからせり上がってきたのは、無数の霊力吸引管が心臓のように脈打つ、巨大な十字架型の装置――『最終調律装置・アポカリプス』それは、地脈から吸い上げた全霊力を「負の周波数」へと変換し、半径数百キロメートル内のすべての生命活動、精霊の鼓動、そして「音」そのものを強制的に凍結させる、帝国究極の「静止」兵器だった。


「さあ、聴かせてあげなさい。……調和も、希望も、神の囁きも届かない、完璧な『無』の旋律を」


イザベラの瞳に、かつて神を信じ、そして裏切られた者だけが持つ、どろりとした憎悪が宿る。装置が起動し、帝都を覆う煤煙に煙る空が、不気味な白銀色の光に染まっていく。次なる戦いは、もはや「個」の戦いではない。世界の「音」そのものを賭けた、絶滅のコンチェルトが始まろうとしていた。





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