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神鳴の共鳴(シンクロニシティ) ―機鋼帝国ゼノフィアと八百万の祈り―  作者: amya
3章

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第14話:赤髪のドワーフ、魂を打つ火花

第14話:赤髪のドワーフ、魂を打つ火花


 狂気に当てられた森の精霊たちの叫びを背に、アラタたちはサクヤを抱え、さらに深く、しかし『虚無の穿孔塔』からは逸れる方向へと突き進んでいた。花の甘い香りと重油の鼻を突く匂いが混濁し、吐き気を催すような大気の中、不意に、これまでとは全く異なる「音」がアラタの鼓膜を震わせた。


――カキンッ!カキンッ!カキンッ!


 それは、帝国の機械が奏でる規則的な歯車の回転音でも、金属が擦れる不快な音でもなかった。もっと力強く、もっと無骨で、しかしどこまでも真っ直ぐに「意志」を乗せた、鉄を打つ響き。一打ごとに、神々の囁きを呼び覚ますような、魂の咆哮に似た残響。


「……こっちだ。この音の主なら、きっと力を貸してくれる!」


アラタは確信を持って、巨岩の影にある洞窟のような工房へと駆け込んだ。


 そこは、熱気と光に満ちた異空間だった。工房の中央には、古めかしいが手入れの行き届いたふいごがあり、蒸気の噴射音(プシューッ!)と共に真っ赤な火花を散らしている。壁には無数の槌やたがねが整然と並び、それら一つ一つが木漏れ日の粒子を反射して、静かに主人の出番を待っていた。


「おい、そこなガキ共!勝手に人の聖域にわに立ち入るんじゃねえ!」


 低く、しかし鈴を転がしたような張りのある声が響いた。炉の影から現れたのは、燃えるような赤髪を短いポニーテールにまとめた、小柄な少女だった。すすで汚れた顔に、強い意志を宿した琥珀色の瞳。その腕は、自分よりも大きな槌を振るい続けてきたことを物語るように、鋼のように引き締まっている。


「……ドワーフ、か」


ナギが驚きを隠せずに呟く。ドワーフ族は、帝国の「神を部品とする」政策に最も激しく抵抗し、多くが北の果てへと姿を消したはずだった。


「ドワーフだの何だのと、種族で呼ぶんじゃねえ。あたしの名前はフレア。……この『プロメテウス』の親だ」


彼女は、傍らに置かれた巨大な爆熱機鋼槌『プロメテウス』を愛しげに、しかし誇らしげに叩いて見せた。


「フレアさん、僕はアラタ。……お願いだ、力を貸してほしい。この森の精霊……サクヤさんが、帝国の塔に吸い取られて死にかけているんだ」


アラタが腕の中のサクヤを見せると、フレアの表情が一瞬で険しくなった。彼女はサクヤに歩み寄り、その額にそっと手を触れた。繋いだ手の温もりとは違う、鍛冶師特有の熱い指先。


「……チッ、ひでえ有様だ。あのクソったれな塔から流れる『虚無』に、魂の芯まで焼かれてやがる」


フレアは塔のそびえる方角を睨みつけた。彼女の瞳には、燃え盛る炉の火よりも熱い「怒り」が宿っていた。


「あたしはね、あいつらが許せねえんだ。道具を、神を……ただの『使い捨ての燃料』だと抜かしやがる。槌を打つのはね、鉄の中に眠る神様と対話して、新しい命を吹き込む神聖な儀式なんだよ!それをあいつら……規則的な歯車の回転に押し込めて、声を上げることさえ禁じやがった!」


 フレアが槌を床に叩きつける。ガツンッ!という重厚な音が、アラタの胸の奥で眠っていた調律師の魂と共鳴した。


「あたしの大切な『子(道具)』たちが、あの塔のせいでみんな怯えてやがる。……あたしは、自分の誇りを、この森の音を守るためにここに残ったんだ。……けどよ、あたしの力だけじゃ、あの塔の鈍色の装甲はぶち抜けねえ」


 フレアはアラタを見つめた。その鋭い視線が、アラタの腰に差された古い修理槌に釘付けになる。


「……あんた。その槌……ただのガラクタじゃねえな。……いい音をさせてやがる」


「……わかるのかい?」

「当たり前だ、あたしを誰だと思ってんだ。……その槌は泣いてるよ。『もっと響きたい、もっと救いたい』ってな。あんたの想いには、器が小さすぎるんだよ」


 フレアはアラタの手を掴み、炉の真ん前へと引き寄せた。


「いいかい、アラタ。あたしの腕と、あんたの『共鳴』の力……混ぜ合わせてみないか?帝国が作った『冷たい鉄』を、あたしたちの『熱い魂』で調律し直してやるんだよ!」


 アラタは、フレアの掌の硬いマメと、そこから伝わってくる心臓の鼓動のような情熱を感じた。彼女もまた、孤独な戦いを続けていたのだ。神々の声を無視し、すべてを効率という名の監獄に閉じ込める帝国に対して、たった一人の職人として牙を剥き続けていた。


「……やろう、フレア。僕たちの音を、一つに合わせるんだ」


 アラタの決意に、工房内の空気が一変した。焦げたゴムの臭いや重油の匂いが、炉から溢れ出した神聖な炎の熱気によって焼き払われていく。ワラシが袋から顔を出し、期待に満ちた目で二人を見守る。ミラとナギも、この小さな工房に満ちた「逆転の予感」に、静かに武器を構えた。


 煤煙に煙る空の下、最果ての聖域で。調律師と鍛冶師、二人の孤独な魂が交差した。  それは、絶望に沈む森に本物の「春」を取り戻すための、最初の一打が振り下ろされる直前の、嵐の前の静けさだった。


「準備はいいかい、アラタ!鉄が冷める前に、あんたの魂を全部吐き出しな!」

「ああ!……響け、僕たちの歌!」


 清らかな鈴の音と、重厚な槌の音が重なり合う。新たな伝説を刻むための、熱き「調律」が今、始まった。




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