序
夕暮れの光景は、人を何故か感傷的にさせる。これから訪れる宵闇を恐れるのは、人の本能的な反応であろうか。
夜は、まるで死の世界のように思われる。
その時の私は、まだ脂の乗っていた時期だった。
人は私のことをスタアと呼び、やたらと盛り立ててくれていた。
しかし、私はあの破滅を知っている。あの災の中、燃え上がる街を。
あれは、私のみた地獄の風景だった。あの光景を忘れることができない。
だから、私は、いつか来たる斜陽の気配をどこかで感じていた。
くれゆく輝きの中に、自分が立つことになるだろうことを、どこかで悟っていた。
私の作り出した作品は儚いものだ。
作り出したフィルムは、ふとしたことで簡単に燃え、失われるものだった。
そう、どれだけ努力をしても、何かの拍子に炎をあげて、全ての努力が無に帰すのだ。
フィルムの保存は、科学技術が進めば改善されるかもしれない。しかし、私の栄光が儚いことは疑いようもない。
だからこそ、そんな儚い自分の栄光の中で、私は永遠に失われない美しいものが欲しかった。そうしたものをこの手で作りたかった。
だからこそ、私は人里離れた場所を買い、そこに永く保たれる美しいものをつくることにした。
そんな私の作った黄昏の輝きの庭で、私は『やつ』と会った。
黄昏の魔性を引きずる、破壊的な存在である『やつ』。
これはそんな私とやつの、不思議な腐れ縁の秘密の話。




