第一話 父と子の再会
血の海だった。
お父さんが死んでいる。
お母さんが死んでいる。
隣で泣いている子の家族も全員死んでいる。
身体の一部が欠損していたり、ぐちゃぐちゃになっている死体が目の前に数え切れないほどあった。
この光景を作った男は笑っていた。
笑い続けたまま、足早に何処かへ去っていった。
膝をついていたボクは立ち上がり、隣りにいた顔見知りの少女の手を取って、駆け出した。
目の前のおぞましい現実から逃げるために。
…どれくらい走っただろうか。
身体がとてもだるい。
全力で使っていた足の感覚は次第に麻痺してきたかのように、走っている感覚は鈍くなっていった。
視界がかすみ、意識が遠のいていく、もう走ることはできない。
僕の足はもつれ、倒れた。
倒れたボクの手を少女は離さず、強く握ってくれていた。
ぼやける視界で、少女の顔を見た。
絶望に堕ちた目をしていた。
生気が感じられない目。
何処も見ていない、見たくない、そんな意思を感じる目だった。
だけど、ひどく泣いていた。
最後の綱を決して失わないよう、ボクの手を強く強く握りしめていた。
しかし、その思いを打ち砕くかのようにボクには確実に死が近付いてきていた。
この少女を置いて逝きたくない逝ってはいけない。
ただただそう思った。
だから、願った、祈った、心の中で叫んだ。
この世界の何処かにいる神様や精霊、ボクを助けることができる存在に届くように強く。
助けて!!
だが、そんなことをしても意味なんてない。
ボクのような人間にそんな主人公みたいな運命や力はないことはわかっている。
両親が目の前で死んだ時、涙はでなかった。
でも今は悔しさや後悔、悲しみありとあらゆる感情が押し寄せてきて、涙が零れた。
諦めかけた時、
「助けに来たぞ親父!!」
「助けに来ましたお父さん!!」
「助けに来たパパ!!」
「助けます父上!!」
目の前に強大な力を持つ存在が現れた。
精霊だ。
「おいおい、出血がひどいぞ!!
それにそれだけじゃない!!
助けるつっても、俺はどうしたらいい?!」
「落ち着いてください!!
僕らは人間に直接的に関わることはできません。
仮に関わることができたとしても治癒の能力は我々精霊には無い力。」
「パパにあたしたちと精霊契約してもらうしかない。」
「どういう!…そうか!!その手があったか!!
父上と契約し、我らの霊力を注ぐことができればある程度は人間の身体の自己治癒力を高めることができるはずです!!」
「そうですね…。
恐らくそれしか方法はないでしょう。
父上!!聞いてください!!
あなたには我々と契約していただきます!!
よろしいですね!!
お願いですからいいと言ってください!!」
目はもう見えなかった。
だが、唯一機能していた五感、聴覚でしっかりと話を聞いていた。
彼らの焦り様からしても、ボクに考える時間なんて残されてはいないことはわかった。
「い…い……よ、お願い…た…けて。」
「当たり前です!!
僕ら四大精霊はお父さんと契約し、そして助けます!!」
温かい力が体を巡った。
目の前まで迫っていた死が少しずつ遠ざかっていく。
「サラマンダー!!
霊力の供給を緩めないでください!!」
「黙ってろノーム!!集中できねぇ!!」
「ウィンディーネ姉上、落ち着いてください!!」
「あたしは顔に出ないタイプよシルフちゃん。」
「今は、顔の話なんてどうでもいいですよ!!」
どれくらい時間が経っただろうか。
ぼやけていた視界がだんだんとハッキリしてくる。
また、少女の顔が見えた。
目が合う。
心配そうな顔で涙を流しながら、ボクのことをしっかりと見ていた。
そして、奇跡に、運命に感謝するかのように嬉しそうに笑った。
あぁよかった…。
心からそう思った。




