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第1話「――じゃあさ、付き合おうよ」

 ――じゃあさ、付き合おうよ。


 今でもそのときの言葉をはっきりと覚えてる。

 中学の卒業式の日。友達だった、ずっと秘かに想いを寄せていた女の子――由希ゆきに、あたしは告白した。


 あたしは女の子が恋愛対象だということ。

 そして、由希に恋愛感情をいだいているということを。


 進学先は違っていたから、卒業してしまえば会う機会も減る。お互い高校で新しい人間関係もできるだろうし、そのうち連絡すら取り合わなくなるんじゃないか――そんな考えが、あたしにその行動を取らせた。


 あたしは由希のことが大好きだった。

 いつも朗らかなその笑顔も、落ち込んでたら元気づけてくれるその優しさも、人当たりの良いその穏やかな性格も。

 由希の全部が好きだった。


 好きになったきっかけなんて、もう覚えてない。

 気付いたら、いつの間にか好きになっていた。


ゆいと由希って、なんか名前似てるね」って話しかけられたのが出会い。

 それから、席が隣同士だったのもあって、毎日話して、話しかけられて。

 そのうち、由希のことを「いいな」と思うようになっていた、ただそれだけ。


 あたしは昔から、女の子のことが好きだった。

 周りの子たちが色めき始めた頃にはもう、男の子よりも女の子を見てときめくようになっていた。

 そんなあたしだったから、由希にかれるのは当然だったのかもしれない。


 同じクラスになって約一年、由希と一緒に過ごしてきた時間がそれで終わってもいいのかという葛藤かっとうはあった。

 このまま黙って気持ちを心に秘めたまま、淡い想い出で終わらせる方が良かったのかもしれない、とも思った。

 けれど、結局あたしは言ってしまった。気持ちを知ってほしかったから、なんて、自分のことしか考えてない独りよがりな行動。


 卒業式当日。式が終わった後、由希を呼び出した。

 由希は人気者だったから、他の人と約束があったりして来てくれないんじゃないかな、と不安だったけど、由希はすぐに来てくれた。


 今まで秘めてきた想いを告げるのには勇気が必要だった。

 呼び出したのはいいものの、なかなか切り出せずにしどろもどろになるあたしを、でも、由希は急かすことなく待ってくれて。

 そして、あたしの告白を驚くことなく、黙って聞いてくれた。

 今思うと、あの落ち着きようは、まさかあたしの気持ちに気付いていたからなんだろうか。それまで冗談めかして手を繋いだり、抱きついたりしていたから――いや、バレていたなんて思いたくない。隠していたはずの気持ちを由希に見透かされていただなんて、考えるだけで恥ずかしすぎて死ねる。


 あたしとしては、気持ちを知ってもらえるだけでよかった。

 だから気持ちは伝えても、付き合いたい、という決定的な言葉は言わなかった。由希がうなずいてくれるとは思わなかったから。

 そんな独りよがりで一方的な告白を終えて、逃げるように去ろうとしたあたしに、

 

 ――じゃあさ、付き合おうよ。


 と、由希は言った。

 完全に想定外のことを言われて、うれしさと信じられない気持ちとでぐちゃぐちゃになって、あたしは頭が真っ白になってしまった。

 返事ができないあたしに、由希は、


 ――私も唯のこと好きだし。いいよね?


 と、あたしが好きになった理由の一つの、見惚みとれるような眩しい笑顔と一緒にそう告げてきた。


 そうして、あたしたちは付き合うことになった。

 これまでのような友達としてではなく、恋人として。


 学校が違うから、これまでのようにいつも一緒にいるというわけにはいかない。

 それでもお互いの学校が近いのもあって、ほぼ毎日、放課後に会っている。休日にはデートもする。

 夜、寝る前にベッドで夢見ていたような、恋人として過ごす楽しい毎日。


 でも、ずっと気がかりなことがあった。

 恋人として由希の隣で笑っていても、それはどんどん大きくなっていく。

 確認したいけれど、関係が壊れてしまうのが怖くて今さら言い出せない。


 あのとき、由希から「好き」と言われたときにもっと突っ込んでいておくべきだったんだ。


 ――由希はどこまで本気なの?

 ――由希が言った『好き』ってどういう意味での『好き』?


 由希はきっと『普通』の女の子だ。女の子を恋愛対象として見ているあたしとは違う。


 ――だって、修学旅行の夜、同じ部屋の子たちと恋バナをしたときのこと。

 みんなが誰誰くんがかっこいいとか好きだとか、男の子の話で盛り上がる中で「私も好きな人がいる」って言ってたから。

 誰かは言わなかったけど、それを聞いて、あぁ、やっぱり由希は男の子が好きなんだな、と思った。

 恋の話をする隣の由希の顔が見たくなくて、あたしはうつむいてた。


 ――それに、まだ友達だった頃、ふざけて抱きついたり、無理矢理手を繋いだりしたとき。

 あたしはバカみたいにドキドキしていたし、笑い方だってぎこちなくなっていたのに、由希はいつも穏やかに笑っていたから。「しょうがないなぁ」ってあたしのそんな行動を笑って許してくれていたから。

 その笑顔には『恋』の色なんて見当たらなくて、ただ友達に向ける笑顔にしか思えなかった。だから、抱きつく度、手を握る度、あの頃のあたしは少し切なくなった。


 あたしは、由希ともっと親密になりたい。

 ちゃんと恋人として、恋人繋ぎしたいし、キスもしたいし、強く抱きしめたいし――ぶっちゃけ、えっちなこともしたい。


 でも、あたしがそう迫ったとき、はたして由希は受け入れてくれるんだろうか。


 あたしの『好き』と由希の『好き』は、本当に同じなんだろうか。

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