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異能力バトルスポーツでチームを結成! ~ルールはまったく知りません!~  作者: おかかむすび
一章.始まり

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9.ポルクスとカストル

 初めての練習試合に、バラムのチーム加入という、怒涛の一日を終えてから早くも一週間が経った。

 結局、あの後はもう遅いということで解散となった。それ以来、チームとして集まったことはない。


 ティルとは同じ学校なので、毎日顔を合わせるし、話もするようになった。

 しかし、ティルと話していても、グランドアクトの話を振るような空気感はない。そして、ティルの方からも触れてこない。

 クレアは今の状況が、なんだか良くない停滞をしているように感じ、気が気ではない。


「このままじゃダメだ!」


 その日の夜。

 クレアは自室で勉強用に使っていたシャーペンを机に投げ出し、ベッドにダイブした。ノートは新しいのを用意したばかりなので、すぐに表紙が閉じてしまった。

 表紙にはグランドアクトと書いてあり、中にはメイカーとして覚えなくてはならないことや、今後のチームについての方向性についてなど、思いついたままに書き込まれている。


「私が学ぶべきことが多いのは事実だけど、それ以前にチームがバラバラなままじゃダメ!」


 メイカーがチームをまとめることの重要性は、初心者なりに理解しているつもりだ。

 何せ、実際に舞台の場に立って戦うのはメイカーではなく、アクターなのだ。メイカー一人がどれだけ頑張ったとしても、肝心のアクターたちに戦う気がなかったら、どうにもならない。


 挙句、今のチームの空気は最悪と言っていい。

 空気を悪くした原因は分かっている。バラムだ。正確には、彼の持つ能力の高さが、ポルクスのプライドを傷つけた。


 誘っておいて、それはないだろう。

 なんて、糾弾するのは非常に簡単だが、メイカーという立場のクレアがそれをしたら最後、チームの雰囲気はもう二度と元に戻らない。

 何より、ポルクスはクレアのため、元から苦手としていた相手に、頭まで下げてくれたのだ。それをクレアが責めるなんていうのは、あまりにひどい。


 それから、ティルも心配だ。

 彼は、就職活動の空いた時間を使って協力してくれるという、まさに慈善活動でチームに入ってくれた聖人である。色々と打算はあると思うが、クレアの中ではそうなっている。

 なのに、アクトアカデミーの特進クラスに通っている、言わばグランドアクトのエリート教育を受けてきたアクター二人に挟まれるという形になってしまった。


 もしも、ティルの立場が自分だったら? 

 居心地が悪くて仕方がないと、間違いなく感じるはずだ。


 これについても、ポルクスは責任を感じている気がする。

 彼の反応を思い出せば、バラムの能力があそこまで完成度の高いものだとは考えていなかったのだと分かる。

 恐らくは自分と同じか、少し上ぐらいの想定で声をかけてくれていたのだろう。


 それが、蓋を開けてみればドン引きするレベルで強かったらしいのだから、反応するなという方が難しい。


「とは言ってもなあ……。誰が悪いとかって話じゃないからなあ……」


 クレアが頭を下げて終わる問題なら、いくらでも頭を下げられる。明らかに非がある人がいれば、言葉を交わすこともいとわない。

 しかし、今回の問題はそれでは解決できないというのが、クレアの頭を大いに悩ませた。


「解決できそうなところから話し合い……。やっぱり、一番顔を合わせやすいティル君から? でも、私から誘っておいて、グランドアクトはもう辞めておく? とか言いたくないぃ……」


 クレアの気持ちで言えば、ティルとはこれからも一緒に頑張っていきたい。

 就職先が決まった結果の脱退であればエールも送るが、楽しくないから辞めましたというのは、誘った立場もあって非常に申し訳ない。


 何より、クレアからこれを言うということは、暗にチームから抜けてほしいという意味が含まれてしまいそうで、嫌だった。


 たとえ短い期間だったとしても、ティルにとって良い思い出になってほしい。

 そのためには、早く辞めてしまうべきなのか、続けるべきなのか。クレアには答えが出せなかった。


「グランドアクトのことで相談できる相手と言えば、私にはポルクス君しかいない……」


 我ながら情けないとは思いつつ、やはり一人での解決は限界がある。

 そう判断したクレアは、ベッドに寝転がりながら、アクトリンクの個別チャットで用件をポルクスに送るのだった。


 ♢


 ポルクスに連絡を入れた翌日。

 運よく今日の放課後が空いているとのことで、初めてポルクスと出会った公園で待ち合わせすることになっていた。


「悪い、待たせた」

「あ、ポルクス君! ううん、約束の時間より早いよ!」


 前と同じベンチに座っているクレアの近くまで、ポルクスが駆け足で来てくれた。

 ポルクスの口から洩れる白い息が空に上がっていくのを見ていると、彼がそっと隣に座った。


「それで、大事な話ってのは?」

「うん。その……私のチームについて、なんだけど」


 クレアがおずおずと本題に入る。

 ポルクスは特に思い当たることがないのか、表情が変わったりといった変化はない。


「バラム君とは、うまくやっていけそう……? この間の話を聞いた感じだと、ほら……あんまり気乗りじゃなさそうだったから。私のために呼んでくれたのは嬉しいんだけど、それでポルクス君が無理するのは違うというか、本末転倒というか……」

「ああ、そのことか。この間は悪かったな」


 あっさりと謝られ、クレアは拍子抜けする。

 無理をしているのかも。そう思ってポルクスを注意深く観察してみるが、やっぱり無理をしている様子は見られない。


「大丈夫なの?」

「問題ない。本当に無理だと思う相手は、流石に人が足りてなくとも誘わない」

「それなら、良いんだけど……」

「まあ、あんな態度取っておいて大丈夫だっつっても、気になるよな。確かに、バラムに対して思うところはある。だが、それは俺個人の問題だ。きちんと理解している」

「それが、バラム君のデータと関係あるんだね?」


 言い当てられたことで気まずさを感じたのか、ポルクスが視線を逸らした。空を見上げ、流れる雲を追っているようだ。


「バラム本人も言っていたが、あのデータはアクターとして、ほぼ完成している。いわば、全てのアクターが最終的にはああなりたいと思える、そんなデータだ」

「アクターの最終目標ってことは、プロで通じるってことでいい?」

「そうだ。この前はプロメイカーについて詳しく語らなかったが、実はプロと呼ばれる中にも階級があってな。下から順にC、B、Aと上がっていく形になってる。このAランクに分類されるプロメイカーが、頂点争いをしているトップ連中だ」


 一番ランクが低いとされるCランクであっても、プロはプロだ。まだ練習試合を一回やっただけのクレアには、Cランクですら遠い目標だ。

 Aランクなんて、もはや雲の上である。


「じゃあ、バラム君は既にプロのチームにいてもおかしくないデータってことかぁ」

「それもAランクのな」

「ええっ!? そんなにっ!?」

「それだけ、スタイルアクティブスキルってのは習得が難しいんだよ。それが覚えられなくてもグランドアクトが出来るようにって、汎用アクティブスキルが作られるぐらいにはな」


 あれってそんなにすごいのかと、クレアは慌ててスマホをポケットから引っ張り出し、改めてバラムのデータを食い入るように見つめた。


 言われてみれば、バラムの習得しているアクティブスキルは全て、リバイブと呼ばれるスタイルを持つ亜人のみが習得可能なスキルばかりだ。


「俺がアクターとして十二年生きてきた中で、同年代でこのレベルにまで完成されている奴を見たのは、これで二人目だ。はっきり言うが、この歳でこのレベルまで完成させるのは努力だけじゃ絶対に無理だ。……本当に、天才だよ」


 吐き出すように紡がれた最後の言葉が、ポルクスにとって何か思うところがあるものなのだと、クレアは感じた。

 そして、ポルクスはバラムと同じような能力を持つ人物を、もう一人知っていると言う。


「そのもう一人って、この間話に出てた、カストルって人?」

「…………。まあ、分かるよな。というか、カストルって聞いてピンと来ないだけ、あんたは本当にグランドアクトに興味がなかった人なんだって思うよ」

「もしかしなくても、有名人?」


 それほどにポルクスが言うなら、調べてみれば出てくるかもしれない。そう考えたクレアは、手に持っていたスマホで検索した。

 一秒と待たずに表示された中から、取りあえず一番上の記事を開いてみる。


 カストル。

 グランドアクトの現チャンピオン、デルタが率いるチーム、フォルテのオーバーライドを務めるカラス族の少年のこと。

 彼は十六歳という若さでフォルテに入り、その年でチャンピオンに輝く。以降、デルタは三年間チャンピオンを死守するという凄まじい戦績を収めており、これらを支えるアクターたちは全員、精鋭と言える。


 といったことが、記事には書かれている。


「ええええっ! チャンピオンのアクター!? しかも、十六歳の時から!?」

「史上最年少でチャンピオン入りを果たしたアクターとして、三年前からグランドアクト界隈でカストルの名を知らない奴はいないってぐらいには、有名だぞ。今年も既にチャンピオン戦を終えて、見事優勝してたしな」

「ひえぇ……。しかもこの人、私たちと同い年なのか。これは、天才って言い表したくなっちゃうかも。……もしかしなくても、知り合いな感じ?」

「カストルにはな、双子の弟がいるんだよ」


 ポルクスの自嘲が混じった言葉を聞いた瞬間、クレアは自分の体が固まったのを感じた。スマホは運よく膝の上に落ちてくれたおかげで傷はつかなかったが、そんなことはどうでもよかった。

 ポルクスの今の言葉から、それが誰を指しているのか分からないほど、クレアは鈍感ではない。


 そして、ポルクスと初めて出会ったあの日。

 ポルクスの元メイカーが誰と比較し、あのような酷い言葉を浴びせていたのか、理解できてしまった。


「そっ……か。じゃあ、学校も同じなんだ……」

「まあ、あいつは既にプロとして活動してるから、学校にはほとんど来てないがな。プロにはG.A.Cから与えられる住宅があって、大体はそこにチームメンバーで住むようになるから、家にも帰ってこない」

「そうなんだ。……その、ごめん。聞いたくせに、うまい言葉が見つからなくて……」

「いい、慣れてる。というか、怒っていいんだぞ? カストルのこともあって、俺も有名だからな。わざわざ弱い俺をアクターになんか誘わねえよ」

「え、なんで? ポルクス君は強いよ。この間の練習試合は、ポルクス君がいてくれたから勝てたんだよ?」


 自分を卑下するなんて、ポルクスらしくない。それなのに、彼が自分を卑下してしまうぐらい、カストルとの確執は大きそうだ。


「同じ学校に通う後輩に負ける奴なんか、そういねえよ。同じこと学んでるんだから」

「それでも、ポルクス君は頑張ってるよ。ちゃんと努力しなきゃ、今の状態だって保てないでしょ?」

「……俺はあとどれだけ頑張れば、カストルに追いつけるんだろうな」


 一切こちらを見ようとしないポルクスに、クレアはこれ以上かける言葉が見つけられなかった。

 彼は今まで、どれだけの人に双子の兄と比べられてきたのだろう。そしてそれが、どれほどにポルクスの心に傷を与えてきたのだろう。

 知り合って十日程度の自分が何を言っても、ポルクスには届かない。それがとてもむず痒くて、悔しかった。


「亜人が持つ『スタイル』が、血縁に左右されないってのは、知ってるか?」

「あ、うん。種族は遺伝するけど、スタイルっていう亜人だけが持つ特別な力は、完全にランダムなんだよね? ランダムっていうか、今の科学では解明できてない、みたいな」

「そうだ。それは双子でも同じだとされてる。とはいえ、兄弟でたまたま同じスタイルを持ってる、なんてこともあり得るわけでな」


 亜人は生まれた時から、必ず一つ以上のスタイルを持っている、というのは社会常識となっている。

 現在は、最大で三つまで持っていることが確認されていて、それぞれシングルスタイル、ダブルスタイル、トリプルスタイルと呼び分けられている。


 さっきスマホで調べた記事には、カストルのスタイルについても書かれていた。

 カストルはアンノウン、ファーマメント、レブルのトリプルスタイル。

 そしてポルクスはクロノス、ファーマメントのダブルスタイルだ。


 十五種類あるとされるスタイルの内、双子で、しかもファーマメントが被っている。

 この事実はあまりにもひどい仕打ちだと、クレアは気を落とした。


「ポルクス君はお兄さんのこと、嫌い?」

「傲慢で、横暴で、性根が腐ってて……。そんな奴だったならさっさと嫌いになれて、楽なんだろうな」

「良い人なんだね……」


 非の打ち所がない相手だからこそ、嫌いになれず。

 むしろ、そんな兄のことを憎く思ってしまう自己嫌悪と、周りからの無遠慮な比較にポルクスはずっと苦しみ、今ももがいている。


「じゃあ、ポルクス君が最初に言ってたとおり、チャンピオンを目指すしかない!」

「まあ……俺がカストルの所属するチームを倒せば、解決する問題ではある」

「ポルクス君はすごいよ! 途中で腐ることなく、ちゃんと自分でどうしたらこの問題を解決できるかを考えて、それを実行するために今までアクターを続けてきてるんだから! だから、ポルクス君はすごい!」

「さっきから、すごいしか言ってないぞ、あんた」

「本当のことだもん! これからは私が見てるからね! それから、ポルクス君のことをなんか言う奴は、私がやっつけてあげる!」

「アクターを守るのが、メイカーの務めってやつか?」

「うん! だからこれからは、一人で抱え込まずに私を頼ってね!」


 ようやく、ポルクスと目が合う。

 クレアが笑顔を向ければ、ポルクスもふっと笑ってくれた。


「あんたよりは、ティルやバラムの方が頼りになりそうだ」

「ええっ! この流れでそれはひどい!」

「そうは言ってもだな。ティルは自主練を続けてるようだし、バラムもチームに何が必要なのかを既にまとめてるぞ」

「なにそれ、何の話?」


 本当に何の話なのか分からず、クレアは目が点になった。


「ティルと学校で話してないのか? 俺の方へは個別チャットで、能力の伸ばし方とか頻繁に聞いてきてるぞ」

「し、知らない……」

「バラムも同じチームになったってことで、あいつなりにこのチームのことを考えて動いてる」

「それも、ポルクス君に個別チャットで……?」


 証拠だと言わんばかりに、ポルクスがアクトリンクを見せてくる。クレアが釣られるようにのぞき込めば、個別チャットでやり取りされた履歴が、それはもうたくさん出てきた。


「もしかして、私だけ蚊帳の外? メイカーは私だよ?」

「クレアに聞くより俺に聞いた方が確実だと、ティルもバラムも同じ考えに至ったわけだな」


 ポルクスのスマホを見たクレアはプルプルと肩を震わせ始めた。

 そして……。


「個別チャットは、今から禁止します!!!!」


 クレアの叫び声が大空へと吸い込まれていった。

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