6.初の練習試合
「ごめんね、二人とも。私の都合に巻き込んじゃって」
練習試合を承認した後、ゲームブースへ移動したものの現在空きスペースがないとのことで、アクシィから待機を命じられた。ゲームブースとは、試合を行うための空間を確保してある場所だ。
そのため、アクシィに呼び出されるまで、お互いに少し離れたところで作戦会議という形になった。
「俺が巻き込んだんだよ。ティルも悪いな」
「いやあ、向こうが急に来たんだし、ポルクスさんは悪くないかなって」
ティルが言うには、訓練を始めてから少しした頃、デコイへの攻撃は問題がないから、次は自分にと言ってくれたポルクスへ何度か技を当てていたところで、イレーラがやって来たようだ。
たまたま知り合いに出会ったから挨拶しに来ただけかと思いきや、妙にイレーラがポルクスに絡むので、どうしたものかと困っているところへクレアが来た、といった具合とのこと。
「そうだったんだね。だったらなおのこと、ここで引けないよ。私はポルクス君とティル君のメイカーだもん。新人だとかは関係ない。私のアクターがトラブルに巻き込まれたのなら、私が守るよ!」
クレアが拳を握りながら、力強く言い切る。
そんな姿がポルクスには意外に映ったのか、いつもより目を開いていた。
そこで驚くのはちょっと失礼だと、クレアは心の中で異議を唱えておいた。
「練習試合はいつかしないといけないって思ってたから、それが今なのは全然構わないよ。ただ、試合の流れとかよく分かってないんだけど、大丈夫かな」
「アクターは、メイカーの指示に従うのが一番の仕事だ。今は深く考えず、クレアに言われたことをこなせばいい。技を使うタイミングなんかはアクトフィールドの方も補助してくれるから、最悪体を任せておけ。自分の体を勝手に動かされる感覚は、気持ち悪いと思うが」
「ああ……。それはさっきの訓練中に嫌ってほど感じたから、多分大丈夫」
訓練中に何かあったらしく、ティルがその出来事を思い出したために遠い目をしていた。
「そういえば、訓練自体はちゃんと出来たのかな?」
「うん。デコイだけじゃなくて、ちゃんと亜人相手にも技を当てられたよ」
「ティルは十分、アクターとしてやっていける」
「おおっ!」
勝手に練習試合を受けた後で言うことじゃないが、ティルがアクターとして戦えるというのはまさしく朗報だ。
クレアは万歳した。
「アクトフィールドの性能が良くて、思ってたほど怖くなかったんだよね。これなら、俺でも大丈夫そう」
「はあぁ……よかったぁ……。誘っておいてただトラウマを植え付けただけで終わったら、申し訳なさ過ぎて……」
「あはは……。心配かけてごめんね。これからは時間が許す限り、アクターとしても頑張るから」
「うん、うん! 一緒に頑張ろうね!」
クレアがティルの手を掴んでぶんぶん振るが、身長差やら筋肉差やらのせいでクレアの方が先に疲れていた。
「そういうわけだから、練習とはいえ、今は試合に集中しろ」
「グランドアクトの基本的な流れは、私ちゃんと勉強したよ! 公式サイトのルールも読んだし、アップロードされてる公式動画もいくつか見たから、多分いける!」
クレアが言いきった瞬間、二人の表情が曇った。
「なんだろう。そこはかとない不安が……」
「俺もだ。とはいえ、時間もあまりない。最低限の流れだけ、確認するぞ」
「だから私へのイメージどうなってるの!?」
ポルクスだけでなく、ティルの中でもクレアへのイメージが残念な子という評価で固まりつつあることに納得がいかない。
しかし、今は時間がないので、そのことは後で問い詰めることとする。
「まず大前提なんだが、グランドアクトはターン制のバトルスポーツだってところは、大丈夫だよな?」
「そこは、私でも大丈夫! 試合が始まったら、各ターンごとにお互いのアクターが同時にスキルを使って戦うんだよね」
今まで全く興味がなかったとはいえ、人生で一度も見たことがないわけじゃない。
クラスメイトたちが遊んでいたのやテレビ中継だけでなく、たまに町中で戦っていることもあるぐらいにはメジャーなスポーツだ。
流石のクレアも、最低限のことは知っている。
「その認識で良い。今回の試合は、こっちのチームに登録されているアクターが二人しかいないから、公式が定めている最低人数の2vs2で自動的に組まれることになる。だが、2vs2では『役割』の効果が発動されないから、安心してくれ」
「役割……?」
ティルから疑問が上がったのではなく、クレアから疑問が上がったことに、ポルクスは眉間を揉んだ。
「今回の試合に関係ないことは流すぞ。まず、試合用のアクトフィールドが展開されてから試合が始まるまでに、五分の時間がある。この時間に、誰が出場するかと先発を決める。今回、俺たちは出場するメンバーが確定しているから、決めるのはどちらが最初に出るかだけだ」
「それを決めたらメイカー専用の画面みたいなのに登録して、時間が来たら先発同士が戦いの場……確か、グランドサークルに出て、試合が始まるんだよね」
「場所の名前は正解。専用の画面はメイカーパネルな。三面モニターのタッチパネル式コントロール画面になってる。右画面が戦闘ログになってて、これはグランドサークルの上にあるのと同じだ。左画面が場に出ている自身のアクターと、同じく場に出ている相手アクターの公開情報。んで、中央が場に出ているアクターへのスキル選択と、交代メンバーの一覧と状態の表示だ」
「うん、うん……勉強したとおり。中央画面の交代ボタンを押したら、右画面の内容が中央に移されて、メンバーを選択したら交代になる、だよね。……大丈夫、いけるはず」
ポルクスの話を聞きながら、クレアの視線はずっとスマホ画面に映された公式ルールを追っている。
戦闘ログについては、テレビ中継なんかでもよく表示されているものなので、イメージは沸いている。
「スキルの効果はそれぞれ長押しで詳細が出る。それから、試合用のアクトフィールド内では各チーム全員にインカムが装着されるから、試合中でもある程度会話は出来る」
「それはすごくありがたい!」
ガバっとスマホから視線を上げて歓喜するクレアを見て、二人は自分が抱いた不安は的を射ていたと確信した。
「ただし、シフトゾーン……じゃ、分からないか。交代メンバーが待機する場所にいるアクターは、声を聞くことはできても、声を届けることはできない。相談し合えるのはグランドサークルに出ているアクターだけと考えてくれ」
「そんな……やっぱり私がしっかりしなくては……」
「あんたはマジでしっかりしろよ。まあ、そういった制約があるから、今回は俺が先発で行こうと考えてるが、どうだ」
「ポルクスさんがいいなら、是非そうしてもらえるとありがたいです。先に行けって言われても俺、何していいか分からないから……」
ティルにはシフトゾーンと呼ばれる場所で交代メンバーとして控えてもらい、そこから試合の流れを見て少しでも感覚をつかむという形にするため、ポルクスが先発ということになった。
「先に言っておくが、ティルの出番は必ずくる。だから、そのつもりでな」
「分かりました」
「もちろん! チームみんなで勝つんだからね!」
ぐっと両手で握りこぶしを作り、クレアは気合いをいれる。
そんな彼女に、ポルクスは一つ付け加えた。
「アクトアカデミー生の、標準ステータスについてだ」
ポルクスが言うには、相手の能力合計は大体330前後とのこと。
これが、アクトアカデミーでアドバンスト過程に通っている生徒の平均値らしい。
一般よりグランドアクトについて多くを学べるとはいえ、それで体が早く成長するわけではない。アカデミー生であっても、能力についてはそこまで差が生まれないようだ。
「ティルは訓練の様子とデータから見て、恐らくは基礎値だ。俺は……最終学年だからな。380近くはあるはずだ」
「え、平均より随分高くない?」
「……一応、最終学年のトップ層ではある」
「超エリートなんですけど!?」
もっと自信を持って良いことなのに、妙に歯切れが悪いので、そこについては流すことにした。話を聞いている途中で切り上げることになったら、気まずいところの話ではなくなってしまう。
「とにかく、ステータスについてはそんな感じだ。後は、アクトフィールドの中で怪我することはまず起こらないから、安心して指示してくれ」
「それはすごく安心出来る!」
実際に技をぶつけ合うという性質上、生傷が絶えない競技なのかと思っていたが、どうやらそんなことはないらしい。
なんでも、グランドアクトがスポーツとして認められる経緯に大きく関与している、アクトフィールドがとにかくすごいという。
では、アクトフィールドの何がすごいのか。
それは、亜人たちが持つ能力を全て一律化し、数値にして管理できるようにされていることにある。
つまり、十歳の子供や七十歳のお年寄りでも、二十歳の平均とされる、数値にして320の能力値が保証されるのだ。
このお陰で、本来であれば10のステータスしかない子が、1000を越えるステータスを持つ亜人に殴られる……なんて事は起こらなくなっている。
同じく、最大値は500とすることで過剰な攻撃を抑制し、エンターテイメントとして観られるようにも調整されている。
グランドアクトはスポーツ。魅せる競技であって、相手を傷つけることが目的ではない、ということだ。
「準備が、整いました! こちらへ、どーぞ!」
アクシィに呼ばれた場所へいけば、同じぐらいに相手チームもアクシィに連れられてやってきた。
「準備はよろしくて?」
「いつでもいいよ!」
「両メイカーの、承認を、確認! アクトフィールド展開、です!」
アクシィの体から光の波紋が出力されると同時に、周囲の姿が変わっていく。
中央には戦いの舞台、グランドサークルが現れ、これらの左右に互いのシフトゾーンと、メイカーの所定地を示すマーカーが光っている。
「グランドアクトは甘くないってことを、教えて上げますわ!」
「そっちこそ、私の本気を見くびらないでよね!」
そう言い残してイレーラと彼女のアクターたちが進んでいくので、クレアも二人を連れて反対側にあるマーカーを目指し、上に立った。
すると、メイカーパネルが展開された。中央画面にチームメンバーの一覧が映し出され、選出するアクターと、その中から先発を決めるよう書かれていた。
指示に従い、事前に決めたとおりに設定すると、クレアのそばにいた二人の足元が光り、次の瞬間には二人ともシフトゾーンへ移動していた。
(びっくりしたーっ!)
急に二人が消えたので、思いっきりびびったのはここだけの話。
どうやら、選択が終わった時点で選出されたアクターたちは、自動でシフトゾーンへ移動する仕組みらしい。だからって、いきなりワープするのは心臓に悪いとクレアは思った。
お互いに相手側へ見えないよう、シフトゾーンはブラインドで隠されているようだ。先に選んだ方が不利になる、なんてことは起こらないようで安心した。
「全アクターの選出を、確認! 今回行われる練習試合は2vs2、です!」
イレーラの方の選出も終わったらしく、グランドサークルの中央にいたアクシィが場外へと移動する。
「それでは! 練習試合、開始、です!」
アクシィの宣言と同時に、試合の流れを表示するモニターに、先発アクターたちの名前が表示された。
【名前】ポルクス ♂
【種族】カラス族
【スタイル】「クロノス」「ファーマメント」
【役割】なし
【ステータス】
生命力:D
攻撃力:E
防御力:E
魔法力:C
精神力:C
敏捷力:A
【アクティブスキル】
回帰時計
エアライズシフト
マジカルトス
刹那
心変わり
【パッシブスキル】
タイムバウンド
ループライド
♢
【名前】ティル ♂
【種族】ヘビ族
【スタイル】「ウィズダム」「メメント」
【役割】なし
【ステータス】
生命力:E
攻撃力:E
防御力:E
魔法力:C
精神力:C
敏捷力:E
【アクティブスキル】
ジャマーインパクト
反転の構え
堅固の教え
【パッシブスキル】
なし




