25.VSシオン③
「バラム君のおかげで、どうにか踏ん張れてる。ありがとう」
「僕は基本、交代によるリスクを受ける、言わばクッションになるのが仕事だからね。良い扱い方だよ」
ポルクスが初めてバラムを紹介してくれた時、彼ほどサンドバックに向いている人物はいない、なんてひどいことを言っていたが、その意味がこの一戦でよく分かった。
サンドバックなんて言い方は今も良く思っていないけど、彼の耐久力が一級品なのは間違いない。
♢
自陣:バラム 防+1 精+2 状態異常「再生」
役割:アシスト
アクティブスキル
『命織りの環』@1/2
『聖火の指針』@3/3
『再起の幕』@1/1
『リジェネコード』@0/1
『傷つけること勿れ』@2/2
『希望が再び芽生えますように』@1/1
パッシブスキル
『コンスタントリリース』
『傷の灯』
『生者の責務』@1/1
敵陣:シグル
役割:トップバッター
『存在の証』@1/3
『ラピッドプリズム』@3/3
『心変わり』@5/5
『勇敢な疾走』@2/3
『???』
パッシブスキル
『観察者の刃』@1/1
『???』
▼Tカウント「8」
♢
「ティルに再生がついたから、僕は『聖火の指針』も使えるようになったよ」
「聖火の指針に状態異常を解除する効果はないから、単純に仲間の体力を回復しながら攻撃できるんだよね」
「うん。ティルは体力満タンだけど、そっちは条件に関係ないから使える。ウマ族は精神が低いから、魔法スキルで攻撃できるようになったのは大きい」
「そうなんだ。ウマ族は精神が低い……しっかり覚えないと」
ウマ族であるシグルを攻撃出来たのは、ポルクスの一度だけ。なので、物理スキルの方がとおりが良いのかは不透明だったが、バラムのアドバイスのおかげで狙いを絞れた。
「バラム君、攻撃も頑張ってみて!」
「そっち方面は期待しないでほしいんだけど……僕も少し、スキル構成をいじるべきかな」
♢
▼シグルの『存在の証』!
▼バラムに「まずまずのダメージ」!
▼バラムの『聖火の指針』!
▼シグルに「そこそこのダメージ」!
▼ティルのHPが20%回復した!
▼シグルは倒れた!
▼シオンチームは残り2体になったことで、『正念場』に突入!
▼バラムは「再生」状態により、HPを1/8回復した!
▼シオンのアクター「リュミエール」はグランドサークルに躍り出た!
▼『エース』であるリュミエールは、ここが正念場であると奮起し、全能力+1!
▼さらに、自身の攻を1段階上昇させた!
▼リュミエールは『浮遊視野』の効果により、相手の優先度+技で受けるダメージを減少させようとしている!
▼リュミエールは『星霜の重ね』により、自身の防を一段階上昇させた!
『浮遊視野』…相手の「優先度+」技によって受けるダメージを20%軽減する
『星霜の重ね』…自身が場に出た時、発動する 偶数ターンなら自身の防+1 奇数ターンなら自身の精+1する
♢
「はーっ、やっと落ちてくれた。高速アタッカーのトップバッターはこれだからしんどい」
「くっ……僕はここまでだけど、ダメージは与えたよ……」
「シグル、よく頑張りました! さあ、リュミエール! 出番ですよ!」
♢
自陣:バラム 防+1 精+2 状態異常「再生」
役割:アシスト
アクティブスキル
『命織りの環』@1/2
『聖火の指針』@2/3
『再起の幕』@1/1
『リジェネコード』@0/1
『傷つけること勿れ』@2/2
『希望が再び芽生えますように』@1/1
パッシブスキル
『コンスタントリリース』
『傷の灯』
『生者の責務』@1/1
敵陣:リュミエール 魔/精/速+1 攻/防+2
役割:エース
アクティブスキル
『スカイリレー』@3/3
『記憶の螺旋』@3/3
『戦闘指揮』@5/5
『???』
パッシブスキル
『浮遊視野』
『星霜の重ね』@0/1
『???』
▼Tカウント「9」
▼シオンチーム「正念場」
♢
「ずいぶんと暴れてくれてるようだけど、ここまでよ」
正念場になったことで、エースのリュミエールがグランドサークルに躍り出てきた。黒い毛に覆われた、丸い耳と尻尾はまさにクマ族の特徴に一致する。
エースという役割に矜持を持っていることが分かるほどに、その立ち姿は力強い。
「クマ族は、純粋な鈍足物理アタッカーだよ」
また物理なのかと、クレアは頭を抱える。
これでは、とりあえず交代なんてことはとてもじゃないが出来そうにない。
「バラム君も結構ダメージを受けてきてるよね。クマ族ってすんごく攻撃力が高そうな気がするんだけど……」
「クマ族の攻撃力は、初期値で70あるからね。幸いなのは、魔法攻撃には弱いことかな。ポルクスなら、相性はいい」
鈍重だということは、ポルクスの方が先制を取れる確率は非常に高い。
ということは、ここで考えるべきはどうやってポルクスを安全に場へ出すかだ。
「一番無難なのは、バラム君の希望が再び芽生えますように、かな?」
「そうだね。ポルクスの体力も気持ち減ってるから、それをカバーする感じになるね。ま、仮に倒しきれなくても、ティルが残ってるから十分突破できるんじゃない?」
相手の残りはエースのリュミエールと、毒状態になっているアシストのノアールだ。
キラーのティルはアシストにも強く出られるし、素早さも十分勝っている。悪い対面ではないはずだ。
「じゃあ……えっと、自分からやられてもらう感じで……」
「別に罪悪感を抱くことないって。そういうスキル効果ってだけで、僕の人体に悪影響とかがあるわけでもないから」
使用されるスキルは全て、グランドアクト用に調整されている。そのため、過負荷による悪影響が起こる、なんてことはほぼ起こりえない。
瀕死という状態も、あくまでグランドアクトという競技用に設定されている体力がなくなったというだけで、本当に生死を彷徨っているわけじゃないのは、クレアも理解はしている。
ただちょっと、納得しきれていないだけだ。
「そういうもの、なんだよね……」
「これから先、誰かを安全に出すためにわざとやられ役に出す、みたいなのも起こるようになるんだから、こんなの序の口だって」
「うううっ。出来るだけ、来てほしくない未来だなあ……」
「それはそう」
そこは納得するんだと、相変わらずマイペースなバラムを見て苦笑したクレアは気を取り直し、指示を出した。
♢
▼リュミエールの『戦闘指揮』!
▼リュミエールの攻が1段階上昇した!
▼バラムは『希望が再び芽生えますように』を使用した!
▼バラムは自身の命を全て使い、次に場に出る味方に全てを託した!
▼『希望が再び芽生えますように』の効果により、クレアのアクター「ポルクス」が力を取り戻した!
▼バラムは倒れた!
▼クレアチームは残り2体になったことで、『正念場』に突入!
▼バラムが瀕死になったことで『生者の責務』発動!@0/1
▼リュミエールの攻/魔が1段階低下した!
▼クレアのアクター「ポルクス」がグランドサークルに躍り出た!
▼ポルクスはバラムから『アシスト』の効果を受け、自身の魔を1段階上昇させた!
▼『エース』であるポルクスは、ここが正念場であると奮起し、全能力+1!
▼さらに、自身の魔を1段階上昇させた!
♢
「やっぱり、変化技を合わせてくるか――」
そう言いながら、バラムがシフトゾーンへ帰っていく。これに合わせ、体力が満タンになったポルクスが躍り出る。
再生も状態異常なので、スキルの効果で消えてしまうのが少し痛手だが、それでもおつりが返ってくるぐらいにはやはり、強力だ。
「観戦記録で見たとはいえ、実際目の当たりにするとイカれた性能してるわね……! ほんっと、嫌になるわ!」
「アシストからエースへの流れを決められるだけで、相当なアドバンテージだからな。そこに生者の責務だなんだって重なってくるのは、敵ながら同情はする」
♢
自陣:ポルクス 攻/防/精/速+1 魔+3
役割:エース
『回帰時計』@1/1
『エアライズシフト』@1/2
『マジカルトス』@4/4
『刹那』@3/3
『心変わり』@5/5
パッシブスキル
『タイムバウンド』@1/1
『ループライド』@1/1
敵陣:リュミエール 精/速+1 攻/防+2
役割:エース
アクティブスキル
『スカイリレー』@3/3
『記憶の螺旋』@3/3
『戦闘指揮』@4/5
『???』
パッシブスキル
『浮遊視野』
『星霜の重ね』@0/1
『???』
▼Tカウント「10」
▼両チーム「正念場」
♢
「クレア」
「はい!」
エースとしての力を十全に発揮したポルクスが、グランドサークルに立っている。それがとても嬉しくて、クレアは元気に返事した。
「試合が終わったら反省会な?」
「ひえぇぇ……」
現実は非常であった。
「ま、もったいない精神を出さなかったことは褒めてやる」
「えっ、何の話?」
もったいない精神とは何だ。それはいつ発動する効果なのかと、クレアはぽかんとした。
「やっぱ、バラムの方が上手だっただけか。さっさと俺につなげるよう、誘導したな?」
インカム越しに話しかけながら、ポルクスがシフトゾーンの方を見る。当然、返事はない。
「あのぉ……説明をしていただいても……」
「大したことじゃない。バラムのデータは、前回の対戦から情報を大きく抜かれてる。だから、ブロッキングである再起の幕や、蘇生させる希望が再び芽生えますようには知られているとみるべきだ。これに合わせて、相手は変化技を使ってくるのが見えてたってわけだ」
カテゴリにブロッキングと指定されているスキルは、相手の攻撃スキルを防ぐことで、追加効果を発揮できる。ただし、変化技に対しては効果がなく、相手が変化技だった場合、スキルは失敗したという扱いになる。
また、バラムの攻撃性能は残念ながらダントツで低い。
彼からの攻撃はさほど脅威ではないため、それを逆手にとって能力を上げ、一気に相手を倒していくために利用されるところだった、というわけだ。
これを業界用語で、起点にする、というらしい。
「相手がこのターンに攻撃力を上げる変化技を使ってきたのは、まさにバラム君を起点にしようとしてたってこと?」
「そういうことだ。いくらクマ族の精神力が低いとはいえ、体力は高い。一発でも耐えればそのまま俺まで持っていく算段を立てるのは、現実的だ」
今になって思い返すと、バラムは自分でダメージを稼いでから、なんて話は一切しなかった。
あの時はメイカーの意見を尊重して乗ってきた、ぐらいにしか考えていなかったが、ちゃんとした理由があったから自分の上げた意見が一番良いと思っての賛同だったのだと、クレアはようやく気がついた。
「その場で粘ることが、いいことにつながるばかりじゃないんだ……」
「戦術については追々な」
こういったものは、状況で大きく変わっていくものだ。どうしたって、最適を選び続けられるものではない。
もちろん、上へあがっていくためには定石などを覚えていかなければならないが、それ以上に大切なものがあることを、クレアはもう見失ったりしない。
この盤面を制した方が、この試合に勝つということを肌で感じ取りながら、クレアは次の動きを考えた。




