22.練習相手はあがり症?
クレアは、バラムを見返すという、非常に自分本位な気持ちで練習試合をしてくれそうな相手を探す。
完全に目的がすり替わってしまっているが、必要なことに間違いはないので、まあいいやの精神である。
共有スペースにいる人たちに、クレアは声をかけていく。
しかし、お互いの求める対戦が合致しなかったり、予定が合わなかったりでなかなかうまくいかない。
「3vs3も4vs4もダメって言われちゃうんだけど……」
「年末だっていうのにここにいる連中なんて、大体がオープンエントリー予選参加予定者でしょ」
「だったらなおのこと、観戦記録を残すために試合したいはずじゃないの?」
「オープンエントリー予選に参加予定で、この時期にもなって観戦記録が三つ埋まってないチームなんて激レアなの。大体の連中は予選後半戦の5vs5か、あるいは最終戦のアマチュア公式大会戦に向けた6vs6の最終調整を行いたいんだよ」
完全に自分が周回遅れなことを知り、クレアはまた顔面蒼白になった。
「それじゃあ、アクター探しを優先した方が良かったのかな?」
「時間がないから、並行するのは必要だと思うよ。そうはいっても、アクター探しに関しては出会いがあるかどうかだから」
「コネとか、なんかないかな!」
新人メイカーのクレアに、アクターになってくれそうな亜人の知り合いなんているわけがない。むしろ、よく同級生のティルを引っ張ってこれたなと驚かれるぐらいだ。次もあるとは期待できない。
だが、バラムはアクトアカデミー生だ。同級生でも後輩でもいい。なんかこう、いい感じの子がいたりしないだろうか。
「僕ってさ、友達いないんだよね」
「面倒くさいからって嘘はよくない……。え、本当のやつだったりする?」
「みんな、僕の能力とは友達になりたかったみたいなんだけどね」
「闇が深そうだから、聞かなかったことにしていい?」
面倒くさいことを回避するためなら、容赦なく自分の闇をぶちまけてこようとするバラムに、クレアはドン引きである。
バラムにアクターの紹介を頼むのは危険だと判断したクレアは、鳴らない口笛を吹いて誤魔化し、練習試合を受けてくれそうな人を探すことに専念した。
その後も何人かに声をかけてみたが相手との希望が合わず、今日はもうダメかもしれないとクレアが諦め始めた時、何やら共同スペースの端に座り込んでいる人を見つけた。
見た感じは自分と同じ、人間の女性だ。短めに切りそろえられた濃紫色の髪は、何故か不自然に前髪だけ伸ばしてあるのが若干気になるが、体のどこかに羽根があるとか、尻尾が生えているといったことはない。
今度こそ練習試合をと、クレアは気合を入れて声をかけた。
「初めまして。私はメイカーをしているクレアって言う者なんですけど、今お時間――」
「ぎょえぇぇぇ!!!!」
「ひえぇぇぇ!?」
クレアが声をかけたら、なんと相手は奇声を上げてきたではないか。クレアはびっくりして、同じように変な声を上げてしまった。
「なん、だれ、なにぃ!? なんですかぁ!?」
「へあぁ!? メイカーさんだと思ったんですけど、違いました!?」
わたわたとてんぱる相手に、クレアは必死にこちらの声を届ける。若干、テンションが引っ張られ気味なのはご愛敬だ。
「はいぃ! メイカーですー! こんな私がメイカーなんかしててごめんなさいぃ!」
「えぇぇ!? そこは謝ることじゃないと思いますよ! 私なんて、まだメイカー歴十日前後のぺえぺえですから!」
「ぎょあぁぁ! 新人なのに知らない人に声をかけられるなんて、陽キャすぎぃ!!」
ますますテンションを明後日の方向にぶち上げていく相手に、クレアはもうどうしていいのか分からず、泣きたくなってきた。
声をかける相手を間違えたと思うのは、もはや今更である。
「シオンちゃん! ここにいたのね!」
「はっ! ユイナー! だずげでぇぇ!」
「ちょっと目を離したすきに、こんな端っこまで来てっ……。あの、シオンが迷惑かけましたよね? ほんっとーに、ごめんなさい!」
「あ、いえ……急に声をかけて、すみませんでした……」
シオンと呼び、彼女の元に大慌てでやってきたのは、左肩に茶色のふわふわな羽根を生やしている女性だ。シオンへの小言はすぐにやめ、ぺこぺこと綺麗なお辞儀を何度も繰り返してきた。
あの羽根の特徴はフクロウ族だったかなと、クレアは若干現実逃避を始めている。
「えっと、シオンに何か御用でしたか?」
「あ、もしよければ練習試合をと思ったんですけど、怖がらせちゃったみたいで……」
シオンはクレアと同じぐらいの歳に見えるのだが、極度のあがり症で対人関係が苦手な様子。
何も知らなかったとはいえ、不用意に声をかけてしまったと、クレアも頭を下げた。
「練習試合! い、良いんですか? ぜひ! ぜひやりましょう!」
「えっ――」
「えぇぇ! ユイナってば、何勝手に決めてるんですかぁ!?」
ここは、お騒がせしてすみませんでした。いえいえ、こちらこそ。みたいな流れで解散するのではないのかと、クレアは瞠目する。
同じように、シオンも瞠目している。
「シオンが怖い人は嫌だとか、今日は緊張がすごくて無理とか、いちゃもんばかり付けるから、全然練習試合出来ないんだもん! あの、希望はそちらに合わせますから、どうか! どうかシオンと練習試合を!」
「あ、え……4vs4とか、大丈夫――」
「4vs4ですね! あ、それだと私が出れない……いや! やりましょう! もうみんな、対戦に飢えてるんで! はい!」
あれ、これはもしかしてシオンじゃなくてユイナの方がやばい人なのでは。そう思った時には既にあれよあれよと事が進んでおり、今から三十分後にゲームブースで4vs4の試合が予約されていた。
「ほんっとーに、ありがとうございます! いい試合にしましょうね! あ、もちろん公式戦同様、観戦記録とかステータス推測とか使ってもらって全然! 大丈夫なので! それではまた!」
「ぐぇ……ユイナ、くび、くびしまってりゅ……」
ルンルン気分のユイナに首根っこを掴まれ、ずるずるとシオンが引きずられていく。
クレアはそんな二人の姿を、ポカーンと見つめていた。
「お疲れ」
「あ、うん……。えっと、とりあえず……みんなに報告しにいこっか?」
完全に巻き込まれないよう、退避していたバラムに文句を言う気力もない。クレアは何が起こったのかあまり理解できないまま、とりあえずコンディションリングの方で鍛錬を積んでいるみんなの元へ向かった。
♢
コンディションリングでみんなと合流したクレアは、ルールベースで4vs4の練習試合をしてくれる相手が見つかったことを伝えた。
「4vs4で受けてくれる相手が見つかってよかったな」
「うん。それについては本当、相手に感謝だよ。まあ、なんかすごい濃かったけど……」
「これが俺のグランドアクト初デビューになるわけかあ。ちょっと緊張してきたかも」
「大丈夫ですよ。俺の初試合なんて、いきなり売られた喧嘩を買うような形で始まりましたから」
「なにそれ、怖いんだけど」
ティルの話を聞いて、ハルマサが真顔になっている。
その時は色々あったんだと言いたいが、時間がないので弁明はまた今度にしよう。
「それでね、練習試合を行う前に、観戦記録やステータス推測を使っていいって言われたの。どういうことか、教えてくださいっ」
こういうところを早く直さなくてはと思いつつ、クレアはポルクスに尋ねた。
「グランドアクトは基本、目と目があったら即バトル、なんてしないんだよ。普通は相手の情報を調べてから、試合に臨むんだ」
「相手の情報って、データのことだよね。それをアクトリンクの機能で調べるってこと?」
いまいちピンと来ていないクレアに、ポルクスはやった方が早いというので、実際にやってみることになった。
これは全員が身に着けるべきとのことなので、ティルとハルマサにも同じように教えている。
「今回は時間がないから、確実に出てくるであろう役割を持っている相手に絞って、データの精査をするぞ」
今回は4vs4なので、デュアルエースとエンペラーは除外。そこから、グランドアクトで出場回数の多くなりやすい役割、エースとトップバッターに絞り、今回は情報を集めることになった。
「まず、観戦記録。これは、最大三つまでログが残るよう設計されている。対戦相手は……すでに三つの記録があるようだな」
クレアの方はまだ二つなので、相手は情報集めに苦労するだろうとポルクスは言った。
「あ、オープンエントリー予選の参加条件に観戦記録が求められてるのって、こうやって情報収集できるようにするため?」
「そうだ。相手が無名となると、そこと当たったチームへの負担がでかいからな。まあ、練習試合だとそんなのはざらだが」
「練習ならともかく、大事な試合で一方的に情報を抜かれてる状況は、確かに嫌だな……」
G.A.Cってちゃんとしてるんだな、なんて失礼なことをクレアは考えながら、対戦相手であるシオンの観戦記録を開けてみた。
観戦記録は最新の物から過去三件まで並んでおり、とりあえず一番新しいものをタップしてみる。
そこには、各ターンにシオンのチームと相手のチームがそれぞれ何を使用したか、当時はどういう状態だったかのログが表示されている。
「自分のは見たことあるんだけど、他の人のもログだけなんだね」
「そうだ。あくまでも分かるのは、どんなスキルを使用するかだけ。どうしてあの時、そのスキルを選択したのかなどは分からない」
「でも、これで相手のアクターがどんなスキルを習得しているか、把握できるね」
相手がその試合中に使用したスキル以外はすべて非表示だが、一つでも分かっているだけで全然違う。
ここで、情報一つで違うんだと自分で気づけたことに、クレアはちょっとだけ自分に自信が持てた。
「次、ステータス推測の方は、アクトリンクに登録されているアクターのステータスを教えてくれる」
種族とスタイルは完全に表示。ステータスについてはランク分けされたもの。そして、役割は未公開となる。これらが知りたい場合は、観戦記録の方でログを辿るしかない。
また、登録されている観戦記録のデータが古い場合でも、アクトリンクに登録されている最新のデータを利用するので、古いステータスが表示される、ということはない。
「分かった。観戦記録とステータス推測を見て、相手のデータをまとめてみるね」
鞄からノートとペンを取り出し、クレアはアクトリンクを開きながら相手のエースとトップバッターのデータをまとめてみた。
♢
【名前】リュミエール ♀
【種族】クマ族
【スタイル】「メメント」「ファーマメント」
【役割】エース
【ステータス】
生命力:C
攻撃力:C
防御力:D
魔法力:E
精神力:D
素早さ:E
【アクティブスキル】
スカイリレー
記憶の螺旋
戦闘指揮
『???』
【パッシブスキル】
浮遊視野
星霜の重ね
『???』
♢
【名前】シグル ♂
【種族】ウマ族
【スタイル】「アンノウン」「ウィズダム」
【役割】トップバッター
【ステータス】
生命力:D
攻撃力:D
防御力:E
魔法力:E
精神力:E
素早さ:C
【アクティブスキル】
存在の証
ラピッドプリズム
心変わり
『???』
【パッシブスキル】
観察者の刃
『???』
♢
観戦記録のログで確認した結果、エースを務めているのはクマ族の女性、ミュリエール。
そして、トップバッターを務めているのはウマ族の男性、シグルだ。
「あれ、さっきのフクロウ族の人がエースじゃないんだ」
メイカーのシオンと親しそうな様子から、てっきり彼女がエースなのだとばかり思っていたが、どうやら違うらしい。相手のチームは、一番強い人をエースに選んだタイプなのかもと、クレアは思案する。
「デュアルエースだったんじゃない?」
「そっか、その可能性があったね」
バラムの補足に、クレアは大きく頷いた。
今回は4vs4なので、デュアルエースは出場できない。彼女が、自分は出れないと言っていたのも、そう考えれば辻褄が合う。
「あんた、データを纏めるの上手いな。綺麗で見やすい」
「ほんと? えへへへ、それは良かった!」
ノートに纏めた相手データを見ていたポルクスが、クレアのことを褒めた。普通に褒められたので、クレアは有頂天だ。
「じゃあ、今度はこの纏めたデータから分かることや、対策を考えてみてくれ」
「ぴゅっ」
クレアは変な声を漏らし、一気に萎えていった。
実は、データを纏めるまでは余裕だった。問題は、これの何を見て、どう対策を立てればいいのかが分からないことだ。
「ステータスを見る限り、どっちも攻撃力が高いね」
「ああ、覚えているスキルも物理ばかりだ。クレア、これから分かることは?」
「トップバッターもエースも、物理重視のタイプってことだね! じゃあ、防御力の高い人を当てた方がいいのか」
ハルマサの気づきから、ポルクスが助け舟を出してくれる。これにクレアが全力で乗っかれば、ポルクスはほんの少し、眉をひそめていた。
それを見てしまったクレアは、先ほどポルクスに言われた、クレアにはまだ早いという言葉が蘇ってきたことで焦りを覚える。
こういうことをちゃんと自分で気づけないといけないのに、自分は何をやっているんだと、情けない気持ちでいっぱいになった。
「エース対決なら、ポルクスさんの方が確実に素早さで上が取れるよ。なんなら、俺も素早さがDに上がったから、活躍できると思う」
「え、Dに上がった?」
何の話だと、クレアがびっくりしてティルの方を見る。それから少し遅れて、バラムとポルクスから白い目で見られていることに気づく。
「あんた……。ちゃんとチームメンバーのデータは定期的に見とけ」
「この間の試合後にティルは結構、能力値上がってたよ」
「そうなのぉ!? 気づかなくてごめんね、ティル君!!」
「あはは、本当に気付いてなかったんだ。クレアさんらしいけど」
床に額を擦りつける勢いで謝罪を繰り返した後、クレアは急いでティルのデータを確認する。
そんなクレアを見て、バラムは呆れたような顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。
♢
【名前】ティル ♂
【種族】ヘビ族
【スタイル】「ウィズダム」「メメント」
【役割】キラー
【ステータス】
生命力:E
攻撃力:E
防御力:E
魔法力:C
精神力:C
素早さ:D
【アクティブスキル】
ジャマーインパクト
反転の構え
堅固の教え
【パッシブスキル】
偽記追写
♢
「体感としては、体力と魔法力も伸びてるよ」
「ちょちょちょ! それもすごいけど、パッシブ! パッシブスキルが増えてる!!」
能力値を伸ばすのももちろん大変だが、それ以上にスキルを習得するのは大変だと聞いている。
それを、この短期間にティルは成し遂げたらしい。彼はもしかすると、潜在能力がすごいのかもしれない。
「これ、もしかしなくても俺がドベな感じ?」
「鍛錬、頑張ってね」
さらっとバラムに見捨てられたハルマサが項垂れた。
「ちなみに、俺も体力と魔法力が少し上がっている。データ上の変化はないが」
「情報量が多いぃ!」
そしてクレアは、頭から煙を出している。
「とりあえず、私のチームで防御力が高いのはバラム君とハルマサさんだから、トップバッター対決の相性は悪くない。って感じで、良いんだよね!」
「それでいい。最初に気を付けるべきことは、相手の習得しているパッシブスキル『観察者の刃』。これは、こちら側が同じ技を連続で発動した時、その威力を半減にする効果を持っている。カテゴリは反応だから一度だけだが、かなりダメージを下げられるから注意しろ」
相手のことを分かっていれば、不利な状況を避けることが出来る。これこそが、情報を集める大切さだと、クレアはようやっと理解できてきた。
「エースには、出来るだけキラーのティル君を当てたいね」
「そうだな。俺がその後を詰めて、残りも抜いていけるのが理想だ」
「僕は状態異常の解除と、相手の使用回数が少ない技をブロック出来れば理想。後は誰か味方一人を生き返らせて、仕事は終わり」
「俺は一応物理も魔法もいけるけど、今のところは物理の方が強いかな? 速さはもう、どうあがいても勝てないから諦めといて」
みんなから特異なことを聞いたところで、時間がやってきた。
後はもう、本番ですり合わせていくしかない。
「よし……よし! 今回も勝とうね! おー!」
「おー!」
「おー」
ティルとハルマサは、クレアと一緒に拳を突き上げてくれた。
一方、ポルクスとバラムはどことなく、険しい表情をしているように感じられた。それは、試合への緊張か、指揮への不安か──クレアには、二人の表情の意味が分からなかった。




