暗躍するバニー達
「さて、少し話をしようか?」
Dr.ラビットは、壊れたビルの縁に腰をかけながら、煙草をくわえる。
戦いの余韻が残る街の空気。
黒い霧は晴れ、アビス・クリーチャーの残骸は消えていた。
スカーレットは拳を握りながら、まだ荒い息を整える。
「……それにしても、まったく……“ウサギ”がこんなに暴れ回るとはな」
Dr.ラビットの呟きに、スカーレットが眉をひそめた。
「チッ、ウサギってのは“跳ぶ”もんだろ? ま、ぶっ飛ばすのは得意だけどな。」
彼女は肩を回しながら、未だに自分の体に残る戦闘の余韻を感じる。
さっきまでの自分とはまるで違う。
拳を振るうたび、全身に漲るエネルギー——
(……何だ、この感覚。)
ベリルも、指先に漂う魔力の名残を見つめながら、微笑を浮かべた。
「ふふっ、確かに……悪くない気分だわ。」
ノワールは冷静にフードを被り直しながら、Dr.ラビットを一瞥する。
「この力、どういう仕組みなの?」
「そうだよな、”バニー”って何だ?」
スカーレットは、自分の頭の上にピンッと立ったウサ耳を引っ張る。
Dr.ラビットは、その問いに「待ってました」と言わんばかりに指を鳴らし、空中にホログラムを展開する。
そこには、3人の戦闘データが映し出されていた。
「お前たちが今使っているのは、“ラビットギア”——異世界の”バグ”を利用した戦闘強化装置だ」
「……バグ?」
スカーレットが眉をひそめる。
「簡単に言えば、この街と異世界の”境界”は、徐々に壊れつつある。そして、お前たちの力は、その”バグ”を利用して成り立っている」
Dr.ラビットは煙を吐きながら、静かに言った。
「——つまり、“お前たち自身も異世界の一部”ってことだ。そして、お前たちは”バグ”を操る戦士……つまり、“バニー・バトラーズ”ってわけだ」
「…………」
スカーレットとベリルが、何とも言えない表情でDr.ラビットを見つめる。
「……つまり?」
スカーレットが眉をひそめる。
「いや、だから……お前たちは異世界との境界を越えた存在になったんだ。通常、この世界の人間は”バグ”を認識できない。しかし、お前たちは”バグ”を取り込み、それを力に変換できる。つまり、その代償としてお前たちは”普通の人間”じゃ——」
「ちょっと待った」
スカーレットが手を挙げて静止する。
「.......ややこしくねぇか?」
「要するに、バニー=戦士ってことじゃない?」
ベリルが小首をかしげる。
「ま、まぁ、簡単に言えばそうなるな……」
「ふぅん、バニーって言うから“可愛いウサギちゃん”のことかと思ったけど、そうじゃなくて“戦士”って意味なのね?」
「いや、バニーはウサギだろ?」
スカーレットがすかさず反論する。
「……バニーは戦士であり、ウサギでもある」
Dr.ラビットが苦々しく答える。
「……やっぱりややこしい」
スカーレットがこめかみを押さえながらため息をつく。
そんな様子を見ていたノワールもため息を吐いた。
「でも、ウサギって可愛いじゃない?」
ベリルがくすくすと笑う。
「ふん、戦場で”可愛い”とか言ってる場合かよ……」
スカーレットが呆れたように腕を組む。
Dr.ラビットは煙草をくわえながら、ホログラムの画面を消した。
「……まぁいい。今説明したところで、お前たちには理解しきれんだろうし、どうせ途中で面倒くさくなって“考えるのをやめた”って顔してるしな」
「ちょっと! 私たちのこと、そんなバカみたいな——」
「——また今度、話してやるよ」
Dr.ラビットはそれ以上の説明を放棄し、肩をすくめた。
(……まあ、最初から今全部話すつもりもなかったしな。)
「お前たちは、今はただ“戦う力を手に入れた”とだけ思っておけばいい。それだけわかってりゃ、問題ねぇよ」
スカーレットは、まだ納得しきれない顔をしながらも、ウサ耳を指で弾く。
「……まぁ、要は戦えってことだろ? それくらいなら理解できるぜ」
「ええ、つまり、“可愛いウサギちゃん”がこの世界を守るってことね?」
ベリルが軽やかに微笑む。
Dr.ラビットは彼女の言葉にわずかに眉をひそめたが、何も言わなかった。
(……そう思わせとくのが、一番都合がいい。)
「よし、話はここまでだ。これからどうするか、決めるのはお前たちだ。」
スカーレットは、黙って拳を握りしめる。
「私たちのこと、“バッド★バニー・バトラーズ”って呼んでたわよね?」
ベリルが楽しげに微笑む。
「ふん、バニーの名前なんて、正直どうでもいいわ。でも……“戦う理由”にはなる」
ノワールがフードを少し深くかぶる。
「……ったく、こんなフザけた名前、気に入らねぇけど——」
スカーレットは拳を握り、不敵に笑った。
「まぁいいか。“バッド★バニー”、やってやるよ!」
彼女たちは、“暗躍するバニー”。
ここから彼女たちの物語が、本格的に動き始める——。