最初の戦い
——ドォォォォン!!!!
爆炎が夜を裂いた。
スカーレットの拳が叩き込まれた直後、クリーチャーの一体が爆ぜるように四散する。
だが、それでも敵の攻撃は終わらない。
「チッ……一匹潰したくらいで、調子に乗るなってか?」
スカーレットが拳を振り抜きながら、獰猛な笑みを浮かべた。
——ギャアアアアア!!!!
異形の叫びが夜を震わせる。
瞬間——
「後ろよ、スカーレット!!!」
ベリルの声が響いた。
——影が、スカーレットの背後に回り込む。
“アビス・クリーチャーズ”の一体が、闇と同化しながら、無音でスカーレットを貪ろうと迫る。
「……あ?」
「キャンディ・エクスプロージョン!!!!」
——バンッ!!!!
次の瞬間、紅い閃光が闇を撃ち抜いた。
ベリルの魔力弾が、影の奥深くへと炸裂し、クリーチャーの腕が焼け飛ぶ。
「ふふっ……そろそろ”数の暴力”に押し潰されるところだったわね?」
「はッ……誰が”押し潰される”かよ!!」
スカーレットが地面を蹴る。
——ズガァァァァン!!!!
地面が割れ、炎の爆風が吹き荒れる。
クリーチャーたちが衝撃に押され、体勢を崩した瞬間——
——シュンッ!!!!
闇の中を駆け抜ける”黒い閃光”。
「ブラックラビット・エンド。」
——ズバァァァァン!!!!
ノワールのカタナが、敵のコアを斬り裂いた。
「……無駄に騒ぐ必要はないわ。倒すなら、確実に。」
ノワールが、漆黒の刀身を返しながら冷たく呟く。
クリーチャーの影が霧散し、闇の一部へと溶け込んでいく。
——だが、まだ敵はいる。
「……まったく、キリがないわねぇ。」
ベリルが余裕の笑みを浮かべつつも、銃の引き金を引いた。
「キャンディ・エクスプロージョン!!!!」
——バンッ!!!!
ピンクの魔力弾が、敵の群れを直撃。
だが、そこから”さらに影が再生”しようとする。
「“再生”するのかよ....!ウザいな」
スカーレットが舌打ちしながら、拳を握る。
——ズズズ……
影の群れが”膨れ上がり”、一体の巨大なクリーチャーが形を成す。
異形の巨体——通常のアビス・クリーチャーよりもずっと大きく、分厚い甲殻に覆われた体。
その無数の目が、じっとりとスカーレットを見つめていた。
カーレットは炎を纏った拳を握りしめ、目の前の”化け物”と対峙していた。
「……随分と“見下して”くれるじゃねぇか?」
スカーレットは拳を鳴らす。
「なら、そのデカいツラごと——ぶっ飛ばしてやるよ!!」
「——ちょっと待って?」
不意に、ベリルが彼女の肩に手を置いた。
「へぇ……さっきまでの雑魚とは”格”が違うみたいね?」
ベリルは怪物を冷静に見つめながら、銃口をわずかに傾ける。
「戦闘力は高いけど、それだけじゃない……コイツ、“異質”だわ。」
「異質……?」
ノワールが静かに呟く。
彼女は黒い瞳でじっと敵を観察し——そして、ふっと細く息を吐いた
「……おそらく、”ただの力押し”じゃ通じない。」
スカーレットが眉をひそめる。
「じゃあ、どうする? お嬢様らしく慎重にやるか?」
「そういうわけじゃないけど……」
ノワールが腕を組み、鋭い視線を向ける。
「……スカーレット、一人でやるつもり?」
「当たり前だろ?」
スカーレットは不敵に笑い、拳を握りしめた。
「私が”先輩”なんだから、後輩にカッコ悪いとこ見せられねぇよな?」
「ふぅん……言うわね?」
ベリルが、微笑みながら銃を回す。
「なら、せいぜい“派手に“ やってちょうだい?」
ノワールも静かに頷く。
「……いいわ。 でも、無様に負けたら助けるわよ。」
「ハッ、心配すんな!」
スカーレットは地面を蹴り、超高速で敵の懐に飛び込む。
「ブレイジング・インパクト!!!!」
炎を纏った拳を振り抜く。
——が!!
ズガァァァン!!!!
轟音とともに拳が直撃……したはずだった。
だが——
「……は?」
スカーレットは目を見開いた。
拳が当たった”はず”の怪物の体が、一瞬だけ”歪んだ”のだ。
まるで粘土のように、拳の形に沿って歪み——
次の瞬間、拳の”衝撃”を吸収するように、ぶよん、と弾力を持って元の形に戻った。
「なっ……!?」
「スカーレット、退いて!」
ノワールの冷静な声が響く。
「グガアアアアアッ!!!!」
怪物が咆哮し、”膨れ上がる“。
——ドンッ!!!
突如、巨大な触手のような腕が高速で振り下ろされた。
スカーレットは咄嗟に腕をクロスし、防御態勢を取る。
——ズガァァァン!!!!!!
次の瞬間、スカーレットの体が地面に叩きつけられた。
「ッ……ぐッ!!」
コンクリートが砕け、彼女の体は地面にめり込む。
強烈な衝撃が全身を駆け巡る。
「クソッ……マジで……ゴリ押しが通じねぇタイプかよ……!」
スカーレットは歯を食いしばりながら、体勢を立て直す。
だが、怪物は止まらない。
「グォォォ……!!」
再び振り下ろされる触手のような腕。
スカーレットはすぐさま回避行動を取る——
が、
「ッ……ちょっ、速ッ……!!?」
怪物の攻撃は、想像以上に素早かった。
ゴオォォォッ!!!!
回避が間に合わず、スカーレットの腕をかすめるように触手が振り抜かれる。
「ぐッ……!!」
衝撃で体勢を崩し、そのまま数メートル吹き飛ばされる。
——が、
「スカーレット、バカ!! 回避しろ!!」
ベリルが叫ぶ。
「……チッ!!」
スカーレットは空中で強引に体勢を立て直し、ギリギリのところで着地した。
「ぐッ……!!」
衝撃で体勢を崩し、そのまま数メートル吹き飛ばされる。
——が、
スカーレットは空中で回転し、ギリギリのところで着地した。
「クッ……おいおい、さっきの雑魚どもとは別格じゃねぇか……!」
額から一筋の汗が流れる。
「フン……アイツ、“しぶとい”わね。」
ノワールが静かに言う。
「分析する限り、あの異常な”弾力”が厄介ね。 スカーレットの攻撃、まともに通ってない。」
「……ま、こっちには”バカの力”があるけど?」
ベリルがくすくすと笑う。
スカーレットは、荒い息を整えながら叫んだ。
「バカじゃねぇ!! これが”全力”ってやつだよ!!」
キッと前を見据え、拳に力を込めた。
「フン...!私の炎は...まだまだ燃え尽きちゃいねぇぞ!!」
スカーレットの全身に、紅蓮の炎が一気に燃え上がる。
そして——
「メガトン・インパクト!!!!!」
地面を蹴り、爆発的なスピードで敵の懐に突っ込む。
——ドゴォォォォン!!!!!!
燃え盛る拳が、怪物の”核”を貫いた。
「ガァァァァァアアッ!!!!」
——ズガァァァァァン!!!!
炎と闇がぶつかり合い、衝撃波が街を吹き飛ばす。
「——“派手”にとは言ったけど……ちょっと、派手すぎるんじゃない?」
ベリルが苦笑しながら呟く。
その言葉と同時に——
——ズズズズズ……!!!!
怪物は、断末魔のような叫びを上げながら黒い霧となって消え、跡形もなく消滅していった。
その余波で、近くのビルの壁が崩れ、瓦礫が地面に散らばる。
戦いの爪痕が、無惨に街の一角を削っていた
漆黒の影は空気に溶け、異世界の裂け目はゆっくりと閉じていった。
「……終わった?」
スカーレットは拳を握りしめたまま、深く息をつく。
彼女の拳から揺らめく炎も、徐々に消えていった。
「……っはぁ、マジで……タフな野郎だったな……」
手を見ると、指先が微かに震えていた。
(……今の一撃、ギリギリだったな。)
怪物の粘性のある体、驚異的なスピード、そして高い攻撃力。
もし少しでも判断を誤っていたら——
そんな考えが脳裏をよぎる。
「ま、よくやったんじゃない?」
ベリルがニヤリと笑う。
「……それでも、もっとスマートに戦えたんじゃない?」
ノワールが冷静に指摘する。
「ハァ!? うるせぇ!! なんとかなったからいいんだよ!!!」
「そうね、今回は“なんとかなった”けど——」
ベリルが微笑みながら視線を巡らせる。
スカーレットも周囲を見渡した。
破壊されたビル、ひび割れたアスファルト、転がる瓦礫。
さっきまで“奴ら”がいた空間には、戦いの痕跡だけが残っている。
「……ふぅん」
ノワールがカタナを収めながら、何かを見つめる。
その先には——“異形の残骸”。
「……気になるわね。なんで消えてないのかしら?」
ベリルが歩み寄り、慎重に銃を構えながら覗き込む。
「ただの残骸じゃなさそう……。」
ノワールも鋭い目つきで見つめる。
スカーレットは肩で息をしながら、それを見やり、拳を握ったまま呟いた。
「チッ……なんか、嫌な予感がするぜ。普通、敵は全部”消える”んじゃねえの?」
「——面白いわねぇ」
ベリルが指を伸ばし、残骸に触れようとした、その時——
——バシュッ!!!!
乾いた銃声が響き、“残骸”が跡形もなく消滅した。
「やれやれ....お前たち、無駄に派手に暴れたな。」
白衣の男——Dr.ラビットが、煙を燻らせた銃を持って立っていた。
「——さて、少し話をしようか。」