バッド★バニー、誕生!
——異世界の門が開いた。
ラビリントシティの夜は、静寂と混沌が交錯する。
「アビス・クリーチャーズ、複数確認。汚染レベルC〜B。」
無機質な声が、スピーカーから冷たく響く。
黒い霧の中から、異形の怪物たちが次々と現れる。
街灯の光を浴びたそいつらは、どこか”現実離れ”した形をしていた。
まるで、子供が粘土をこねて作ったような、不気味に歪んだ姿——。
スカーレット・ブリッツは、まだ混乱していた。
自分の頭に生えた”ウサギの耳”が勝手にぴょこぴょこと動いていた。
彼女は、頭を掻きながらぶつぶつと呟く。
全身がいつもより軽い気がするし、体の奥から“熱”が湧き上がってくるような違和感もある。
ふと、頭の上に何か違和感を感じて、無意識に手を伸ばす。
ピンッ。
柔らかく、しなやかな感触——。
「……ん? なんか、生えてねぇか?」
妙に馴染む感触に首を傾げたが、目の前の異形に意識を戻し、ひとまず置いておくことにした。
「…… ベリル。これ、夢? それとも、ハンバーガーにヤバいモン入ってたか?」
「夢じゃない?現実なら、もっとマシなストーリーがいいわ。」
すぐ隣で、ベリル・シュガーが冷静に怪物たちを見つめる。
彼女の指先には、小さな光の粒が舞っていた。
「フザけてるぜ、こんな“シナリオ”ゴミすぎんだろ!?」
スカーレットは悪態をつきながら周りを見渡す。
「でも、“ヒロイン”は私たちみたいね?」
ベリルの手の上では魔法陣がふわふわと舞い始め、彼女の口の端がクスッと上がる。
「どうやら”適合”したみたいだな。アビスに対抗できる”バニー因子”に。」
スカーレットとベリルが、声の方を振り向く。
「....適合?...っていうか、誰?」
「簡単に言うと、君たちはもう”バニー・バトラーズ”なんだ。」
そこには、長い白衣を翻したDr.ラビットが立っていた。
手には何やら小さなデバイスを持ち、ニヤリと笑っている。
「おめでとう。君たちは正式に”異世界の騎士”になった。」
「……バトラーズ?」
スカーレットが眉をひそめた瞬間——
(……いや待てよ。なんか“バニー”って言わなかったか?)
そう思った途端、頭の上でぴょこっと動くものがあった
「……って、ああ!? なんかさっき触ったやつ!? まさか……!?」
慌てて頭を触る。
ピンッ。
「うわ!? やっぱり生えてるじゃねぇか!!!」
驚いて飛び退いたスカーレットを、ベリルがくすくすと笑う。
「バトラーズって...ウサ耳付けて戦えってか!?こんなの、クソダサいだろ!?」
子犬のようにキャンキャンとよく吠えるスカーレット。
「そうかしら?可愛いじゃない」
そう微笑むベリルの頭にも——
「ってか、お前も生えてんじゃねぇか!!!」
「ええ、そうね。でも、私は気に入ったわ。」
ベリルは優しく自分の耳を撫でる。
「はぁ!? どこをどう気に入るんだよ!?」
スカーレットが叫ぶが、ベリルは気にする様子もなく微笑んでいる
「スカーレットも、 意外と似合ってるわよ?」
ベリルがくすっと笑う。
スカーレットは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「は、はぁ!? 似合ってるわけねぇだろ!!」
「まあまあ、文句は後にしろ。」
Dr.ラビットは軽く肩をすくめた。
「今、君たちが戦えなきゃ、“この街”が終わる。」
その言葉に、スカーレットの表情が一瞬固まる。
……街が、終わる?
ふと、彼女は遠くのビルに目をやった。
そこには、人々がいた。
買い物帰りの親子、バイクで帰宅中の会社員、深夜のコンビニに並ぶ学生たち——。
誰も、“異変”に気づいていない。
でも、確かに”世界”はおかしくなっている。
ビルの間に広がる黒い霧、這い出てくる化け物たち。
——牙を持つ影。
——不規則に動く触手。
——無数の目が、異様な光を放ちながら、少女たちを見つめている。
これが、このまま広がったら——?
「……チッ。」
スカーレットが苦々しい表情で舌打ちした。
「......まるで悪夢ね。」
ベリルはくすくすと微笑みながら、銃を指先で回す
「……ムカつくな。わかったよ、この現実を“ぶっ壊して”やりゃあいいんだろ?」
スカーレットが拳を鳴らし、足を踏み込む。
「お、理解が早いね。」
Dr.ラビットは満足そうに頷いた。
「なら、戦い方を教えてやる。」
「——跳べ、バッド★バニー!!!!」
「はぁ?跳べって、言われてもな........うわぁッ!!?」
スカーレットがやけくそになって足を踏み込むと、信じられないことが起こった。
ズガァァン!!
彼女の体が、一瞬でビルの三階分ほど跳ね上がる。
「な、なにぃ!? 重力どうなってんだ!?」
驚くスカーレットの目の前に、アビス・クリーチャーが迫る。
裂けた口から、黒い霧を吐き出して——
「——遅いわ。」
その瞬間、銀の閃光が走った。
シュパァァン!!!
ベリル・シュガーが、優雅に舞うように跳びながら、輝く魔法弾を撃ち込む。
「……へえ、かっこいいじゃん!!」
「私は”貴族”だから。戦うなら、エレガントに決めるわ。」
ニヤリと笑いながら、ベリルは銃をくるくると回す。
彼女の周りに浮かぶ無数の小さな魔法陣、それは”魔法”の力で操られていた。
「なるほどねぇ……なら、私も”派手に”行くか!!」
スカーレットが、拳を握る。
その瞬間、彼女の両手が赤い炎に包まれた。
スカーレット・ブリッツ:バニー・モード、起動!!
「——ぶっ飛べぇぇぇぇ!!!!」
ドゴォォォン!!!
燃え盛る拳が、アビス・クリーチャーの頭を砕く。
怪物の体は一瞬で”蒸発”し、黒い霧となって消えた。
「ハハッ!! こりゃあ面白ぇ!!」
スカーレットは、満面の笑みを浮かべる。
カーレットは満面の笑みを浮かべ、拳を鳴らす。
アビス・クリーチャーが一撃で蒸発する感触——自分の体に宿る”異常な力”を、はっきりと感じていた。
「これが……バニーなんちゃらの力なのか..!?」
手を広げると、炎が揺らめくように指先を這う。
スカーレットは興奮に喉を鳴らしながら、次の敵を探した。
だが——
「……ッ、後ろ!」
ベリルが叫んだ、その瞬間。
スパァァン!!
闇を裂く閃光が、一瞬でスカーレットの背後を駆け抜けた。
「……!」
振り返ると、そこに立っていたのは、フードを深くかぶった少女——ノワール・フェンリル。
彼女の頭にも、小さいウサギの耳がしっかりと主張しながら生えていた。
彼女は無表情のまま、カタナを肩に担ぎ、スカーレットを一瞥する。
「……不用意に背を向けるのは、命取りよ。」
スカーレットの背後には、真っ二つに裂かれたアビス・クリーチャーの骸。
ノワールの一撃で、一瞬で切り伏せられていた。
「なっ……!? お前、いつの間に……!?」
スカーレットが驚くより早く、ノワールは静かにカタナ振った。
刃についた黒い血が、夜の闇に溶けるように消える。
「……まったく、少しは周りを気にしたら?
スカーレットがカッと目を見開いた。
「おい、ノワール! 久しぶりに会ったってのに、一言目がそれかよ!?」
ノワールはわずかに眉を寄せ、肩をすくめる。
「なら、こう言えばよかった? “相変わらずバカね”——と。」
スカーレットがギリッと歯を食いしばる。
「……ッ、この野郎!!!」
「まぁまぁ、喧嘩は後にしなさいな?」
ベリルが微笑みながら、スカーレットの肩をポンと叩く。
「ほら、ノワールも”らしい”じゃない? こういう時だけ現れて、冷たいこと言うの。」
「……何の話?」
ノワールが眉をひそめる。
「いつも”距離”を置くクセに、ピンチの時はしっかり出てくるじゃない? そういうとこ、可愛いと思うわよ?」
「……馬鹿馬鹿しい」
ノワールは冷めた声を漏らしながらも、カタナを静かに抜く。
「……それより”アレ”、片付けるわよ。」
ズズズ……!!
視線の先には、アビス・クリーチャーズの群れ。
「フンッ、言われなくてもな!!」
スカーレットが炎を纏った拳を握る。
「そうね、狩りの時間だわ?」
ベリルがくすくすと微笑む。
「——行くぜ!」
スカーレットが真っ先に飛び込む。
——バシュッ!!!!
アビス・クリーチャーズの影が、一斉に飛びかかる。
「ブレイジング・インパクト!!!!」
スカーレットの拳が紅蓮の炎を纏い、迫る影を——ぶち抜いた。
——ドゴォォォォン!!!!
灼熱の爆風が闇を切り裂き、前線のクリーチャーたちを吹き飛ばす。
「さすがに硬いな……チッ、面倒くせぇ!」
彼女は即座に姿勢を立て直し、次の一撃を放とうとする。
——だが、その背後に、さらに別の影が迫っていた。
「……ふふっ、油断しちゃダメよ?」
——バンッ!!!!
ピンク色の閃光が夜を裂いた。
「キャンディ・エクスプロージョン!!!!」
ベリルの魔力弾が、迫っていたアビス・クリーチャーの中心で炸裂する。
——ドォォォォン!!!!
炸裂する魔力が敵を弾き飛ばし、衝撃波が辺りに広がって行く。
スカーレットが振り返ると、ベリルがくすくすと笑っていた。
「ふふっ、あなたを”守る”のも、私の役目でしょ?」
「……ヘッ、余計なお世話だ!」
スカーレットが不機嫌そうに拳を握る。
だが、その瞬間——
「——油断しすぎよ」
——シュンッ!!!!
影の中を疾走する黒い閃光。
ノワール・フェンリル。
彼女のカタナが、漆黒のオーラを纏いながら“空間そのもの”を切り裂いた。
「ブラックラビット・エンド。」
——ズバァァァァン!!!!
音もなく、アビス・クリーチャーの核が両断される。
「……まだまだ、終わらないわね」
ノワールがカタナの刃を返し、鋭い視線を向ける。
「なら、もっと”派手に”やるわよ」
スカーレットが拳を燃やす。
「楽しくなってきたわねぇ」
ベリルが微笑む。
そして——
“最初の戦い”が、幕を開けた。