Act74 謁見、そして──
8月最後の日です!皆様本当にありがとうございました!
途中で落ちてしまった日もありましたが全31話を書くことが出来ました!
明日からは通常へと戻ります!
これからもよろしくお願いします!
鳥の鳴き声で目覚めた響音は
窓から光が覗くのを確認して寝室を出る
ルノンの姿が見えない
教会の方に足を運ぶと彼女を見掛ける
「ルノ……」
話しかけようとしたが、言葉が止まる
ルノンは大きな壁画に膝をついて祈りを捧げていた
映画のワンシーンのような光景に響音は息をのむ
やがて祈りを終えたルノンは立ち上がると
静かに響音に語り掛ける
「ヒビネさんは「神」という存在をご存知ですか?」
「かみ……?」
そういえば
この世界に来てから色々な本を読んだが
「神」という単語は一切見かけなかった
「ヒビネさんはアノセがどうやって創られたかご存知ですか?」
響音はアノセから4体の精霊が産まれたこと
そのあと魔術が発展、種族が生まれ
やがて光の精霊が産まれたことを掻い摘んで説明した
「ありがとうございます、素晴らしい回答です」
「しかしそれは「アノセが出来たあと」です」
「そもそもアノセというこの星を生みだしたのは誰なのでしょうか?」
家を作る人ではなく、木を生み出した人
海を渡る人ではなく、海を生み出した人
アノセの根本を生み出したモノの話をルノンはしていた
「……この壁画に映る女性、わかりますか?」
壁画にはよく見ると女性のような姿をした
絵が描かれていた
「これ……神様?だから祈ってたの?」
「……厳密には神ではなく……神に最も近かった方だと、私たちは思っています」
たち……?
「名を、スティアノア」
──響音はその単語をようやく思い出した
ヴィクシーが見せてくれた、十ノ災厄の資料の中に出てきた人だ
「この方は人類で唯一、魔術を自身の肉体のみで使える人でした」
「しかしそれは次第に禁忌とされ、迫害され──」
「誰にも見つからずこの世を去りました」
「……」
ルノンは話終わるとこちらを向いた
……目は閉じているハズなのに、何故か緊張が走る
「ヒビネさん」
「あなた、外の世界から来ましたね?」
「……ッ!?」
響音は後ろに下がったあと警戒する
いつでも逃げれるように扉の位置を確認して
「あっ、ご、ごめんなさい、襲うつもりはないです」
「……なんでわかったの?」
「……何故「祈ってる」とわかったんですか?」
「……待って、じゃあ君は何者なんだ?」
ルノンはニコリと笑うと響音に近づいて胸に手を置く
「それはまた、次に会う時があれば話しましょう」
ブツッ─────────────
────────────────────
ネ……
ビネ……ヒビ……!
「ヒビネ!」
「……え?」
気がつくと響音は王都アヴェルニアの路地裏に座り込んでいた、目の前には──何故か候補生の9人が揃っており、ルシュは今にも泣き──いや、既に泣いていた
ルシュは響音を力強く抱きしめ胸に顔を埋める
「治癒施設にもいないし……!養成所にもいないしで……!」
「き、消えちゃったのかと思ったんだから!」
わんわん泣くルシュを遠目にキサラが
(お前も!やるんだよ!ガバって!)……と手を交差させるジェスチャーをとっていた
おそるおそるルシュの腰に手を当てる
(細……)
泣き続けるルシュを宥めたあと、全員で王都アヴェルニアへと入っていった
─────────────────────
「君たち、来たな」
王都アヴェルニアへ入るとアリシアが出迎えていた
響音はなんと12日間眠り続けてたらしく
ルシュがあれだけ泣いてたのも納得できた
「ヒビネには謝礼の言葉は後で送ろう、その前に皆には一つやって貰いたい事がある」
「サヴァン王女への謁見だ」
「!」
「厄災の討伐及び魔人の討伐、特に後者はアヴェルニア王国以来初めての快挙だ、フフ、この私でもまだ成し遂げてない事だぞ」
アリシアにしては珍しく悪戯めいた顔だった
「さ、こっちに」
謁見の間へとはいる一同、中には
王下直属部隊の隊長達が揃っていた
(……あれ?)
しかし、1人だけ見かけない姿がいた
(キサラ様がいない……?)
しばらくすると、奥から神格味のある女性が現れる
七色の髪の毛、赤い布に覆われた目元、佇まいからわかる目上の人間──もとい森人の国王
サヴァン・アヴェルニアが姿を見せた
「ようこそおいで下さいました皆様」
「アヴェルニア王国を統治者として身を預からせているサヴァン・アヴァルニアと申します」
サヴァンが頭を下げるとその場にいる全員も
膝をついて頭を下げる
「頭をおあげ下さい」
「王立機関アクロアへと入寮し、4の月が経ちました
まだ小鳥の産声の皆様だと勝手ながら思っていましたが……どうやらいつのまにか空を飛んでおりましたね」
「今までの事例にない快挙を上げてくれました
【一凪】隊長であるアリシアが作り替えた規律でしたが、良い方向に進んでいるようで感服致しました」
座っていたアリシアは立ち上がり候補生達に近づく
全盲を患う身体だが、ひとりひとり目線の高さに合わせてそれぞれ10名の顔を見る
「厄災「顔の無い獅子」の討伐、憤慨の魔人 ゴウゼンの討伐、我々アヴェルニア王国は間違いなく勝利の1歩を歩んだことでしょう」
「して……アリシア、今回一番の立役者の方は……?」
「そうですね……」
アリシアは候補生10人の顔を見つめたあと
「どうだろう皆、1人しかいないと思うが」
アリシアの顔に候補生は1人を除き全員が頷いた
「さ、ヒビネちゃん!」
キサラがヒビネの背中を押してサヴァン王女の近くまで立たせる
「厄災を討伐する作戦を考え、魔人を討伐し、挙句の果てな仲間の1人まで蘇生させた功績者です、コイツ以外ありえません」
アシュレイも響音の背中を押す
何が何だかわからない響音は流れるままに
サヴァン王女の目の前まで行く
「……貴方ですか、確かに……不思議な体をしてる」
サヴァン王女は響音の周りを1周歩くと手を差し出す
「未来の英雄よ、どうかお手を……」
美しい2本の手のひらをサヴァンは差し出す
「あ……でも手が……」
さっきまで道端で倒れていた響音の手は少し汚れていた
「かまいません、形はどうあれ努力し成果を出した人間の手です」
サヴァンは響音の手を取り強く握りしめる
強く……強く………………強く…………………………
………………
「……あ、あの?」
サヴァン王女は響音の手を離さないまま停止していた
「サヴァン様?」
様子がおかしいと感じたアリシアが2人に近寄る
その瞬間、サヴァンは響音の頬に触れる
髪の毛、肩、腕、腰──最後にもう一度手を掴み
指の一つ一つまで細かく触っていく
この時の出来事を目の前で見ていたルシュは
ルシュの体を絶え間なく触るサヴァンに対しての嫉妬が芽生えていた、しかしそれはサヴァンの放つ言葉で
全てが、ひっくり返る
「……コウ、ダイ……?」
それは、響音が閉じていた記憶の箱
それは、響音が遠ざけていた禁忌の言葉
それは、響音にとって
思い出したくもない、災いの名前
この時の様子をアシュレイはこう言った
あれは、普通の人間がする行動ではなかった
自分の腕を切り裂こうとしていた、頭から流れる血が止まらなかった
誰の手も取らなかった、あのルシュでさえも
人間が出す声ではなかった、喉を壊すために出すような金属のような甲高い声、喉を掻きむしって全てを否定してた
ごめんなさい、もうしません、許してください
いい子にします、逆らいません、助けてください
お願いします
ずっと、ずっと小さい体のヒビネが更に小さく蹲りながら
部屋の端っこで震え上がっていった
どうしてこうなったのか、何故ここまで怯えているのか
ヒビネの体にあった傷がなぜ開いているのか
やがて響音は静かになった、まるで死んだように
目を腫らしながら失神していた
目を開けられたまま横になる響音の顔を見てルシュは
「……初めて会った日と同じだ………………」
そう呟きながらずっとヒビネの手を取りながら泣いていた
コウダイ
響音が最後に聞いたこの言葉は──
響音にとって最大のタブーである存在
響音の体を、心を壊した父親
『神阿 光大』と同じ呼び名なのであった
影はどれだけ歩いても消えることは無い
割れたガラスは絶対に元に戻らない
どんなに、幸せな瞬間を過ごそうとも
必ず恐怖は貴方を覚え、襲いかかる
傷まみれの旅人 第三章
【中級警戒区域合宿編】 閉幕