Act71風、流れるその日に
「何だ、この魔獣の数は!キリがないぞ!」
響音とキリナ、そしてレアがいるであろう岩場の洞窟前はおびただしい数の魔獣が出現していた
「な、何よコレ!無駄に硬い魔獣ばっかよ!」
エクレアの魔術でも一撃で倒せない魔獣が多くはびこる
「クソっ、俺が、倒れてさえいなけりゃ……」
ネカリがそう呟いた時、大きな地震が起きた
その地震と共に、魔獣達は逃げ去る
「なんだ……?」
さらに大きい地震が──
ドゴォォォォォォォン!!!!!
目の前の洞窟──があったはずの岩場がゴッソリと削られており
その先にあった森の木々も、逃げ遅れた魔獣まで巻き込んでいた
洞窟からシュバッと風を切る音が聴こえた
「……!あの悪魔は前に会ったっていう」
キサラが目を光らせる
が、その後にルシュが先に異変に気づく
「…………ヒビネ?」
飛び去ったキュララの背中に、響音が立っていた
バチッ、と赤紫の光が出ると、響音が墜落した
「あっ!?、おっ、落ちますよ!?」
レセナが慌てて伝える
真っ先に動いたのはリクだった
響音が落ちる場所を予測し走る、キュッと停止して身体を少しだけ下げ、膝に力を入れる
ドンッ、と上から落ちてきた響音を受け止める
「……これは」
真っ黒な左腕と赤紫に輝く右腕
異様な姿をした響音の周りに皆が集まる
「何……これ?どうなってるの?」
エクレアが響音の腕に触れようとする
「触るなッ!!!!!!」
ネカリがこれでもかと言う大きな声でエクレアを止める
ビクゥとなったエクレアは涙目になってレセナに抱きつく
「……リク、そのままヒビネを下ろせ……」
「なんだこれは…………なんだこの魔力は……?」
倒れ目をつぶっていた響音はバチリと目を開ける
そして何事も無かった様に立つと
候補生たちの顔をひとりひとり見る
「ヒビネ……?」
アシュレイがヒビネの顔の前で手を振るが
「れあ……」
「レア……?……あ、レア様は!?」
ヴィクシーは洞窟の方に目を配ると
響音が既に走り出していた
響音は壊れた洞窟の中へ入り
黒く焦げたレアの死体の前で膝を崩した
近くでは、キリナも座り込んでいた
「私は……何も……なにも」
キリナはブツブツと独り言を発していた
追いついた候補生達が、その惨状を目の当たりにする
「………………え」
キサラは──焼死体を見て、わかってしまった
「レア……じゃないよね?ヒビネ?」
「……………………………………………………ごめん」
「……ハハッ……はっ……あっ、あああ……」
キサラの目に涙が浮かぶ
それは大きな粒となりレアの体に流れる
「うっ、そんな……レアっ……レア……ぁ!」
候補生の女性たちは涙を流し、男達は耐えていた
しかし──アランの目からは流れ落ちていた
「クソッ……」
──皆が涙を流す中、ヴィクシーのポケットが揺れる
「……?」
ヴィクシーはポケットを探ると──緑色の宝石が
宙にとびだす
それは──『顔の無い獅子』の死体調査をしている時に拾ったものであった
緑色の宝石は光を発しながら……レアの体の上で止まる
燦々と輝く宝石はその場をくるくると回っている
響音は──その宝石に触れる
──響音の脳内に映像が流れる
海の中──何かを着て泳ぐ人々の姿
暗い道を歩き、ガラスを指さし笑う子供の姿
魚が……美しく泳ぐその姿
『私を解放してくれてありがとう』
その言葉が頭を駆け抜け──
『お礼に私の心臓を使って』
緑の宝石をレアの心臓の部分にはめ込む
焼けこげたレアの身体を緑色の優しい風が包む
レアの体は浮かび、いくつもの風が重なって響音の腕の中に収まる
やがて──風が解け、そこには
緑色の髪の毛に変化した、レアの体が出てくる
しばらくすると、ゆっくりとレアは目を開ける
響音と目がしっかり合った
「……あれ、私……」
響音は澄んだ涙を流した
奇跡だ──本当の奇跡が今起きた
「レア……っ……!」
レアは下へと目を向ける
そこには、少し膨らんだ2つの山が──
「えっ……あっ、ああっ……!」
「ひゃあああああああっ///!!!」
バシーン!
響音の頬に赤色の紅葉が映る
──中級警戒海域より簡易報告有り
『顔の無い獅子』討伐 犠牲者 0
魔人 ゴウゼン 討伐 犠牲者 1 レア・エバルタ
──追加事項有り
レア・エバルタ、『顔の無い獅子』のコアを取り込み
生命活動を再開しました