Act 70 〇〇〇〇
ゴミだらけの部屋 鎖とバット 響音の部屋
死ぬ直前になると昔の思い出が頭に浮かぶ「走馬灯」
響音は先生に教わっていた
「……」
部屋の真ん中で響音は座り込んでいた
手と腹部に穴が開き血が流れている
しかし何故か苦しいという感情はなく
むしろ気持ちの良い感覚になっていた
「っと」
目の前に男がいつの間にか座っていた
響音は前を向くが、男の顔は影が濃くよく見えない
「奪え」
男の短い言葉に、響音は戸惑う
「弱いから奪われるんだ」
言葉の意味を理解できない響音だが
響音の頭に痛みが走る──
「だれ……だ……?」
「めんどくせぇな、ごちゃごちゃ言うな」
男は立ち上がる
響音も何故か立ち上がっていた
男は、響音の首をつかみ、ゆっくりと──絞める
「あ……がっ」
響音は抵抗しようとするが、手が動かない
「苦しいだろう、理不尽だろう」
「辛いだろう、泣きたいだろう」
男はニヤニヤとしながら首を絞める
その力はさらに強くなる
「痛いだろう、怒りたいだろう」
「殺したいだろう、殺したいだろう、殺したいだろ!」
男は首を離すと響音を蹴り飛ばす
いつの間にか響音の後ろは奈落に変化しており
響音はそのままゆっくりと落下していく
「奪われる側になるな、奪う側になれ」
「最初で最後の俺からの手向けの言葉だ、よく聞け」
男は自分で──自分の首を締めた
「流れる魔力を奪え、奪った魔力を利用しろ」
「耐えなく奪え、奪い続けろ」
「あとはてめぇでなんとかしろ」
響音は体を動かし、頭から落ちる
自分自身の首を持つ
「──そうだ、それでいい」
男は塵となって消えた、落ち続け闇だけとなった
響音は目を開く、目の前に小さな──自分がいる
泣いてる、体は傷まみれだ
響音は、自分を優しく包む
よく頑張ったね、辛かったね
世界は光る 白の光に包まれる
さぁ─────────────
────────────────────
洞窟──
体が痛い、声が出づらい、焦げ臭い、尿臭い
「あっ♡気づいた?ヒビネ──」
殺そう
響音は自分の首を強く絞める
紫色の光が響音の周りを包む
腕に浮かぶ紋様はやがて赤と紫が混ざりあった色になる
響音の目はギラギラと光る
右腕は絶えず輝く赤紫の光 どろどろした光を放つ
左手は手が黒く染まる、黒より深い黒、漆黒
「……ぇ、なにこれ………………ッ!?」
キュララは今まで感じたことの無い恐怖を読み取り
大きく後ろに下がる
「あ?なんだ、オイ──」
立ちながら油断しているゴウゼンの首を左手で掴む
響音の黒い手は、ゴウゼンの首から舌を闇で包む
「……!!?ォィなんだよ、こ──グ!?」
ゴウゼンは白目を向き苦しみの声を上げる
響音が左手を離すとそのまま膝から崩れ落ち
泡を吹きながら倒れる
「……!!……!!?……!!!!?」
言葉を発せなくなったゴウゼンに跨ると
響音はゆっくと右手を上げる
その異様なオーラに倒れていたキリナが目を覚ます
「な、なんスかこれ……ヒッ!」
キリナは──
この時の響音の様子をこう語った
あれはまるで──おとぎ話に出てくる
悪魔のようだ、と
響音の右腕がゴウゼンの顎を打ち砕き
そのまま頭を吹き飛ばす、洞窟は大きく揺れ
天井の石が砕け、落ちる
「ガハアッ!オイ!ちょっとまて、オ──」
ゴウゼンの頭が再生したと同時に
響音は頭を引きちぎる──
その後何度も再生するゴウゼンの頭を潰してちぎり
ひねり、まげて、目玉を引き抜く
ぐちゃ ぐちゃ、びしゃ ずちゃ ぶち
頭だけでは止まらず手の指を、歯を、胸を壊し尽くす
それはもう戦いではなく──
ただの蹂躙だった
再生が遅れるゴウゼン、顔は半分しかなく──
「ゆ、ゆるし」
「死ね」
最後の一撃を首元に叩き込み
巨大な赤紫の魔力が爆発する
その一撃で──洞窟、及び前方の大木まで
全てが粉々になっており、空から灼熱の太陽が顔を出すな
ゴウゼンの体は、完全に動かなくなっており
再生が始まることは無かった
立ち上がる響音はキュララを見る
「ひ……」
キュララは翼を広げ、行先も決めずに飛び立った
(まずい……まずいまずいまずい……!)
(何……?あの力……!ゴウゼンが手も足も……!)
とにかく速さが許す限りの速度で空を飛ぶ
「と、とにかく王に報告を──」
「おい」
その短い言葉に、キュララは凍りつく
背中に──彼が乗っている
響音はキュララの左翼を握りしめる
「ヒギャアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
神経を直接握りつぶされたような感覚をキュララは喰らう
響音はそのままブチィとキュララの翼をもぎ取る
「ッ─────────────!」
キュララは苦しみながら氷魔術を展開し響音を振り落とす
流石にそのまま響音は落ちて行く──
「次はもう片方、お前に食わせて殺す」
そう言い残し、消えていった
──ついに賽は投げられた
これから向かうのは正義か、悪か──
Act 70
強 奪 魔 術
あとは、破滅に進むだけです