Act68 散る花びら、快楽の狂気
【閲覧注意】うけいれろ
おとぎ話だと思ってた
突然村に悪い人が来て、全員殺しちゃうとか
悲惨な物語の主人公だなーって
かわいそうだなーって
だからこそあの日、私は
何も出来ずにただ、燃え盛る村を見てるしか無かった
ネカリは隣に住んでる子だった
隣人同士だから仲良くねって母には言われてたけど
自分より5つも違うとやっぱ会話も合わなくて……
でも、どこからか拾ってきた本がきっかけで
少しずつ仲良くなれた気がしてた
文字が読めないけど、「拳」と「剣」を使った技?
のようなものが描かれていた
この「剣」もよくわからない、片側にしか刃がない
見よう見まねで林の中でいつもふたりで鍛錬をしてた
そんな事を3年くらい続けてた
ある日いつものようにふたりで鍛錬して帰っていた
──焦げ臭い匂いがした、村の方からした
帰った時には、もう家と呼べるものは無かった
村でいちばん高い場所にひとつの大きな影があった
体が炎に包まれていた、よく見ると巨大な人型だった
赤い目をしていた
私は咄嗟にネカリの口を塞いで隠れた
殺される 直感で感じた
しばらく経ったあと、巨大な魔力の渦が消え去った
顔を出した時には、黒く染まり、焦げた家と人が、並んでいた
家に帰った、多分、母だったものは手を掴むとパラパラ崩れた
ネカリが泣いていた、大声で泣いていた
体から水分が全て無くなるまで泣いてた
向かいの家の人、子供が産まれるって言ってた
穴が空いていた、ご丁寧に狙ったんだろう
私はというと、泣いていなかった
それよりも頭の中はただひとつの感情でいっぱいだった
「殺す」
ただ、それだけ
────────────────────
誘拐されたレアの安否の確認をしなければ
まずは様子を見なければ、ヒビネは特殊な力を持っているが正直、役には立たないだろう
私は王下直属部隊に選ばれた
鍛錬を積み重ね続けた
アリシアに話しかけられた時は驚いた
王下直属部隊なんて、歳食ってる人間だけの巣窟だと
「全てを変えたい」って生意気なこと言われて
軽く言いやがって、と軽くあしらうつもりだった
──本物、だった
手合わせを願いたいと言われたから
仕方なく付き合った、正直負ける気はしなかった
一瞬だった、しかもアリシアも剣は抜いてない
純粋な身体勝負で手も足も出なかった
冗談じゃないとわかった
だから私は着いていった
冷静にならないとダメだ、相手は魔人が2体
でも──
気づけば私はこの男を殴り飛ばしていた
「……うわぁ、いったそ〜」
報告書にあったキュララという魔人の見た目と一致している、今日はシェンドと呼ばれた魔人はいないようだ
「キサラさん、1度落ち着きましょう」
「……はっ」
響音はキサラの服を掴んで止める
キサラも釘を刺された様に正気に戻る
「さて……キュララ?さんですか?」
「えっ♡私の名前知ってるの?嬉しい〜!♡」
「こっちおいでよ、キモチィことしてあげるよ?♡」
キュララは自分の胸を掴みながら響音を手招く
「……その子を解放してください」
「ちょっと〜こんな可愛い子が誘ってるのに♡」
キュララの目が赤く揺れる
虹彩の色は桃色に変わり、さらに大きく揺れ動く
「……」
「……あれぇ」
キュララの言動は響音には一切響かない
そもそも響音は誘惑されてることさえ気づいてない
キュララは今【魅了魔術】《ラヴァー》を使った
簡潔にいえば男を隷属させる魔術である
「……こないだのお兄さんといい、あなたと言い……」
「……何を、したかわからないけど、時期に皆が来る、その子を解放すれば、まだ……」
「……キャハハッ!そんなの対策してるに決まってるじゃん♡おばかさんだね〜♡♡♡」
「なっ……」
響音たちの後ろから崩れる音がする
入口を破壊されている
「あははははははははははははっ!ほんとにバカだね!少し待って入ってくればまだ良かったのに!2人で来ちゃうなんてさ!」
「ゴウゼン!」
「あい呼ばれたり!!!!【双炎掌波】《デュアルファルデ》!!!!!!!!オイ!!!!」
キリナが吹き飛ばしたはずの瓦礫の中から
巨大な炎が飛び出す
「ヒビネッ!」
ヒビネを庇ったキリナは炎に直撃し、倒れる
「キリナさ……」
声が出る前にキュララは響音の鳩尾を正確に蹴り飛ばす
壁にぶつけられると同時に氷魔術を放つ
響音の手足に氷柱が刺さり、出血と共に動けなくなる
「あ"っヅ……!?」
「ヒビネさんっ……!」
「もしかしてさぁ♡あのざこシェンドを見て『倒せるかも』って思った?♡」
「キャハハハハハハハハハハ!あのねぇ、シェンドはまだ産まれたばっかりなの!キュララとそこのむさ苦しい男はね♡君達の倍の倍は生きてるんだゾ♡♡♡」
「っ……ぁ」
身体に激痛が走り、会話もままならない
キリナは沈黙し、ゴウゼンは何事も無いようにしていた
「一撃は良かったなぁ!オイ!」
「……君がヒビネかぁ……♡♡♡」
キュララは動けないヒビネに近づくと口から流れる
血をペロリと舐める
「!!?!?!?」
キュララは一瞬で顔が赤く染まる
全身が痙攣し、涙を流す
「なにこぉれぇ……美味しすぎりゅ……!♡」
その時のキュララの顔は──忘れられない
可愛げのあるその顔は、まるで口が裂けた悪魔のうな笑みを浮かべた
「そっかぁー♡そっかぁー♡君が……君がァ!」
キュララは狂ったように笑いながら倒れていたレアの髪の毛を掴んで無理矢理立たせる
「じゃあもっと……!もっと美味しくなるんだぁ♡♡♡」
ドスッ──ぐちゃり──
それは、あまりにも一瞬の出来事だった
無理やり立たされたレアの胸から──手がでてきた
赤く染ったその手は大きく動くと、そのまま引き抜かれる
血に染った──キュララの右手、それをベローっと舐める
初めて高級な食事をした時のような目の輝き
しかしそう表現するには、あまりにも悲惨すぎる現実
「ぁ……」
その小さな体は力なく倒れる
倒れた体を、真紅の水が包んだ