Act65 嵐の後は
響音ーっ!
ゆらり、ゆらりと体が揺れる
じんわりと心地よい感覚が身体に流れる
生きてる──?
視界を開くと短い髪の毛が見えた
少しチクチクする
「……起きたか?」
アランの声 その声は少し──いやかなり悲しみを帯びているかもしれない
「…………戻ってきてくれたなら、それでいい」
隣に歩くルシュがこっそり耳打ちをしてきた
(ずっと泣いてたんだよ、ずっと「行けばよかった」って)
「……ごめんね、アラン」
砂浜を歩く足音が少しだけ遅くなり、また元に戻る
アランはおぶっている響音をもう一度直すと響音のお尻を軽く叩いた
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「戻ったぞ!ヒビネちゃん、無事だった!」
キサラが王下直属部隊のメンバーに話しかける
ヴィクシーが真っ先に駆け寄り、響音の顔を見るやいな
安堵した顔と同時に頭を下げた
「ヒビネ君──申し訳ございませんでした」
「私は──ヒビネ君と引替えの厄災討伐ならば……
利点が大きいと……1人の犠牲なら……仕方ないと……」
ヴィクシーの顔は見えないが、それでもわかるくらい後悔の念と焦りが見えた
それでも響音自体は「何一つ気にしていなかった」
「……?よくわからないですけど……大丈夫です」
地面に降ろされた響音は、ふらつきながらも自立することが出来た
「ヴィクシーもういい下がれ……さて、ヒビネ」
デルガリヒは響音の方を強く掴む
「──良くやった、君はとんでもない事を成し遂げた」
「君は犠牲0で厄災を打ち破った、これはとんでもない事なんだ、過去の文献──アリシアの際の討伐戦でも犠牲者は出ていた……しかし、無犠牲は人類初めてだ」
デルガリヒは嬉しい反面、危うい事を伝えた
「──だからこそ今後、君は色々な事に巻き込まれる可能性があるかもしれない」
「厄災級の討伐……覚えているか?王下直属部隊に入る条件だ、君はそれを約半年で達成した」
「君の存在が公になった時、貴族や他の大陸にまで君の噂は流れるはずだ……それは覚悟して欲しい」
デルガリヒはそう言うと、肩から手を離す
「……さて、ヒビネ、私たちから話すことが3つある」
「まずひとつ、『顔の無い獅子』は完全に討伐された、明日、アリシアとローガン様がこちらに来るだろう」
「入れ替わりで俺とカマリは王都へ戻る」
「ふたつめ、被害者は0、管理者の人も無事だ、メンバーの中にも大きな怪我人はいない」
「……そして最後、これが……かなり深刻なんだが」
デルガリヒは苦渋の顔で響音を見て伝える
「……君達の仲間であるレア・エバルタが……行方不明になった」
「…………え?」
嵐は過ぎ去った、陽は差すと思った
──待っていたのは新たな絶望の火蓋だった
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「……本当に助けないんですか?」
「ええ、私はあの子には興味あるけどそれ以外の人は興味無いもの」
「……わかりました、貴方がそう言うなら」
「……さぁ響音君、貴方はどうやってお姫様を助けるのでしょう?」
車椅子の少女は不敵な笑みでその場を去ったのであった