Act60 十ノ厄災『顔の無い獅子』
「恐らくこの厄災は『顔の無い獅子』だと思われます」
ヴィクシーが腰のカバンから1冊の書記を取り出す
「スティアの書」と表紙を飾った20ページ程しかない
ただ、紙の1枚がやや大きめの本だ
「実物の中身を写したものですが……この本には「十の厄災」についてが書かれています」
「本当は全ての厄災をこの10日間で教える予定でしたが今は1番関係が近い厄災を話します」
──『顔のない獅子』
アノセ四大国家設立時すぐの時
海面から顔面に穴の空き、鬣を靡かせた獅子のような生命体がわずか5秒だけ上陸した
その一瞬で顔面の直線上にあった森の木が全て吹き飛ばされ、避難先にいた村の住民全員が風に打ち付けられて死亡していた
それ以来固有名『顔の無い獅子』として存在している
「たったの5秒で……」
「今現在、姿は見えませんがもしも姿が見えたら「こうなる確率」はゼロじゃありません……急いで脱出したい所ですが」
話してる間にもメリメリと建物が剥がされる音がする
「……私が水魔術で壁を作ります、どうせ死ぬならば動きましょう」
「【水流障壁】《ミアージス》」
「……全員を囲みながらとなると魔力の消費が多いです、さぁ……!」
全員を水流で囲みながら宿の裏にある森まで走る
この森の中なら来る途中に岩場があったはず、と
デルガリヒが先導する──
しかし、待っていたのは絶望的な壁であった
「……クソッ」
空間を切り裂くように横に流れる風
先が全く見えない風の壁にデルガリヒは拳銃を向け撃つ
弾丸は風の流れに任されながら恐ろしい速さで飛ぶ
「……」
苦虫を噛み潰したような顔で肩を落とす
……横をトコトコ響音が歩き、風の中に手を迷いなく突っ込んだ
わかってはいたが、響音の身体がグンッと右に動いた
アランが汗だらけになりながら響音の体を引っ張る
「バカ!」
「ご、ごめん……あっ」
響音の右手が、ありえないことになっている
曲がっては行けない方向に小指が曲がり、中指が消失していた
「ヒッ」
レアが小さく悲鳴をあげる
しかし響音の右手はまた元通りになっていく──が
「あれ……」
中指が再生されない
「ちょっと……!?」
エクレアが今にも倒れそうな顔で叫ぶ
──たまたま運良く消失した中指が
響音の下に落ちていた
……今回だけね
どこからか声が聞こえ、中指を拾い上げてくっつける
「お、なおった」
「ビビネ……」
今にも泣きそうかルシュが響音の手を掴む
「あっ……!ごめん、ごめんね」
いつものような光景に養成所候補生は笑うが
今いるこの状況はどうにもならない
響音がチラリ、とアランを見る
その後レセナの水流を見て──
ヴィクシーとカマリを見る
「……?」
「……周りには風があって、外には出れない……」
「水中……温度……」
「…………ミノル先生……」
響音がブツブツと喋ると意を決し全員に顔を向ける
「皆」
「『顔の無い獅子』倒そう」