Act58 それは、あまりにも突然な
15日目、ギリギリでごめんなさい!
「すぐさま帰還せよ」
ワロウスを手にしたデルガリヒから放たれた一言だった
2日目の授業が終わったあと、少し激しい風の中金色の鳥が飛んできたところでその話になった
養成所メンバーは意味がわからないまま荷物をまとめている──が
アリシア様が言うならば何か意図があるのだろうと全員が思っていた
響音とアシュレイを除いては
この帰ることになったのは間違いなく
先日あった出来事が影響している事だった
万が一の事を加味してアヴェルニア王国へ帰還する
これがアリシアの決定だった
しかし、厄介事は重なるようで
不吉なる風が宿の外を回っているのだった
「……風、ほんとにすごいね」
ガタガタと音を鳴らす窓をルシュが不安そうに見ていた
「……海辺だから、風が強いのかも」
「えっ、そうなの?」
「海の温度が高いと、風が強くなる……って教えてもらったことがある」
「へーっ」
ミノル先生が何となく教えてくれた
だから日本の南側から台風が来る……みたいな
「全員、今日はもう休んで明朝に帰宅する」
「寝床の鍵はしっかりと閉めておくように」
デルガリヒのいつもより強い口調を前に
候補生全員は夕飯を食べて床についた
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──響音達が宿泊している場所より少し離れた村
「パパ、あれなぁに?」
「ん?」
とある家族の子供が指さした先には
空から筒状に降っている──巨大な雨だった
「……何だ、あれ。中級海域方面じゃねぇか?」
その1箇所だけに国中の雲が集まっているのではと思うくらいの雲が響音達の宿を包んでいたのだった……
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ガダガダガダガダガダガダ パリン!
「ッ……?」
明らかに違和感のある揺れで響音は目を覚ます
間違ってなければガラスが破壊した音も聞こえた
──異常だ
共に睡眠している男性陣達もその異質さに目を覚ます
「……おいおい、いくら古い宿だからって、壊れることあるか?」
アランが窓の外を見る
窓から見た景色……さらなる違和感があった
「…………暗すぎじゃないだろうか」
アシュレイが外をよく見ると、月が見えない
それどころか目の前すらも霞むような闇だ
「痛ヅッ……」
「……ネカリ?」
ネカリが急な頭痛に膝を崩す、リクと響音が肩を貸すが
頭の痛みは恐ろしい程に増える
「これっ……まずい……ね……何か……何か……いる」
そう言うとネカリは震える手で海の方向を指さす
「魔人……なんて比べ物にならない……これは……!」
ドガァァァァァァアン!!!!!!
劈くような音が宿内に響く
廊下からバタバタと足音が聞こえる
「皆!起きるッス!、宿が……!」
キリナが部屋に入ってきた、しかし
今にも『飛ばされそうな』雰囲気だった
「宿が半壊したッス!角部屋に避難するっすよ!」
そう伝え、ネカリを担ぎながら角部屋に向かう
幸い角部屋方面はま被害はでていなかったが
リビング側の入口は大穴が空いていた
「これ、全部風で……?」
角部屋へ到着した候補生達はその部屋に女性陣と隊長陣営全員が居ることを確認した
「ヒビネ!良かった……」
ルシュが響音に近づき体のあちこちを触る
「怪我、ない?」
「大丈夫……それよりもネカリが……」
ネカリを横にさせる
あれは……あれは……と呟きながら苦しそうにしていた
そこからもう一度扉が開く
そこには……青ざめた顔のヴィクシーが立っていた
「どうだった、ヴィクシー……あれは」
「──落ち着いて聞いてください」
ヴィクシーはいつもの優しい声ではなく
恐怖が入り交じった声でその場にいる全員に語る
「──厄災です、厄災が現れました」
場が凍りつく、その場にいる全員が息を忘れる
「……【厄災級】」
「禁忌指定 《大海穿つ顔の無い獅子》の出現を確認」
「このままでは、全員死にます」