Act54 ヴィクシーの気持ち
11日目!間に合った!
「なぜこの子を合格させるんですか?」
ヴィクシーは王立試験最終日の夜
アリシアにこの質問を投げかけた
「なぜ、とは?」
アリシアの逆の問いかけにヴィクシーは縮こまる
「あ、いえ……」
「いや、別に気に障る訳ではない、恐らく100人の人間がいたら100人は疑問を持つからね」
「率直な意見が聞きたい」
「……試験を通して思いましたが、この子はまず基礎がなっていない……という問題ではありません『常識が通用しない』」
「……かと思えば、オルト様を一撃で戦闘不可能状態まで持っていく謎の魔術」
「それでも普通に日常に溶け込んでいる……裏表の無い性格」
「最終日、アシュレイ様やレセナ様……アランとも、キサラともルシュちゃんとも仲良さそうで」
「……なにかのトリガーで自分が戦意喪失するかもしれない、と、私なら……」
ヴィクシーはそこまで語ると目をつぶる
やがて纏まったようにまた口を開く
「……おそらく私は、あの子が怖いのです」
「なるほどね」
アリシアはヴィクシーに体を向ける
「それはね、私も一緒なんです、ヴィクシー様」
「え……」
「ヴィクシー様、前にあった熊型魔獣が2体出現したのを覚えてますか?」
「ええ、私が行こうとしましたが……アリシア様が行ったものですよね?」
「実は、その時私はヒビネと会っているんです」
「!それは……」
忘れもしないアヴェルニア城下町で起きた事件
魔獣を吹き飛ばし、ルシュを守った……
「もっと怖いことを言いますね、ヴィクシー様
あの日、あの子の腕は骨が見えるほどボロボロでした
だけど……すぐに腕の回復が始まったんです」
「……!?ど、どういうことですか!?」
「言葉通りですよ、『回復を始めた』のです
私は治癒魔術も使ってません、えぐれた腕の骨が、皮膚が、肉が全て戻ったんです『攻撃を喰らってない』かのようでした」
「……」
ヴィクシーはバケモノでも見るような目で唖然とした
「……思ったんです、このまま放置していて万が一、邪な考えをする輩に見つかったら?」
傷ついた体が勝手に修復される魔術──かはわからない
だがそれがもし、実験として使われたら?
「だから送ったんですよ、招待状」
「……ッ!?ハイッ!?」
今まででいちばん大きな声をヴィクシーは出す
「わわわ、渡したんですか!?アリシアが!?誰にも渡さないって言ってましたよね!?」
そう叫ぶやいなや、アリシアに金色の首輪をつけたワロウスが飛んでくる
アリシアは文書を読むと動く支度をする
「ちょ、ちょっと待ってください!なんで……」
「私を殺せる可能性があるかもしれなかったからだ」
それだけ言うとアリシアは去った、顔が真っ青なヴィクシーを残して……
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「はい!ヒビネとルシュ、キサラとリクは終了!
水分取って宿まで一回戻って!」
「はぁー疲れたね、はいヒビネ」
ルシュが響音に冷えてる水を渡す
「ありがとう、ルシュ……」
「ほらほらーリクちゃんも飲みなほらほらほらほらほらほら」
「やめろ……」
リクの頬にしつこく水を当て、やがてキサラから水を奪い取るとそのまま宿に向かう
「ていうか、ヒビネちゃんもルシュちゃんもよく私とリクに着いてきたねー、自分で言うのもなんだけど、私とリクって体力おばけだからさー」
「うーん、私もよくわかってないんだよね、なんでだろ」
「おそらく、無意識下で自分の筋肉の動きを調整出来ているんですよ」
会話を聞いていたヴィクシーがルシュの頭を撫でる
「リクさんとキサラさんは……おそらく無地蔵の体力があるので100の力で100を出してます」
「対してヒビネさんとルシュさんは、体力がない代わりにどこをどう動かせば、最小の力で100を出せるかが無意識にわかってるんだと思いますよ」
ヴィクシーはじっ……と響音を見つめる
瞬きもしないその目に響音は少し距離をとる
「あ、あの……なにか?」
色々と考えた末に
「ヒビネ……さん、楽しいですか?養成所……」
ヴィクシーの質問にルシュとキサラの目が丸くなる
ヒビネは特に考えず──
「……多分、たのしい、んだと思います」
「そうですか」
なら良かった──と、ヴィクシーは思う
まだもう少しだけ、見守っていこうと決意した