Act52 嵐の前の日常
9日目、いよいよ三章開幕します。
よろしくお願いします
魔族とは人類の敵
魔族とは親の仇
魔族とはこの世に存在してはいけないもの
「しかし、これは歴史とは異なるものだ」
そこには一際赤い目を輝かせた男が立っていた
「我々魔族は、元々普通の生き物だった、人間だった」
「しかし人間たちの非道なる行いにより──」
「我々魔族は望まぬ誕生をしてしまった」
男の前には6人の影──
語る男に敬意を評するが如く頭を垂れている
「諸君、準備は整った」
「ついに全ての我が魂から同胞を復活させる事が出来た」
「悲哀 愉悦 憤慨 快楽 畏怖 誠実」
「6人の我が魂たちよ」
「始めよう、これは復讐ではなく──」
「本来の形に戻る為の、戦いであると!」
男の鼓舞と共にその場にいた6人の魔人──
否、おびただしい量の魔獣達が巨大な嘶きを上げる
「その時までしばし身体を休めよ」
王たる魔人はその場から音なく消え去った
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「ざこシェンド、どこいくの?♡」
快楽の魔人 キュララ 先のキサセイ村の戦いに現れた
女型の魔人であった
「鍛錬だ」
誠実の魔人 シェンド 彼は先の戦いで大敗を得た
「鍛錬ねぇ♡魔人なんだから魔術を使いなよ、だからこの前だってすぐ負けたんでしょ?ざぁこ♡」
シェンドが止まる、ゆっくりとキュララに顔を向ける
「あ、怒った?♡」
「そういえば……あの時は激昂していて伝えそびれたが」
「助けてくれて感謝する、憤慨の所にも行かないとな」
シェンドは両手を合わせ頭を深く下げると
そのまま歩いていった
「……」
「いい子だよね、あの子」
キュララと同じく女型の魔人が姿を現した
「みょんちゃん……」
みょんちゃん、と呼ばれた魔人は
畏怖の魔人 ミョラ
ロングヘアの片目が隠れた女性だ
「誠実から作られた子だよね」
「ありがとうなんて、しばらく聞かないよね」
「そうだよね?私もそう思う!」
「私とは大違いだよね」
「私なんてみんなからゴミみたいな目で見られて」
「みょんちゃん、落ち着いて、ね?」
キュララがミョラの耳を塞いで落ち着かせる
「…………ララか、どうした?」
明らかに人が変わった
「いや?なんでもないよ、ゴハン食べ行こ♡」
「新鮮なのある場所、知ってるからさ」
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暑い
いや本当に暑い、厳しい!
「アシュレイ……もうちょっとだけ……魔力を……」
「無茶ゆうな、もうかれこれ1時間はこのままだぞ」
養成所のリビング、ソファに座る候補生達
男は(※響音とリクを除いて)アシュレイの近くに張りつく
アシュレイが常に氷魔術を霧状に漂わせてるのだ
「ちょっと貴族なんだろ?もう少し頑張れって」
「こういう時だけ貴族を出すな、ヒビネとリクを見習え!」
ヒビネは書斎にある本で知識を蓄え
リクは手元で正方形の結晶使って何かをしている
「……リク様、それは何を?」
気になったレセナがリクに話しかける
ただ、リクは喋ることなく黙々と何かをして……
正方形の結晶を真ん中に穴を開ける、そこから引き伸ばし
ひも状の輪っかの形に変える、輪っかに手を添え
青い光と共に3個ほど、ネックレスのような物が出来た
ひとつのネックレスをリクはレセナの首にかける
突然の事に驚いたレセナは表情が固まる
周りの人もギョッとなる
「そ、こん、、急にこんな……あら?」
「涼しい……?」
「なん……だと……!?」
アランが残ってるネックレスを首にかける
しばらくすると、ネックレスから冷気が発現する
「うおおおおおおお!!!!!!」
アランが発狂する中、玄関からキリナが顔を出す
「こんちゃ〜って、どうしたンすか?」
候補生達は、しばらく「冷気ネックレス」に夢中だった
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「え〜というわけで、本日は皆さんにお知らせです」
「超重要な話なのでしっかり聞くッスよ」
キリナは全員に書類を渡すとタイトルを読み上げる
「皆さんには明日より『中級警戒海域』近くの宿で合宿をして貰います」
それは、夏の追憶となる候補生たちの
長いようで短い十日間になるのだった